第24話 生贄
「ぐうぅぅぅぅ……」
「ふ……真の支配者である俺の敵ではない!はははははははは!!!」
エターナルが最後の敵を倒し、悦に浸る。
「たかが前哨戦如きに、何故あそこまで得意げになれるのか。理解不能ですねぇ」
大量にいたとはいえ所詮はエリアボス。
最早今の俺達にとって敵ではなかった。
特段問題もなく、全てを処理し終えている。
「敗北を経験しても、お頭が残念な感じなのは変わっていないようだね」
ドギァさんがリリアと並んで、エターナルに向かって
当然の事だが、俺達の皇帝に対する心証は悪い。
良くなる要素がまるでないからな。
だがまあその強さは本物だ。
エターナルには頑張って貰わなければならない。
リリアからは――
「マスター。邪神討伐の際には可能な限り力を温存でお願いします。もうなんなら、あのバカイザーに丸投げしてくださいな」
――と言われている。
これはエターナルを警戒しての言葉だ。
討伐後、そのまま奴との戦闘にならないとも限らない。
俺の力に時間制限がある以上、下手に使い果たさない様に気を付ければ。
「まあ皇帝には、精々気持ちよく戦って貰うとしよう」
「しっかしこいつら、全く何も寄越さなかったべ」
倒したエリアボス達は全て石に戻り、ドロップ品は一切なかった。
更に言うなら経験値も0だ。
確かに酷い話ではあるが、だがそれも元が石像と考えれば仕方がない事なのかもしれない。
まあ出来れば、経験値は欲しかったというのが本音ではあるが……
上がる事でのマイナス要素は皆無だからな。
「笑い飽きた様ですね」
エターナルは満足したのか、此方に声もかけずそのまま宮殿の中に入って行こうとする。
まるで俺達などいないかの様な素振りだ。
「進んで罠避けになってくれるなんて、素敵な皇帝様ですねぇ」
ここは邪神のホームの様な場所だ。
先程の石像の様な罠が他にも仕掛けられているとみて、まず間違いないだろう。
「ではそのお気持ちに甘え、私達は少し離れていきましょう。どうせ経験値も入りませんし……ね」
リリアがニヤリと笑う。
相変わらずほれぼれする程の悪い顔だ
「その顔。完全に悪人にしか見えねぇぞ」
「心外ですねぇ。厳ついゴブリンさんに、顔の事をどうこう言われたくはありませんよ」
「誰も造形の話はしてねぇ。まあいい、さっさと俺達も行こうぜ」
「まあそうだな」
俺達も宮殿内に向かう。
中も外と変わらず真っ赤だ。
「不気味な場所だ」
レアが眉根を顰めてそう呟く。
彼女がそう思うのも無理はない。
何せ壁一面に、人の顔の様な物が彫り込まれているからな。
それも凄くリアルに。
「ん?」
俺はその中の一つに目が行く。
それは俺のよく知る顔だった。
見間違いではない。
間違いなくその顔は――
「ギャン!?」
「知り合いだべか?」
「ああ。以前パーティーを組んでいた奴だ。そいつはエリアボスとの戦いで死んでる」
何故ギャンの顔がこんな所に彫り込まれているのか?
理解不能だ。
「ひょっとしたら……ここに刻まれた顔は、全てダンジョンで死んだ冒険者なのかもしれませんね」
セイヤさんが恐ろしい事を口にする。
「いや……いくら何でもそれは……」
「誰かがここに彫り込んでいると考えるよりも、ダンジョンで死んだ人間の魂が邪神に捧げられてこうなったと考える方が自然かと。なにせ、ダンジョン最深部を支配していたのは邪神の影だった訳ですし」
ダンジョンで死ねば、その魂は邪神に捧げられる。
それを聞いて、俺の背筋におぞけが走った。
死して後も、邪神に捧げられ苦しむ。
考えたくもない事だ。
「いやでも、女神の天秤の人達はそんな事一言も言ってませんでしたし……」
「彼らは実質、人質にされたに等しい状態でした。ならば捧げられず、保持されていてもおかしくはないのでは?もしくは、死んでいた時の事は覚えていないか」
セイヤさんは自分の仮説に自信がある様だ。
「生贄に捧げる……か。セイヤのその説が正しいのなら、私が前からダンジョンで気になっていた事も一応の筋が経つ」
「筋が経つ?何の話だレア?」
「ガーディアンの事だ。奴らは人同士の殺し合いを禁じる抑止力の様な存在だ。何故そんな物がダンジョンに存在するのか、私はずっと気になっていた」
ダンジョン内での人殺しは御法度だった。
冒険者なら、それは誰でも知っている事である。
何故なら、人を殺した報いとして強力なガーディアンによる報復があるからだ。
確かにそれは不思議だと俺も思っていた。
「ダンジョンを支配していたのがグヴェルの影なら、そこに意味があるって事だね」
ドギァさんの言葉に、レアが頷く。
「思うに……生贄として捧げられるのは、魔物に殺された人間だけなんではないかと」
「人が人を殺しても生贄にはならない。だからそれを制限する為に、ガーディアンが居たって訳か」
「ああ。そう考えると、奴らの動きはしっくりくる」
ダンジョンの役割が生贄を求めるという物で、その方法が魔物による殺戮ならば、確かに一応の筋が通る。
「そう考えると、魔物が低階層から順次強くなっていく辺りなんかも、何か意味がありそうだね」
「恐らく……冒険者を育て、より強い生贄を求めていたのかもしれませんね」
より強い生贄を求めて……か。
もしこの仮説が正しいなら、ダンジョンはより良い生贄を捧げる為の場だったという事になる。
冒険者が夢を求めて必死にダンジョンに潜る様は、きっと邪神にとってい愉快だったに違いない。
放っておいても、勝手に生贄になりに来てくれるのだから。
「皆さん。妄想遊びはおしまいですよぉ」
皇帝に追いつく。
正確には、扉の外に待つティアにだ。
彼女は外から中の様子を眺めており、中からは戦闘音が聞こえて来る。
「おやおや。サボりですかぁ?」
「遅れて来たポンコツさんに、そんな事を言われる筋合いはありませんねぇ?」
リリアとティアが、首を傾けお互い睨みあう。
一応姉妹の様な物だが、二人の仲は死ぬ程悪い。
「入らないのか?」
「バ……皇帝に無双するから誰も入れるなって、言われてるんですよぉ。貴方達もバ……皇帝の頑張りを見届けてあげてください」
一人でやるというのなら、まあ止める理由はない。
まあ流石にやられそうなら手伝いはするが……貴重な戦力を無駄に失う訳にはいかないからな。
――俺は中の様子を覗き込んだ。
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