第25話 中ボス

「あれは……」


扉の中は広い空間になっていた。

その中央で皇帝エターナルが、無数の赤い魔獣と戦っていた。


「グヴェルシャドーか!」


それはダンジョンボスだった魔物だ。

そいつらを相手に、エターナルは笑いながら無双していた。


「まるで相手になっていないな」


「こっちはさんざん苦労させられた相手だってのに」


まあだが、それは別段驚くべき光景でも何でもなかった。

リリアは奴ならダンジョンクリアが可能だと言っていたし、塔内で女神ンディアより力も貰っている。

分裂状態のシャドー如き、奴の敵ではないだろう。


「一人で戦ってるのは、私達に自分の力を見せつけたかったから。って所でしょうか。まるで頭の悪い子供の発想に微笑ましくさえありますねぇ」


虚栄心丸出しのアホっぽい理由ではある。

だがそれを実行するだけの実力が、今の皇帝にあるのもまた事実。

俺は余計な手出しは考えず、黙って奴の戦いを見守る事にする。


「ははははは!さあラスト1匹だ!」


100匹いた赤毛の魔獣は、極短時間で残り1匹へとその数を減らす。

奴がダンジョンボスと同じならば、本番はここからだ。


最後の一匹の姿が変わっていく。

四足の魔獣の姿から、人型に近いフォルムへと。


「ふん!変身した所で俺の敵ではない!真なる主人公の力を見せてやろう!」


皇帝がチラリと此方を見た。

心配しなくてもしっかり見てやるさ、レベルの上がったお前さんの力を。


どういったタイミングになるにしろ、もう一度エターナルと刃を交えるのは確実だろう。

邪神と戦いながら彼の戦い振りを観察する余裕などはないので、ここである程度手の内を晒してくれるのは此方としては大助かりだ。


「はぁ!!」


皇帝が突っ込み、2刀流で斬りかかる。

それをグヴェルシャドーは正面から受け止めた。


一進一退の攻防だ。

両者の実力はほぼ互角。


但し、皇帝の奴はまだ本気を出してはいないが……


俺達との戦いで見せたあの力。

奴はまだそれを使っていない状態だ。

無しで互角だという事を考えると、本気を出した今の奴はシャドーを倒した時の俺より上かもしれない。


まあこっちもあの時より大幅にレベルが上がっている。

余程の事がない仮り、俺が負ける心配はないだろう。


……とは言え、油断は禁物だ。


俺には時間制限があるからな。

邪神戦で全ての力を使い果す様な真似をすれば、寝首をかかれてもおかしくはない相手だ。

リリアの言った通り、可能な限り余力を残しておく必要があるだろう。


「ふっ……」


我ながらさも当たり前の様に、邪神を倒せる事前提で物を考えている。

しかも、如何に消耗を抑えて勝つかを。

普通に考えればあり得ない思考に気付き、思わず小さく笑ってしまった。


――邪神との戦いに不安を全く感じない。


リリアは俺達なら絶対に勝てると宣言している。

それも、何なら楽勝レベルであると。

他の人間が言ったなら、只の強がりと捉えただろう。


だが彼女は違う。

リリアがハッキリと勝利を宣言している以上、俺はその言葉を微塵も疑う事はない。


それはきっと、他のメンバーもそうだろう。

彼女の言葉を信じ、皆が自分達の勝利を信じている。


「どうかしたんですかぁ?」


「何でもない」


リリアが俺の視線に気づき、此方の顔を覗き込んで来る。

俺はその頭に手を乗せ、適当に誤魔化した。


今考えてた事を口にしたら、絶対調子に乗るだろうからな。

こいつは。


リリアを褒め倒すのは、全部終わってからだ。


「お、皇帝が本気を出すみたいだぞ」


皇帝の左手の甲に文様が浮かび、青く輝く。

その瞬間、奴の動きが変わる。


「ははははは!これが主人公の力だ!!」


そこからは一方的だった。

グヴェルシャドーは皇帝の動きにまるで付いて行けず、体を切り刻まれていく。


「消えろ!究極十字斬アルティメットクロス!!」


エターナルの2刀から生み出される必殺の十字斬り。

それはシャドーの体を粉々に吹き飛ばす。


――勝負あり。


と言いたい所だが、まだだ。

奴の本体は、その名の通り影にある。

肉体を破壊しただけでは戦いは終わらない。


俺はそれを皇帝に忠告してやろうと思ったが――


「はぁ!」


奴は手にした両手の剣をそのまま地面――影へと突き刺した。

そしてそのその刀身が輝き、強烈な気が放たれる。


「おおぉぉぉぉぉ……」


グヴェルシャドーの断末魔の雄叫びが響き渡る。


「ふん!俺に小細工など通用せん!」


具象化する前である影の状態のまま始末したという事は、どうやら皇帝には神眼の様なスキルもある様だ。

もしくは、相手の気配を察知する系のスキルか。


「やれやれ……」


エターナルが振り返り、挑発する様に右手の剣を俺へと向ける。

余計な事は考えず、出来れば今は邪神との戦いに集中して欲しい物だ。


ま、その後の事を考えている俺も大差ないと言えば大差ないのであれだが。

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