第29話 飛翔

戦況は安定していた。


お馬鹿さんエターナルが正面から意識を引き、他のメンバーが反応の鈍る右側面側を陣取り攻撃を仕掛ける。

背後に回らないのは尻尾の攻撃があるからだ。


この位置は翼での攻撃があるが――


重結界ハードバリア!」


邪神がマスター達に叩きつけようとした翼を、私が結界で弾いた。

右足への負担もあってか、この攻撃に大した威力はない。

私の結界だけで防ぐ事も容易い事だ。


「ぬおおおおおぉぉぉ!!」


エターナルが邪神の一撃に吹き飛ばされそうになるが、雄叫びを上げて堪えた。

調子に乗って正面に立っているので、彼にかかる負担はかなり大きいと言える。

だがまあ、ポンコツティアが上手く回復カバーしているので問題ないだろう。


精々死なない程度に、捨て駒宜しく頑張って下さいな。


「しかし……思ったより硬いですねぇ」


相手の耐久力は、想定していた物よりもずっと高い物だった。

そのため、此方の攻撃は余りダメージを与えられずにいる。

このままのいけば、確実に長期戦になるだろう。


この後の事を考えると、偽の邪神相手に無駄な消耗は避けたい所。

余り気は進まないが、マスターに力を使って貰うしかない。


とは言え、垂れ流しはダメだ。

一瞬。

そう、隙をついて渾身の一撃で仕留めて貰う。

そのためには大きな隙が必要だった。


……ドラゴンの隙と言えば、あれしかありませんね。


――ブレス。


ドラゴン最強の攻撃。

一気に大量のエネルギーを放出する大技だが、それ故に直後の隙は大きい。


渾身のブレスを防ぎきり、その直後にカウンターで大ダメージを狙う。

短時間の発動で最大限の効果を狙うのならば、間違いなくこれだ。


問題はどうやって相手にそれを使わせるかである。

現状の攻め立てられている状況では、使ってはこないだろう。


一旦間合いを離す指示を――


「――っ!?何か来ます!離れてください!!」


どうやって不自然なく間合いを開けるか。

そんな事を考えていると、突如邪神の全身から赤いオーラが噴き出した。


それは間違いなく、何らかの攻撃の前兆。

私は咄嗟に間合いを離すように指示を出す。


ひょっとしたら、このまま相手はブレスに移行してくれるかもしれない。

そんな期待を密かに抱きながら。


「くっ!!」


「うぉっと!!」


「危ないべ!」


私の指示に皇帝以外が素早く反応し、間合いを開ける。

その直後、ドラゴンの体が高速で回転。

尾が鞭の様に周囲を薙ぎ払った。


「うおおおぉぉぉぉ!!」


案の定、私の言葉を無視したお馬鹿さんだけが大きく弾き飛ばされる。

とは言え、それを空中でティアが綺麗にキャッチし、着地度同時に回復を行っているので問題はない。


「くっ!飛んだ!?」


直後に邪神が地面を蹴り、翼を羽搏かせ、神殿の天井を突き破って天高く上昇する。


邪神が逃げ出した?

いや、違う。

間違いなくこれはブレスだ。


邪神は最強の一撃を持って、神殿ごと全てを吹き飛ばす気に違いない。


「チャンス到来ですねぇ」


私は落ちて来た瓦礫を斜めに張った結界で弾き、スキル【収納ストック】から素早く蝙蝠コウモリの指輪を取り出し指にはめた。

これは飛行能力を持ったマジックアイテムで、周囲の味方ごと飛翔す事が出来る。


「皆さん!私の周りに集まってください!」


メンバーに指示を出す。

チラリとティアの方に視線をやると、彼女も私と同じ考えだったのだろう。

その体が皇帝を抱えたまま上昇して行くのが見えた。


「ちっ」


思わず舌打ちする。

作戦を伝える余計な手間が省けけたのは有難いが、まるで以心伝心の様で腹だたしい。


私はティアが嫌いだった。

何故なら、彼女は私だからだ。


――本来あるべき、私の姿。


守る者もなく。

残忍で無慈悲なだけの女神の言いなり。

それがお前なのだと。


ティアを見る度、それがつき付けられる用で不快で仕方がなかった。


こういうのを同族嫌悪というのだろう。


「指輪の飛行で追うのか?」


私の指に嵌まっているリングに気付き、マスターが聞いて来た。

アクセサリーに素早く気づく当たり、私の事を良く見てくれているんだと少しうれしくなる。


「はいな。皆さん。ここからがビッグチャンスなんで、気合を入れてくださいな」


私はそう宣言すると指輪の能力を発動させた。

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