第13話 クリア

――勝った。


【神殺し】チートスレイヤーを停止させる。


これで……


これでやっと……


感極まって振り返ろうとすると――


「アドル!奴はまだ死んでいない!」


レアが叫んだ。


彼女には【神眼】がある。

その目がグヴェルシャドーの生存を捉えたのだろう。

俺は慌てて地面に転がる奴へと視線を戻す。


「なんだ?」


奴の上下に分かれた体は動いていない。

だが上半身の切断部分から染み出している黒い何かが、地面に吸い込まれているのが見えた。


「マスター!下です!」


下?


リリアの言葉に視線を下に落とす。

すると足元に黒い影の様な物が広がっており、それが泡立つように膨らんで――


そこから無数の黒い刃が飛び出して来た。


不味い!


俺は咄嗟に【神殺し】を発動させ、攻撃を回避する。

染みから飛び出した刃は俺の手足を、そして眉間を深く削り取った。


「ぐっ!つぅ……」


眉間から流れた血が右目に入り、視界を赤く染める。

かなりやばかった。

レア達の声が無ければ、きっと今の一撃で死んでいだろう。


目の前にある影が揺らめき、黒い靄の様な物を吐き出す。

それは人型――いや、化け物グヴェルシャドーの姿へと変わる。


その全身は影の様に黒く。

四つの眼だけが煌々と輝いていた。


グヴェルシャドー・・・・


成程。

影の様なこの姿こそ奴の本当の姿なのだろう。


しかし……制限時間が20秒のままだったらやばかったな。


もう20秒経つ。

【生命力Lv2】の予想外の恩恵が無かったら完全にアウトだったろう。

本当に幸運だった。


「やれやれ、形勢逆転の一手だったんだがな。躱されてしまったか」


「ダンジョンボスともあろう者が、不意打ちかよ」


「不意打ち?何を言っているんだ。戦いの最中に相手の生死も確認せず、油断したお前が間抜けなだけだろう」


「確かに。そう言われると返す言葉もないな」


以前アミュンに刺された時の事を思い出す。

あれから気を付けていたのだが、油断する悪い癖はまだ直っていなかった様だ。

まあ今回は【神殺し】による精神への影響ダメージもあるだろうが。


「だが、勝つのは俺だ」


俺は【生命力Lv2】を発動させる。

ダメージを全快させる方だ。

残念ながら蘇生効果は一度っきりであるため、もう二度と使う事は出来ない。


まあそれを気にする必要は無いだろう。

グヴェルシャドーを倒せば全てが終わるんだ。


――そう、こいつを倒して全てを終わらせる。


「行くぞ!」


「来い!」


グヴェルシャドーが全身から黒い針の様な物を飛ばして来た。

俺はその攻撃を掻い潜り、奴の肉体を滅多切りにする。


「――っ!?」


手応えが無い。

斬った奴の体が陽炎の様に揺らめき、瞬く間に切断面がくっついて回復する。


「くくく。斬撃では俺を倒せんよ」


奴の本体が本当に影だというのなら、確かに斬撃の様な物理攻撃は意味がないだろう。


「これなら!」


剣に闘気を纏わせ切りつけたが、やはり直ぐに元に戻ってしまう

だが先程よりかは、僅かに手ごたえはあった。

大ダメージとはいかないが、闘気ならば攻撃は通る様だ。


戦闘能力は此方が勝っている。

このまま攻撃を続ければ、奴を倒す事が出来るだろう。


問題は時間だ。


「おお、痛い痛い。だがこの程度のダメージじゃ、百発喰らって死ぬ気がせんな」


大幅に伸びたとはいえ、このまま低ダメージで斬り続けたのでは此方のタイムアップが先に来る。

奴もそれを狙っているのだろう。


――だが俺には聖剣アドラーがある。


クールタイムは既に終わっていた。


「百発もいらないさ。一瞬で決める」


俺は奴から間合いを少し離して分身する。

精神への負荷が一気に増すが、ほんの一瞬だけなら問題ない。


そして2重発動ダブルアクティブを発動させ――


「「「喰らえ!マジックフルバースト!」」」


俺と分身二体の剣から放たれるエネルギーは一つに絡みあい、とてつもない破壊のエネルギーとなって奴を飲み込んだ。


「ぐおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


流石の奴も、跡形もなく消滅する。

正に影も形もって奴だ。


「くっ……」


【分身】と【神殺し】を即解除する。

限界だ。

これ以上使えば確実に暴走してしまう。


「くくく。見事だ」


離れた場所から奴の声が聞こえる。

驚いてそちらを見ると、両手の無い奴の上半身が浮いていた。


まだ死なないってのかよ……


こっちは限界だってのに。

化け物め。


「安心しろ。俺はもう死ぬ。お前の勝ちだ」


その言葉に嘘はない。

そう思ったのは、浮いている奴の体がボロボロと崩壊し始めていたからだ。

念のためレアの方を見ると、彼女は俺の判断を肯定する様に頷いた。


「さあ!ダンジョンのクリア報酬だ!受け取れ!」


グヴェルが叫ぶと、天井に浮いていた球体がゆっくりと下降してくる。

それは地上に落ちると割れ、中にいたフィーナ達の死体が飛び出して来た。


「――っ!?」


円形の空間の足元に強い光が走る。

それは見た事のない様な魔法陣だった。

その中央から、石板の様な物がせりあがって来る。


その石板には枯れた木の様な物が描かれており、その10本の枝の先の部分に白く輝く宝玉が嵌まっていた。


――龍玉。


それにはとんでもない力が秘められている。

それは見ただけで分かった。


「さあ!願いを叶えろ!そして――ククク……ハハハハハ!真の絶望を知るがいい!ハハハハハハハ」


真の絶望?


グヴェルシャドーは不吉な言葉を残し、笑いながら消滅していく。


奴が何を言っているのか、俺には理解できなかった。

だがすぐに知り事になる。


――奴が最後に残した言葉の意味を。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る