第11話 奥の手
「ぐっ……」
「くそっ!」
本性を現したダンジョンボスであるグヴェルシャドー。
全員で連携して攻撃を仕掛けるが、軽くあしらわれてしまう。
「ははははは。どうした?その程度か?」
奴は余裕の態度で、俺達を愉快気に見つめる
その強さは以前戦った皇帝と同等――いや、それ以上だ。
先程からの連戦で消耗までしている俺達では、勝てる見込みは全くないと言っていい。
――このままでは負ける。
逃走自体は可能だ。
リリアがはった結界を解除して、転移の羽で逃げればいい。
だがそれは、実質俺のドロップアウトを意味していた。
リリアが必死に頑張って回復してくれてはいるが、俺の命はもう数日と持たない状態だった。
そして今回の戦いで無理した事で、残り少ない命はギリギリまですり減ってしまっている。
――引き返せば、待っているのは死だけだ。
どうせ死ぬのなら、仲間を退避させてから暴走前提で
暴走した俺なら、確かにグヴェルシャドーにも勝てるだろう。
だがその後が問題だ。
奴を倒した後、フィーナ達の遺体が解放される事になる。
そしてそれを暴走した俺が見逃す可能性は限りなく低い。
きっと狂気に駆られた俺は、目の前に現れた遺体を破壊しつくす筈だ。
そうなれば蘇生自体が出来なくなってしまう――損傷が激しすぎると、蘇生できなくなる。
フィーナを救いに来て、俺がその芽を破壊するなんて笑い話にもならない。
もし一度目の様に正気に戻る事が出来たなら、ボスを倒して元に戻る手が使えたのだろうが……残念ながら二度目はなかった。
リリアが言うには、暴走状態になると、精神の根幹部分に大きなダメージが発生してしまうらしい。
一度目のダメージに加え、二度目の暴走によるダメージが発生すれば、俺の精神は完全に崩壊してしまうそうだ。
だからこそ、時間いっぱいギリギリまで暴走無しで勝つための用意をしてきたのだ。
「どうした?かかってこないのか?」
グヴェルは仁王立ちしたまま動かない。
自分が負けないという、絶対の自信から来る行動だろう。
実際、今のままでは勝ち目は皆無だ。
「……」
この状況を打破する方法――一か八かだが、アレを試すしかないな。
奴と戦う直前に思いついた方法だ。
それが思惑通りに行ってくれれば、きっと奴を倒せるはず。
――まあ、上手く行く確証は全くない訳だが。
どうせ死ぬ身だ。
やれる事は全部やってから死ぬさ。
「ほう……その目。何かある様だな」
まるで此方の心を読んでいるかの様に、グヴェルが紅い四つの目を楽し気に細める。
妨害する気だろうが、無駄だ。
俺が何をする気か分からないのなら、これは止められない。
奴が攻撃を仕掛けて来るなら、それを利用して――
「いいぞ。隠した力があるのなら見せて見ろ」
だが想像とは逆に、グヴェルはその場から動かない。
「余裕か」
「余裕?違うな。お約束という奴だ。
言っている意味は理解し難いが、何らかの美学なのだろう。
まあ動かないなら動かないでいいさ。
「マスター、何をされるおつもりですか?」
リリアが俺の傍に来る。
「ちょっと試したい事がある」
「試したい事?いったい何を?」
リリアは俺の言葉に、訝し気な表情になる。
彼女に聞けば、きっとその成否は分かっただろう。
だがグヴェルに聞かれるのはリスクが高い。
何をするか知られれば、奴に妨害方法を考えさせるヒントになってしまう。
――奴は邪魔しないと言ったが、それを鵜呑みにする程俺も馬鹿ではないからな。
「リリア、悪いけど少し下がっててくれ」
傍にいるとリリアに邪魔されそうなので、離れる様に言う。
その言葉を聞いて、彼女は少し驚いた様な表情を作る。
だがそれも一瞬だけだ。
直ぐいつもの悪い顔に戻った。
「マスター、死ぬ程痛いですよ?」
どうやら、リリアは俺が何をしようとしているのか気づいた様だ。
本当に優秀な奴だと感心する。
「
「そんなんで防ぎきれませんけどね。それと……上手く行くかは私にもわかりません」
どうやらリリアでも結果は分からない様だ。
まあだが、無理ですと言われるよりはましだと考えよう。
彼女が無理と言ったら、可能性すらなくなってしまっていたからな。
「そっか……ま、どちらにせよ勝てなければ終わりだ。なら、試せる事は全部試すさ」
「私にも奥の手があるんですけど。それはマスターが失敗した時に取っておきますね」
「はは、そいつは頼もしいな」
リリアは
だが彼女の能力は防御特化だ。
限界を超えた力で相手を抑え込む事は出来ても、倒す事は出来ないだろう。
――動きを押さえた位で、俺達に倒せるレベルの強さでもないしな。
まあそれ以前に、俺の為に無理をしてリリアが壊れるなんて論外だ。
「けど、折角だから俺が格好良く終わらせてやるさ」
俺は上手く行くと信じ、剣を片手で頭上に掲げる。
そして柄を回転させ、刃を下に向けた。
そしてその切っ先を自身の心臓に向け――俺は迷う事無く突き刺した。
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