第31話 ドロップ

グヴェルはブレスで大量のエネルギーを吐き出した直後。

当然、そんな状態では真面に動けるはずもない。


「さあ!アタックチャンスですよ!さっさと終わらせましょう!」


私達はリングの力でそのまま突っ込む。

最初に仕掛けたのは、私達よりも少し先行していた皇帝とティアだ。


「主人公の力を見せてやろう!受けよ!究極皇帝X字斬アルティメット・エターナルクロス!!」


皇帝が両手に別々に持つ剣で、Xを描く様にその刃をを振るう。

自分で考えた恥ずかしい名前を入れているのが素晴らしく痛いが、その威力は本物だ。


それはグヴェルの顔面を捕らえ大きく切り裂き、赤い血しぶきが飛ぶ。


「トカゲ如きさっさと死んで下さいな」


ティアが両手から青い光が生み出される。

それが輝く刃となって、邪竜の眼を貫いた。


「ぐおおおぉぉぉぉぉ!!」


皇帝に顔面を切り裂かれ、ティアに目玉を二つ潰されたグヴェルが苦悶の雄叫びを上げる。


幻影の刃シャドーダガー!」


ドギァの周囲に闇色の刃が無数に生み出され、それがグヴェルに襲い掛かった。


「邪悪を滅する力!受けなさい!飛翔彗星脚シューティングコメット!」


その攻撃に合わせる様に、セイヤが奥義を放つ。

以前マスターと戦った時は分散攻撃だったが、今回は一つに威力を纏めた物だ。


黒い刃ががグヴェルに刺さり。

直撃した彗星脚のエネルギーが胸元で炸裂した。


その衝撃で仰け反ったグヴェルに、レア、ガートゥ、そしてベヒンモスを装備したテッラが攻撃を仕掛ける


「砕け散りな!翠魔閃光斬エメラルドバスター!!」


「ここだ!マジックフルバースト!」


「ベリー行くべ!雷撃槌トールハンマー!!」


「ウォウ!」


3人の攻撃はほぼ同時にグヴェルを捕らえ、強烈な3連撃はその体を引き裂き砕く。

そして最後は――


「マスター!」


「ああ!トドメだ!」


私の声に答え、神殺しチートスレイヤーを発動させて剣を構える。

マスターが他の面子と同時に攻撃しなかったのは、その破壊力故だ。

近くでマスターが渾身の一撃を放てば、他の面々が吹き飛びかねない。


私はリングの力で素早く他の面子を後方に下げた。


「喰らえ!」


マスターの剣に膨大なエネルギーが集約する。

その力の源泉は邪神の加護による物だ。

だが、目の前の邪竜はそれを止めない。


正確には止められないが、正解だ。


何故なら、こいつは所詮まがい物でしかない。

偽物如きに、邪神の与えた加護を解除する事など不可能だからだ。


「マジックフルバースト!!」


強烈な閃光と共に莫大なエネルギーが放たれ、邪竜に直撃する。

その破壊のエネルギーは巨体の胸元を大きく穿ち、背後から抜ける様に放出されていく。


所謂、ぶち抜くという奴である。


胸のど真ん中に巨大な風穴を開けられた邪竜は、そのまま力なく落下していく。

そして落下と共に、その体はどんどんと縮んで行った。


「やったのか?」


「いえ、まだ辛うじて生きてますね」


「じゃあ止めを――」


「それはまあ、お馬鹿さんに任せればいいでしょう」


落下したグヴェルを追う様に、皇帝とティアが高速で降下していく。

死んでいないとはいえ、最早相手はボロボロだ。

トドメを差すだけならあの二人で十分だろう。


「取り敢えず、降りながら皆さんのMPと体力を回復するとしましょうか」


次の戦いに備え、私達は万全を期する必要がある。

これからが本番だ。


……本番の事を考えると、気分が憂鬱になる。


ひょっとしたら戦うよりも、何としてでもマスターを説得する方が生存率は上がるのかもしれない。

女神は残酷だが、必死に尻尾を振ればピエロとして生存を許してくれる見込みはある。


まあ無駄よね……


きっと彼は首を縦に振らないだろう。

女神がこれからする事を、そして、した事をきっと受け入れはしないはずだ。


ならば戦うしかない。

その勝利が限りなく0であったとしても。

それ以外の道はないのだから。


「あら、まだ戦ってましたか」


全員の回復を終え、私達は天井に空いた穴から神殿内部へと戻る。

そこでは、小型の二足形態に戻ったグヴェルと皇帝が斬り結んでいた。


状況は皇帝側が圧倒的に有利だ。

まあ相手は死に体なのだから、当然だろう。

ティアは特に参加せず、静観している。


「というか、私達が戻って来るのを待っていたという方が正しいみたいでねぇ」


戦いの状況から見て、敢えて止めを刺していないだけに見える。

恐らく、皇帝は邪神を仕留める姿を私に見せつけたかったのだろう。


それは全く無意味な行動だが、彼はそれで自らの虚栄心が満たされる様だ。

本当に安い男である。


「これで終わりだ!邪神グヴェル!究極皇帝X字斬アルティメット・エターナルクロス!!」


皇帝が剣を交差させる様に振り、例の恥ずかしい名前の必殺技を使う。

だがその威力は先程撃った物より遥かに弱い。

余裕をかましてはいるが、なんだかんだで消耗している様だ――ティアは攻撃能力を持つ代わりに、体力魔力の回復能力は無い。


だがそれでも、弱り切ったグヴェルを始末するぐらいの威力はある。

直撃を喰らったグヴェルの体が吹き飛ぶ。


……チャンスですね。


私はティアラに手を当て、魔力を込めた。

超圧縮魔力波リリアちゃんビームを使うために。


――あ、因みに私が自分の名前を付けるのは可愛さのアピールなので、別に痛くはないとだけ言っておきます。


ビームの狙いは皇帝。

彼には、一足先にあの世に旅立ってもらう事にする。


「ちっ!」


だが私はビームを放つ事なく中断し、舌打ちした。

ティアが振り返り、此方に手を向けたからだ。

このまま皇帝に攻撃を仕掛ければ、私はカウンターをもろに受ける事になってしまう。


折角のチャンスだというのに、全くウザい事この上なしである。


「ん?」


皇帝の一撃を受け、限界を迎えたグヴェルの肉体が完全に消滅する。

それと同時に、赤い不気味な神殿が灰の様になってボロボロと崩れ落ちだした。


まあそれはどうでもいい。


問題なのは、グヴェルが消滅した場所だ。

そこに、まるで光すら吸い込んでしまいそうな闇色を宿した金属の塊が落ちていた。


先程倒したグヴェルは、言ってしまえば本来のラスボスだ。

女神と邪神の賭けによって変質してはいたが、それは間違いなかった。


――普通に考えればラスボスがドロップを落とす訳がない。


「あれは?」


「ドロップか?」


「金属の様だな」


気づいたメンバーが騒めく中、私は咄嗟に神眼を発動させ、それが何なのかを確認する。


「――っ!?」


そこに表示されたデータ。

それを見て私は眼を見開いた。


……これなら。


……これさえあれば。


…………何とかなるかもしれない。

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