第30話 アタックチャンス
月面に大気はない。
それは遥か太古の昔の話だ。
それらは邪神グヴェルによって完全に作り替えられているため、今の月は空気の層によって包まれている。
お陰で呼吸の心配はない。
遥か頭上。
グヴェルが青い地球を背に、上空で翼を大きく広げ待ち受けていた。
その大きく開かれた巨大な顎からは、赤黒い不気味な光が漏れ出している。
ブレスだ。
間違いなく、グヴェルの最強最大の一撃だろう。
そこから発せられる膨大なエネルギーから、私にはそれが分かる。
そしてタイミング的に、それを阻止するのは不可能だ。
だがそんな事などお構いなしに、マジックアイテムを使って私達は奴の元へと上昇し続ける。
「おいリリア!どう見てもブレスが来るぞ!」
「ご心配なく~」
一緒に上昇するメンバーがそれに気づき、顔色を変える。
私はそれに軽く返しておいた。
恐れる必要等全くない。
「私と――」
自分達よりも少し上空にいるティアの方を見る。
「あっちのポンコツとで、ブレスを防ぎながら突っ込みます。どうか皆さんは、その後に全力で攻撃をお願しますね」
私単独でも。
ティア単独でも。
邪神のブレスを防ぐのは難しかっただろう。
だがアレと力を重ねて一つの結界を生み出せば、それは可能だった。
本来なら、魔法を完全に重ね合わせて一つの結界を形作る様な真似は出来ない。
同じ神より魂を生み出された者同士だからこそ、だ。
胸糞悪い行為ではあるが、まあここは我慢するとしよう。
「但しマスターの
「わかった」
魔力や体力は、減っても回復させてしまえばいいだけだ。
だがマスターの剣――アドラーのスキルはそう言う訳にもいかない。
クールタイムを縮める手段がない以上、これだけは温存して貰わないと。
「神のブレスを突っ切るってか!面白れぇ!」
ガートゥが嬉しそうに叫ぶ。
脳筋のこのゴブリンは、悩みが全くなさそうで羨ましい限りだ。
こっちはこの先――偽の邪神を倒した後の事を考えるとストレスがマッハだというのに。
まあとにかく、今は目の前の敵に集中する事にしよう。
「行きますよ!足を引っ張らないで下さい!」
ティアが一瞬此方を振り返って戯言を放ち、素早く呪文の詠唱を開始する。
何か言い返してやろうかとも思ったが、余り余裕もないので、私もそれに被せる様に詠唱を始める。
「ブレスが来るぞ!」
グヴェルがエネルギーのチャージを終え、その顎から赤黒いエネルギーが閃光となって放たれた。
それは一瞬で私達の頭上へと迫る。
――だが、此方ももう完成だ。
「「
私とティアの魔力が混ざり合い、円錐型の結界が周囲に展開される。
これは力を分散させつつ、敵に突撃する為の結界だ。
結界と邪神のブレスが真正面からぶつかり合う。
巨大な力のぶつかり合いによる、耳をつんざく様な轟音。
だが衝撃はない。
全てを完璧に受けながす様に防ぎつつ、結界は破壊のエネルギーをかき分け上昇していく。
そしてそれを追いかける様に、私達も上昇する。
「こりゃ凄いべ」
「流石リリアさんですね」
「そんな事は言われなくても分かってますんで、仕掛ける準備をしてくださいな」
結界がグヴェルのブレスを完全に突き破る。
私達の目の前に、最強の攻撃を放った事で無防備状態となっているグヴェルの姿が飛び込んで来た。
「さあ!アタックチャンスですよ!さっさと終わらせましょう!」
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