第28話 変身

「ふんっ!」


俺と皇帝。

それはとても連携と呼べる様な動きではなかった。

エターナルの動きは自分勝手そのもので、俺はそれに巻き込まれない様ヒット&アウェイを繰りかえすのみだ。


「はっ!」


効率は明らかに悪い。

だがそれでも、邪神と皇帝との戦いの均衡を崩すには十分だった。


「目障りだ!」


邪神が俺に向かって腕を振るい、衝撃波を放つ。

俺はそれを横に飛んで躱す。


「はっ!隙だらけだぞ!」


俺を相手にする事で極僅かに生まれる隙。

それを見逃す事なく、皇帝が邪神へと斬りかかる。


頭に難点はあるが、やはり腕はいい。


「ぐぅっ!」


皇帝の一撃はグヴェルの胸元を切り裂く。

致命傷とはいかないが、ダメージは確実に積み重なって来ている。


「皆の方は大丈夫だな」


他の面子へと視線をやり、状況を確認する。

俺が抜けてから5分ほど経つが、魔獣の処理には問題が出ていない。

特に邪神の討伐を急ぐ必要はないだろう。


このままのペースでゆっくりとやって行くとしよう。

例の力を温存するために。


「もらったぁ!」


隙を突いた皇帝の斬撃が、邪神の右腕を切り飛ばす。

彼は更に追撃を加えようと剣を振るう。

だがその一撃は、残念ながらグヴェルに届く事はなかった。


「おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


衝撃波を伴う雄叫び。

それに皇帝が大きく弾き飛ばされたからだ。

その威力は凄まじく、少し離れていた俺でさえ体勢を崩して吹き飛ばされそうになる。


「人間風情が調子に乗るな!!」


グヴェルの体が紅く輝き、急速に膨れ上がっていく。


「魔獣達が!」


声に振り返ると、仲間が相手取っていた魔獣達が赤い光に変わっていくのが見えた。

その光は、とんでもない速度でグヴェルの体に吸い込まれていく。


俺は咄嗟に剣を振るが、それは手応えなくすり抜けて行った。

物理的な攻撃では阻害できない様だ。


「ここだと不味いな」


魔獣達の光を吸収し続けるグヴェルの肉体の膨張は、さらに加速していく。

このままでは巻き込まれると判断した俺は、素早く後ろに大きく飛んで、安全圏まで退避する。

流石に、今いる位置までは膨らみはしないだろう。


「ドラゴンか……」


巨大化を続ける邪神の姿は、次第に崩れていく。

人型から、四足の尾を持つ形。

四つの瞳を持つ、とてつもなく巨大な赤いドラゴンへと。


その力強い尊大な姿。

そして先程までとは比べ物にならないプレッシャー。


俺はその力に対抗すべく、神殺しチートスレイヤーを発動させ様として――


『もし邪神が変身しても、無駄な力のお漏らしはしないで下さいねぇ』


リリアの言葉を思い出し、踏み留まった。


形態変化は戦う前に、リリアからその可能性があるかもと聞かされている。

そしてそうなっても勝てると、彼女はハッキリと宣言しているのだ。


ならば慌てる必要など何もない。

俺は注意深く奴を観察する。


……狙うなら右前脚か。


邪神の重心は、極極僅かだが左側に傾いていた。

変身直前、皇帝の手によって奴の右手は切り飛ばされている。

再生自体はしても、その際のダメージが残っているのだろう。


だから重心に傾きがあるのだと、俺は判断する。


「お漏らしせずに我慢出来て、偉いじゃないですかぁ。マスター」


魔獣がいなくなった事で雑魚処理から解放されたリリア達が、素早く俺の元へと集合する。

ティアの方は、少し離れた場所にいる皇帝と合流していた。


「おしめは付けて来てないからな」


彼女の毒舌に、俺は軽口を返しておいた。

その言葉にリリアが口の端を歪めて、悪い顔で笑う。


もうこの顔も見慣れた物である。

最初こそイラっとさせられたが、いまでは可愛らしくさえ感じるから不思議な物だ。


「お遊びはここまでだ。本気で相手をしてやろう」


「は!それは此方の台詞だ!このエターナル様の偉大さを、貴様のその身に叩き込んでやる!!」


皇帝が吠え、真っすぐに邪神へと突っ込む。

いいデコイだ。

正面は奴に任せるとしよう。


「奴は右前足にダメージがある、可能な限りそっちから攻めるぞ!」


俺はそう叫ぶと、奴の右手側周り込む様に駆けた。


「「「了解」」」


仲間達が俺に続く。

さあ、第2ラウンドの開始だ。

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