第17話 宣言
私はファーガス王国の首都ファーガンにある王城、その謁見の間へと教主ガレンと共に向かっていた。
ここへ呼び出されたのは、邪神復活の事についてだ。
ダンジョンボス攻略と、邪神復活の兆しが出たタイミングが完全に一致していたため、攻略パーティーである
その真偽確認のため、私達は国王に呼び出されたのだ。
――結論から言うならば、彼らの疑いは恐らく正しい。
グヴェル・シャドーの最期の言葉。
それに龍玉を外すたびに弱まっていった石板の光。
冷静に考えればあの石板が封印の一部であり、そのエネルギー源を龍玉が
そう考えると、邪神を復活させたのは私達だという事になる。
だがそうなると、一つ解せない点があった。
それはグヴェルシャドーが何故、邪神を復活させていなかったのかという点だ。
あの魔物は石板を管理している様だった。
ならば自分の手で龍玉を外し、邪神を蘇らせる事が出来たはず。
――だが邪神の影はそうしなかった。
考えられる理由は二つ。
一つは、あの魔物が龍玉に触れる事が出来なかったという可能性だ。
邪神を封じる力なのだから、その影では神聖な力に干渉できなかったというのは十分考えられる。
態々女神の天秤を襲い。
復活の話をしたのも、邪神を復活させるためなのだとしたら話の筋は……
――まあ通らないわね。
もしそうなら、ダンジョンボスとして私達の妨害をあそこまで必死にする必要は無かったはず。
本当に外して貰いたいかったのなら、あっさりやられた振りでもすればよかったのだ。
そもそも転移で外に出て来れるのだから――レア達を追って、一体が外に出て来ているので間違いない――外で適当な人間を攫えば、目的は簡単に達成できただろう。
態々女神の天秤を襲って挑戦するよう仕向けるなんて、そんな遠回りな真似をする必要は無かったはずだ。
もう一つ考えられるのは――邪神の状態が完全ではなかった為、その回復を待っていた可能性だ。
邪神は女神との戦いで大ダメージを受け、封印されたと伝えられている。
そのダメージが未だ癒えず、不完全な復活を阻止するためあの影が石板を守っていた。
そう考えると自然に思えなくもない。
まあその場合も、女神の天秤を襲って龍玉の事を伝える必要は無かった訳だけど……
女神の眷属たるリリアさんが教えてくれれば、答えがスッキリ判明するのだろうが、残念ながら聞いてもその辺りは聞いても教えてはくれなかった。
彼女は一体何を考えているのやら。
「陛下。教主ガレンと聖女セイヤ。召喚に応じ参りました」
謁見の間に入り、玉座に座る国王の前で深く腰を折って一礼する。
普通なら膝を折るべきなのだろう。
だが私達はこの国に居を構えてはいても、臣下というわけではなかった。
教会の人間は、唯一女神にのみ崇拝を捧げる存在だ。
そのため相手が一国の王あろうとも、女神への祈り以外で膝を屈する様な真似はしない。
「よく来てくれた。態々諸君らに来て貰ったのは他でもない。聖女セイヤよ、そなたに尋ねたい事があったからだ。此度の異変は邪神復活の兆しと聞く。そしてそれには、そなたの所属する
国王は回りくどい事はせず、直球で真偽を訪ねて来た。
当然それに対する答えは用意してある。
「陛下。邪神の影は最期に謎の魔法を発動させました。我々はそれを攻撃魔法と警戒したのですが、その魔法は何も引き起こさず終わっています。今思えば、恐らくそれが邪神の封印を解く魔法だったのでしょう」
私は王の問いに、肯定に近い答えを返した。
この状況で、全く関与していないという主張は流石に無理があるからだ。
勿論その内容は、私達が有利になる様に脚色しておく。
「つまり、事実であると認めるのだな?」
パスマンはそう穏やかに聞き返して来た。
以前なら、傍に控えていた将軍が激高して話を遮っていた事だろう。
だが彼は帝国との戦いで功を焦って皇帝の手により討たれているので、もうそういった横やりは入らない。
「関りは確かにあると言えます。ですが、いずれにせよ邪神の復活は時間の問題だったかと。あの魔物はその気になれば、いつでも封印解除の魔法が使えたのですから。
きっと私達が何かせずとも、近い将来邪神は復活していた事でしょう」
「ふむ……放っておいてもいずれは復活していたという訳か」
「陛下。
ここでガレンとバトンタッチする。
聖女がやらかしたとなれば、国内における教会の威信も失墜する。
それを避けるため、当然彼も私に協力せざる得ない。
「陛下も
創世期を記した書物には、女神は邪神の肉体を引き裂き月に封印したと記述されている。
当然王族なら、その辺りの知識は頭に入っていてる筈だ。
「邪神の影は復活させる
邪神は完全ではない。
だからその影が本体を復活させなかった。
という方向で私達は話を進める。
「既に復活の時より1週間経つにも関わらず、邪神になんら動きが無いのもそのためです」
本当に完全復活していたなら、直ぐにでも動き出そうもの。
だが邪神には未だに動きが無かった。
その事を引き合いに、教主ガレンの言葉に真実味を持たせ――
「そして完全復活出来ていない今こそが、打倒の好機。我々教会は女神様の塔を使って月に上がり、邪神討伐を考えております」
更に彼は、討伐の決意表明を口にする。
復活したのならば、どうせいずれは戦わなければならない相手だ。
ならば自分達の過失とも言える状況をチャンスと言い張り、プラスに働かせておく。
「なんと!?邪神の討伐を!?だがそんな事が本当に可能なのか?」
「問題ございません。女神様の塔には、そのための力が眠っていると言い伝えられていますので」
倒せるかどうかの問いには私が答えた。
女神の塔で得られる力と、あのアドルの力ならば、邪神は倒せるとリリアはハッキリと言っている。
女神の眷属たる彼女が言うのだ。
流石に絶対という保証まではないだろうが、勝ち筋はちゃんと存在しているはず。
「成程。女神が人類に残した力を使うという訳か……だが調査によると、あの塔には入り口が無いと報告をうけておるが」
当然王国は、突如姿を現した塔に調査団を派遣している。
だが女神によって建造された塔には、入り口などは見つかっていない。
何故なら、資格有る者でなければあそこには入れない様になっているからだ。
「女神様の塔へは、選ばれた物だけが入る事が出来る様になっています。そして私達
さり気無く、自分達が選ばれた者であるアピールをしておく。
まあ実際の条件はレベルが200以上の人間である事な訳だが、現状私達しか入れないのだから少し大仰に伝えても構わないだろう。
まあ例外が居るとすれば、人間であるアドルと契約している聖獣のベリー位の物だ。
「そうか……そなた達
邪神復活は危機的状況ではあるが、逆に私にとって大きなチャンスでもあった。
この討伐作戦が上手く行けば、私は伝説の聖女としてその名を歴史に刻む事になるだろう。
そう考えると、ついだらしなく頬が緩みそうになるが、それをぐっと堪えて聖女として凛々しく宣言する。
「お任せください。聖女セイヤの名において、邪神を倒し必ずやこの世界に光を齎す事をお約束します」
ほんと……私にこんな幸運を運んでくれたアドルやリリアには、感謝しないといけないわね。
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