第4話 そうか……

「マスター……私を生み出したのはフィーナじゃありません。そこにいる女神ンディアです。そして彼女はグヴェルではなく、間違いなく女神と呼ばれる存在です」


目の前の存在が女神であり、そして自分を創造したのはフィーナではなくその女であるとリリアは口にする。


「な……何を言っているんだ、リリア?」


「そして私の使命は……マスター、貴方にグヴェルを倒させ……神々の遊興ゲームで女神ンディアに勝利をもたらす事でした」


「……」


こんな時に下らない冗談はよせ。


そう言いたかった。

だがリリアの表情は真剣そのものだ。

声だって、いつもの冗談めかす様な感じではない。


――グヴェルに操られている。


一瞬そんな考えが頭を過るが、リリアが何かされた様な目立った動きはなかった。

もしグヴェルが動き一つ見せずに他者を支配できるというのなら、此処にいる全員、今頃支配されてしまっている事だろう。


そう考えると……


「本当の事……なのか?」


リリアが俺達を騙していた。

考えたくはない事ではあるが、確かに彼女には説明がつかない部位が多い。


普通では考えられない程の高い能力。

まるで全てを知っているかの様な、豊富な知識や見識。


もし彼女が言うように、目の前の女が女神で、そしてその神の力によって生み出されたというならば……


「嘘偽りはありません。今話した事は全て事実です。ですから私は――」


「ありえない!リリアは間違いなくフィーナが作り出した物だ!そして私がアドルに届けたんだ!」


「それはあたしも断言できるよ。一緒にパーティーを組んでて、話を何度も聞いてたし……何より、制作過程だって見せて貰ってる」


俺の問いに応えたリリアの言葉に、にレアが感情的に反論しドギァさんが同意する。


確かに、この二人はリリアの製作過程なんかを知っている人物だ。

しかもレアは俺に直接届けてくれた本人である。

彼女達に嘘を吐く理由などない以上、リリアを作ったのは間違いなくフィーナで間違ないはず。


だが、リリアは確かに自分は女神が生み出したとハッキリ口にしている。


いったいどういう事なんだ?


彼女達の発言の矛盾に、俺は混乱する。


「ふふふ……確かに、リリアの体はフィーナが作ったものよ」


此方のやり取りを、ニヤニヤと見ていたンディアが口を開く。

それはレア達の言葉を肯定する物だ。


――だが、その言葉には続きがあった。


「ああ、勘違いしないでね。それはあくまでも……入れ物の話だから」


「入れ物……だって?」


「そうよぉ。なんでフィーナが、貴方にリリアを送れなかったと思ってるのかしら?本当に完成していたなら、直ぐにでも送ってたはずよ。大事な大事な幼馴染を守るための人形を、ね」


完成したなら……


フィーナはパーティーを追い出され、一人になった俺の為にリリアを用意してくれていた。

彼女の性格から考えて、完成していたなら、確かに直ぐに送ってくれていた筈だ。


――つまり、リリアは完成していなかった。


「あら、察しちゃったぁ?そう、未完成だった人形に私の魂の一部を組み込んで生み出したのが……リリアよ」


魂の一部……


女神の人を食った様な言動。

それは、リリアの普段の行動に繋がる物がある。


もし本当に魂を分けられたのなら、それも……


「ついでに言うなら、ティアを作ったのも私。彼女の方は、体ごとだけどね」


リリアとティアは、明らかに知り合い同士だった。

そして皇帝達との戦いで、エターナルからは姉妹であると聞かされている。


同じ女神が作った二人なら……


「……」


黙り込むしかなかった。

俺だけじゃない。

レアや、ドギァさんもだ。


本人の告白。

そして、状況が示す強い証拠。


そこに意義を挟む余地が見いだせない。


「俺達は、ずっとリリアに騙されていたのか……神々のゲームの駒として……」


「すいません……マスター……」


俺の言葉に、リリアが辛そうに俯く。

申し訳なさそうに見えるが、これも演技なのだろうか?


もう何が何だか分からなくなってくる。

あんなに信頼していたのに、騙して利用されていたなんて……


「リリア……一つだけ聞かせて欲しい」


「……」


どうしても、確認しておきたい事があった。

俺の本能が知らない方がいいと言っているが、それでも聞かずにはいられない。

目を逸らす訳にはいかない事実。


それは――


「さっき女神が言っていた……フィーナを殺したというのは……本当の事なのか?」


「蘇生された時点で、ンディアとフィーナの中身は入れ替わっていました。恐らく、間違いないかと……」


「そう……か。フィーナは……」


俺はフィーナを救った気になっていた。

だがあの時接した彼女は偽物で、全て女神の演技。

嘘っぱちだったのだ。


……俺はフィーナを、救えなかった。


誓ったのに。

絶対に生き返らせるって。

なのに……


結局、俺は何も成し遂げていなかった。

復活した邪神の討伐だって、所詮はただの茶番ゲームだ。

唯々女神に利用され、振り回されていただけ。


「は……ははは……なんだよそれ……」


急激に体から力が抜ける。

立っている事すら出来なくった俺は、その場に片膝を付く。


「マスター!」


リリアが俺に駆け寄ってくる。

今にも泣き出しそうな顔をして。


人形って、泣いたりするのかな?


俺はそんな事を、回らない頭でボンやりと考えた。

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