第10話 vsダンジョンボス②
「はぁ!」
四足の魔獣を俺は手にした剣で切り裂いた。
俺達の周囲には、数体の赤い遺体が転がっている――通常のモンスターは死ぬと消えるが、グヴェルシャドーは全ての体がリンクしている為か、殺してもその死体が残っていた。
――レアの方を見ると、彼女は首を縦に振る。
彼女には、神眼で始末した魔獣達の死亡確認をして貰っていた。
万一討ち漏らしがあると、とんでもない事になってしまうからだ。
「よし!次だ!」
その声に反応し、結界の形が変わって次の集団が飛び出して来る。
ダンジョンボス攻略は順調に進んでいいた。
俺の先制で放った攻撃でグヴェルシャドーは半減しており、更にその半分も各個撃破でもう討伐済みだ。
――残るダンジョンボスの数は二十三体。
新たに目の前に躍り出たグヴェルシャドーのグループは十一体だ。
少し多目ではあるが、今の俺達なら問題なく対処できるはず。
そしてこいつらさえ処理しきれば、もう勝利は目の前だった。
チラリと振り返って確認すると、苦し気な表情のリリアの姿が……
彼女が顔を歪めるくらいだ。
恐らく結界はそう長くは持たないだろう。
頼む。
もう少しだけ頑張ってくれ。
そう祈りつつ前に出た。
「力を使う!」
俺は最初以降温存してきた力――封印状態の【
――まずは一体。
レアとドギァさん。
ガートゥとテッラ。
セイヤさんとベリー。
二人一組で組んだ彼女達は、上手く敵を分断する様に動く。
レアとガートゥとセイヤさんがメインで、ドギァさんとテッラとベリーがサポートする形だ。
そして俺の担当は残りの三体だ。
「君達!やるじゃないか!」
魔獣三体が、その尻尾をドリルの様に一斉に打ち込んで来る。
俺はそれを躱しつつ、一体を切り裂いた。
――二体目。
精神的な疲労は大きいが、やはりこの力は強力だ。
全く負ける気がしない。
飛び掛かって来た二体をいなしつつ、更に片方を斬り棄てる。
――残り一体。
「はぁっ!」
最後の一体を素早く切り裂いた。
そしてすぐさま敵と対峙している仲間達に加勢に入る。
程なくして戦闘が終わる――と同時に結界が消えた。
崩壊というよりは、消滅という感じだ。
状況から最早結界が不要と判断したリリアが、魔法を解いたのだろう。
いい判断だ。
――残りは十二体。
「もうひと踏ん張りだ!」
こいつらの数を削り、ラスト三体程を俺の攻撃で同時に倒す。
そうすれば、この戦いは終わりだ。
「リリアちゃんビーム!」
リリアが地面をスケートで滑る様に俺の横にやって来て、その額のティアラからビームを放つ。
それは先頭の一体に直撃して吹き飛ばした。
「さあ、ごみ処理の時間ですよ。マスター」
「間違って一匹にするなよ」
「マスターじゃあるまいし、超高級品のリリアちゃんはそんな間抜けはしませんよう」
最期のグヴェルシャドーの集団を迎え撃つべく俺が前に出ると、リリアもその横に並ぶ。
後衛の癖に前に出るなよと言いたい所だが、破壊力こそない物の、彼女の体術は超一級品だ。
頼りになる相棒だよ。
ほんと。
「勝った気になるのはまだ早いんじゃいかい!」
グヴェルシャドーが俺達に突っ込んで来る。
「早くはないさ!」
俺達にもう負けはない。
結界が持たず、途中で崩壊する事が唯一の危惧であったが、その心配ももうなくなっている。
後気を付けなければならないのは誤って敵を一匹だけにしてしまう事だけだが、そんな間抜けな真似をする奴は俺達の中にはいない。
「勝たせて貰う!」
俺達は襲い来るグヴェルシャドー達の数を一匹、また一匹と確実に数を減らしていく。
そしてその数が二匹まで減った所で、纏めて捕らえる様に、リリアが小さな結界でその動きを封じた。
「レア」
「間違いなく全て死んでいる」
彼女に最後の確認をして貰う。
問題ない様だ。
「分かった。セイヤさん、封印を」
「分かりました」
俺は一旦スキルを止め、そしてセイヤさんにかけて貰っていた封印を解いてもらう。
二匹同時に確実に仕留める。
そのためにフルパワーを出す為だ。
更に魔力と体力を彼女に回復して貰い――
「これで決める!マジック!フルバースト!」
全てを込めた
それは結界ごと――解くとバラバラに逃げられる危険性がある――中にいたグヴェルシャドーを跡形もなく消し飛ばす。
俺達の……勝ちだ。
「きっつ……」
即座に
順調に進んでなお、それでも俺の精神は限界に近い状態だ。
一見危なげない勝利の様に見えて、実の所、ほんの僅かでもイレギュラーがあったらどうなっていた分からない勝負だった。
「やったべ!」
「お見事です。マスター」
ふらつく俺の背中を、リリアとテッラが支えてくれる。
彼女達にはこれまで本当に世話になった。
感謝の言葉もない。
「終わったな……」
「ああ、あたしたちの勝ちだ」
レアが微笑み、ドギァさんが彼女の肩を笑顔でバンバン叩いている。
二人の目じりには涙が薄っすらと浮かんでいた。
「これでフィーナ達を――」
一時は絶望して諦めそうになった事もあった。
だけど、これでやっと――
「喜ぶのはまだ早いんじゃないかな?」
突然、喜び合う背後から子供の様な甲高い声が響いた。
俺はそれに驚いて振り返る。
「そんな……馬鹿な」
遠く離れた場所に転がるグヴェルシャドー達の中から――ボロボロの体をした魔獣が一体、ゆっくりと立ち上がって来た。
俺はそれを信じられない思いで見つめる。
「対策して来る事は分かっていたからね。だからその対策の対策をさせて貰ったんだ」
「どうやって……」
敵の死亡は逐次レアに確認して貰っている
彼女が見落としたとは思えない。
恐らく、何らかの方法で此方の認識を奴は欺いたのだ。
「簡単な事さ――」
グヴェルシャドーの背中が裂ける。
そしてその中から、別の赤い魔獣が姿を現わした。
「君の最初の攻撃で粉々にされたふりをして、体の残った死体の中に潜んでいたのさ。神眼のチェックは、上に被ってある死体が誤魔化してくれたって訳だよ」
「く……」
最初の一撃。
まさか奴がこの状態を想定し、しょっぱなからそんな真似をしていたなんて……全く気づけなかった。
そもそもダンジョンを支配する圧倒的強者が、そんな小賢しい真似をするとは考えもしなかった事だ。
「あははははは。ボスの癖にそんなせこい事をするなって思った?でも、ざーんねん。僕はラスボスじゃないからね」
「何!?」
まさか、奴はダンジョンボスじゃないというのか?
だがレア達は、5ヶ月の探索でダンジョン内を隈なく探査している。
今戦っているこの場所以外は確認済みだ。
他に何かが潜めるとは思えない。
いや、そんな事はどうでもいい。
俺達の目的はあくまでもフィーナ達の復活だ。
仮にほかに何かがいたとしても、こいつさえ倒せれば目的は果たせる。
何としてでもこいつを倒さなければ……
「さて……じゃあ本気で行こうか」
グヴェルシャドーの声が、かん高い子供の物から低く響く物へと変わる。
そしてその目が怪しく光った。
奴からとんでもない力を感じ、俺の背筋に寒気が走る。
「うぉう!」
「させっかよ!
そんな中、ベリーとガートゥが動いた。
魔物としての本能がそうさせたのだろうか?
だが彼らの攻撃はグヴェルシャドーの前で、まるで壁に当たったかの様に弾き飛ばされ消えてしまう。
「ぐぅぅぅ……」
「ちっ!」
「ははは。変身を邪魔する様な無粋な真似はさせんよ」
奴の体がミシミシと音を立てて膨らんでいき、人型の化け物へと変わっていく。
2メートル程の肉体。
その全身は赤くひび割れ、両肘からはかぎ爪の様な物が生えていた。
「さて……ここからが本番だ」
その4つの赤い目が輝き、奴は牙の見える口元を歪ませる。
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