第6話 新世界
「あらあら、立ち直っちゃったわねぇ」
リリアの言葉尻に希望を見出し、戦意を取り戻すアドルを見て思う。
人間ってのはどうしてこんなに面白いのか、と。
――フィーナの魂が消滅した現実は変わらない。
なのにただ人形が確認しているかいないか程度で元気を取り戻す様は、本当に見ていて滑稽極まりない物である。
「ふふ、まあいいわ」
フィーナの話はアドルを絶望させて遊ぶ目的だったが、もう十分面白い物は見れた。
取れ高十分という奴だ。
同じ話を延々繰り返すのも飽きるので、早々に話を進めていくとする。
「それで?どうするの?まさか貴方達、私と戦うなんて馬鹿な事言わないわよね?」
あからさまに、私への敵意と闘士をむき出しにする
今にも襲い掛かって来そうな雰囲気だ。
まあ聖女であるセイヤは、少し迷っている様ではあるが。
「言っておくけど……貴方達程度じゃ、私には絶対に勝てないわよ。まあ口で言っても信じないでしょうから、神の偉大さってのを体感させてあげるわ」
虫けら達を平伏せさせるには、力の差を分からせてやるのが手っ取り早い。
私は自らの力。
そう、神の偉大な力を全身から解き放つ。
「ぐ……うぅ……」
「これは……」
その場にいる者達の顔色が一瞬で変わる。
彼らは目を見開て歯を食いしばり、圧倒的な神の力。
その波動に必死に歯を食いしばって耐えていた。
「ふふふ、どうかしら?これが神の力よ」
凡百な者達なら、それだけで命を落としかねない程の圧倒的パワー。
彼らもそこまで馬鹿ではないだろうから、この力の波動から、私には何をやっても絶対に勝てない事ぐらいは理解できただろう。
何せ彼らは、真面に動く事すら出来ないのだから。
「まあ、力を見せつけるのはこれぐらいでいいかしら」
不必要に力を見せびらかす様な真似はしない。
ああ……私ってば、なんて奥ゆかしいのかしら。
「さあ、これで分ったでしょ?私がその気になれば、この場にいる貴方達を殺すなんて簡単な事なの。でも……安心なさい」
私は優しい女神だ。
彼らの態度は決して褒められたものではないが、その寛大な心でチャンスを与えて上げる事にする。
「貴方達はグヴェルとのゲームで、私を勝利に導いてくれた立役者だもの。殺したりはしないわ。それどころか、褒美を上げようと思ってるのよ」
まあ、そのチャンスをちゃんと掴むかどうかは彼ら次第ではあるけど……
「褒美だと……」
体格の良い女盗賊――確かドギァだったかしら――が、私の言葉に反応する。
やっぱり盗賊なんてスキルの持ち主だけあって、お宝や褒美への反応が良いわね。
意地汚い事。
「ええ、褒美よ。それも、神だけが与える事の出来る素晴らしい物よ」
至高に近い報酬。
それは――
「そう!貴方達には新世界で私の手足――天使として、生きていく栄光を与えて上げるわ!」
――神の手足となって働く従僕。
この世にこれ以上栄誉な報酬はないわね。
聖女辺りは、泣いて喜びすんじゃないかしら?
が――
「新世界……ですか。その言葉の意味が気になりますね」
とうの聖女の反応は渋い物だった。
それどころか、褒美ではなく新世界という言葉に食いつく始末。
まあ所詮、この聖女は偽物だから仕方がないかしらね。
「あら、言葉のままの意味よ。今ある古い世界を消滅させて、私の為の新しい世界を作るの」
「――っ!?」
今ある世界を消滅させる。
その言葉に、彼らの顔が一気にこわばる。
だが私は気にせずに言葉を続けた。
「だって今の世界は、グヴェルの作った物じゃない?私、そう言う他人の手垢のついたお古って嫌なのよねぇ」
他人の弄り倒した世界など、私には相応しくない。
女神の支配する世界は、まっさらであるべき。
こういうのを、人間の古い言葉で処女厨って言うんだっかしら?
「だから全てを綺麗さっぱり消して……私の再出発の門出を祝う、面白おかしい世界を作るのよ。いいでしょ」
ふふ、どんな世界を作ろうかしら?
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