第12話 全快
生命力Lv2には、一度っきりの効果がある。
それは死亡した際、体力・ダメージ・魔力が全快して蘇生するという物だ。
回復するのはあくまでも自然回復する物に限られ、不治の病や、寿命と言った物は回復しない。
「マスター」
リリアが、苦虫を噛み潰した様な顔で覗き込んでくる。
「大丈夫だ」
一度死んだ事で、倒れてしまった様だ。
俺は直ぐ横に転がっている自らの剣を拾い、立ち上がる。
「どうやら、上手く行ったみたいだ」
自害して発動させた狙いは、ダメージや体力などの回復ではない。
勿論それも必要ではあったが、最大の狙い。
それは――精神力の回復だった。
スキル欄には肉体的な回復しか記載されていなかったが、自然回復可能と書かれた部分から、ひょっとしたら消耗した精神も回復するんじゃないかと俺は推測したのだ。
そしてそれは正しかった。
――爽快な気分だ。
体は生命力が枯渇しかけているため、回復してもなお怠くて重い。
まあそれは仕方がない事だ。
寿命が尽きかけてる訳だからな。
だが、心はとても晴れやかな物だった。
戦いに入る前よりずっと軽い。
どうやら、最初の暴走で発生した根幹部分へのダメージも回復している様だ。
時間さえかければ、それも自然回復が可能な物だったのだろう。
「はははは、成程な」
グヴェルが楽しげに笑う。
「いきなり自害した時は狂ったのかと思ったが。スキル欄に載っていない裏効果を一か八かで試したわけか」
「ああ、そうだ」
どうやらグヴェルシャドーも、俺が何をしたのか気づいた様だ。
だが気になるのはその余裕の態度だった。
俺の切り札である【
ひょっとして、奴は短時間なら何とか出来ると思っているのだろうか?
もしそう考えているのなら、それは甘い考えだ。
俺が【神殺し】を扱える時間は、20秒が限度だった。
だがそれはこの戦いが始まった時点での話である。
【生命力Lv2】の効果で根幹部分のダメージが癒えた今、俺のリミットは倍――いや、恐らくそれ以上に伸びているだろう。
今の俺が時間稼ぎでどうにかなると思ったら大間違いだ。
「準備はいいか?始めるぞ?」
腕を組んでいたグヴェルシャドーが膝を落とし、頭を静める様な形で構える。
どうやら突っ込んで来るつもりの様だ。
時間稼ぎをするつもりじゃないのか?
「皆は下がっていてくれ」
まあ掛かって来るというなら、正面から叩き潰すだけだ。
俺は剣を構え、皆には下がる様に伝える。
下手に近づいて、人質にでも取られたら事だ。
時間的余裕が大幅に増えたとはいえ、余計なリスクは低い方がいい。
「では行くぞ!」
グヴェルシャドーが両手を地面につき、そのまま四足状態で突っ込んで来る。
とんでもないスピードだ。
俺はスキルを発動させ、それを迎え撃つ。
「おおおぉぉぉぉぉ!」
懐に入った奴は低い姿勢から飛び掛かって来る。
まるで獣の様な動きだ。
俺はそれを躱し、奴の腹部へと剣を振るう。
それを奴の肘から受けた爪が受け止める。
だが俺はそんな事などお構いなしに、力ずくで剣を振り抜いた。
「がぁぁぁ!」
吹き飛んだ奴の後を追う。
奴はその鋭い爪で地面を抉る様にして止まり、突っ込む俺に先の尖った尾で攻撃して来た。
それを剣で弾き、奴の顔面に蹴りを叩き込む。
「ぐうぅぅぅぅ……」
負ける気がしない。
デカい口を叩いておいて大した事のない奴だ。
糞雑魚が……っと、心が暗い何かに引きずられている。
以前の様に急激に引き込まれる感じではないが、長く使って楽しい物でもない。
さっさと終わらせるとしよう。
「はぁっ!」
剣を振るい、斬撃波を飛ばす――この状態ならば闘気も自由に扱える。
連続で飛ばし、それに追いつき混ざる様に奴に切りかかった。
「おのれぇ!」
斬撃波と俺の攻撃で傷だらけになりながらも、奴は反撃してくる。
タフな奴だ。
このままだと無駄に時間がかかる。
そう考えた俺は、手にした剣――アドラーに限界まで闘気を流し込んだ。
普通の武器なら力に耐えられずに砕け散っていただろう。
だがテッラの
本当に優れた武器だ。
「おおぉぉぉぉ!!」
一瞬動きの止まった俺に、グヴェルシャドーが両手を頭上で組み、ハンマーの様に叩き下ろして来た。
それを闘気で極限まで強化した剣で切り払う。
それまでとは違う感触。
俺の手にした剣は奴の両手を容易く切り裂いた。
「ぐぅぅ……」
斬り飛ばした両手が地面に転がり、奴は苦し気に後ろに下がろうとする。
だがそれを許す程俺もお人よしではない。
「これで――終わりだ!」
手にした剣で奴の腹部を貫く。
そしてそのまま渾身の一撃を、全開で打ち込んだ
「マジックフルバースト!」
「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
グヴェルシャドーの腹部が吹き飛び、千切れた上半身と下半身がバラバラに転がる。
――俺の勝ちだ。
これで……やっと。
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