第10話 至上命令

「えーっと、聞き間違いかしら?今あなたひょっとして……『私と戦う』って言ったの?」


あり得ない言葉に、ちょっと驚かされる。

私は聞き間違えたかとも思い、聞き直す。


「聞き間違えてはいませんよ。ハッキリと言いました。マスターを害すのなら、女神ンディアあなたと戦うと」


どうやら聞き間違いではなかった様だ。


解せないわね……


リリアは私の魂の一部を分け与え、生み出した下僕だ。

当然、命令には逆らえない様にしてある。

にもかかわらず、彼女は私と戦うなどどとのたまう。


これは普通では考えられない事だけど……


まあいいわ。

何を口にしていようと、要は強制すればいいだけだしね。


「リリア、これは命令よ。従いなさい」


私は服従の力を込めて、彼女に改めて命令を下す。

だが――


「お断りします」


リリアは私の強制命令を跳ねのけ、拒否の言葉口にする。


「はぁ?」


……どういう事?


今度こそありえない。

面食らったと言うのは、こういう時に使う言葉だろう。


私の強制力は、人形がどうこうできる様な物ではない。

なのに……


「ありえないわ。あんた、どうやって私の命令に逆らったってのよ」


驚きから、少々語気が粗ぶってしまう。


「別に、私は命令には逆らっていませんよぉ」


リリアが口の端を歪め、ムカつく顔をする。

まるでしてやったりという表情だ。


人形如きが……


「忘れたんですか?貴方が私に最初にくだした命令を?」


「最初?」


「ええ。『アドルを守り、しっかり導きなさい』、と。そう言ってたじゃないですか」


アドルは私がゲームクリアーにと、目をかけたプレイヤーだ。

当然それに付けた聖少女人形リリアには、彼を守ってゲームクリアに導くよう命令している。


だが、それが何だと言うのだ?


「そして重要なのは、その後の言葉です。貴方は『これは至上命令よ。絶対に成し遂げなさい。いいわね』と私に言っています」


「それがどうしたって言うの?」


何が言いたいのか、今一要領を得ない。


「分からないんですか?貴方は私に、至上命令としてマスターの守護を命じてるんですよ。至上命令ってのは、他の何を置いても実行しなければならない命令。ですから……貴方がマスターの命を脅かすのなら、私は至上命令に従って貴方と戦うまでです」


そう言えばあの時、そんなふうに命じたわね。

絶対やり遂げなさいって意味で、至上命令にした訳だけど……


成程、確かにそれを最優先するなら、アドルを殺せって命令は聞けないわね。


「ふーん……じゃあ、その命令は撤回するわ」


まあだが、答えを聞けばどうって事のない内容だ。

至上命令が最優先されると言うのなら、それを撤回すればいいだけの話。

私は強制力を込めて、命令その物の撤回を宣言する。


これで、リリアの反抗的な態度も収まるだろう。

そう思ったのだが――


「撤回は聞きませんよぉ。至上命令は、替えの利かない絶対的な物だから至上なんですから。すでに下されたそれは、貴方の強制力であっても変更不可です」


勝ち誇った様な顔で、リリアが私にそう告げる。

どうやら、ただの強制力では至上命令の撤回や上書きはできない様だ。


「ちっ……面倒くさいわね」


その気になれば、人格部分ごと弄って変更する事も出来る

けど、それはかなり手間がかかる方法だ。

正直、そこまでしてリリアを服従させる価値はない。


「……まあいいわ」


私は小さく溜息を吐く。


さっきから私に対する態度もムカつく物だし。

そんなに大好きなマスターと一緒に消えたいのなら、その願いを叶えてあげるとしましょうか。


何せ、私は優しい女神だもの。


「そんなに至上命令が大事なら、命令を守って勝手に消えなさいな」


リリアが抜けるとなると、こちら側の戦力が下がってしまう事になるわね。

更に言うなら、その分アドル達の戦力は強化される事になってしまう。


まあでも、全く問題ないわ。

何故なら、その分はティアを強化してやればいいだけの事なのだから。


「という訳で……ティア。貴方にリベンジマッチの機会を上げるわ」


「ありがとうございます。必ずやこのティアが、お母様に逆らったあの愚か者に鉄槌を下して見せますわ」


リリアに負けて立つ瀬の無かったティア。

復讐のチャンスを得た彼女は、嬉しそうに目元と口元を歪める。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る