第9話 vsダンジョンボス①

「マジック!フルバースト!」


普通に撃てば、巻き込める数は少ない。

俺は放出されるエネルギーを、広範囲に拡散する様に放つ。


「――っ!?」


――俺の一撃は無数の矢となって、グヴェルシャドー達を貫く。


本来、マジックフルバーストはエネルギーの塊を撃ちだすだけの技でしかない。

俺はこの5か月間、広範囲をカバーする撃ち方を精神の訓練と同時に行ってきたのだ。

これはその成果だった。


「よし!もう一発!」


俺の手にする剣。

アドラー固有のスキル、2重発動ダブルアクティブを発動させた。

このスキルは、直前に使ったスキルを無消費で再発動する事が出来る。


――再び放たれた俺のマジックフルバーストが、グヴェルシャドーの一部を消し飛ばす。


俺の強烈な連撃に、他の奴らは驚いて足を止めた。

今の攻撃で30匹以上は仕留めている。

上出来だ。


「流石です」


セイヤさんが俺の横に立ち、素早く魔力と体力を回復させてくれる。

本来、彼女に魔力を回復する様な能力はない。

これはダンジョン探索で手に入れたマジックアイテム、奉仕の指輪の効果だ。


――奉仕の指輪には、自身の体力と魔力を他人に譲渡する効果がある。


普段なら魔力の回復はリリアの役だが、彼女にはこの後大きな仕事があった。

そのため、セイヤさんがアイテムで代わりを務めてくれているのだ。


「あ!回復してる!」


「ズルいぞー」


此方の動きに気付き、足を止めていたグヴェルシャドー達が再び突っ込んで来る。


「もう十分です」


全快ではないが、ゆっくり回復して貰っている余裕はない。

俺は剣を構える。


最初の一撃も、今度の攻撃にも分身は出していなった。

分身は基本、俺と感覚が同期している。

そのため、動かすと精神への負担が増してしまうのだ。


半分しかない能力の分身の為に、負担が倍増するのは流石に効率が悪すぎるからな。


「マジック!フルバースト!」


再び必殺の一撃を放つ。

魔力が万全でない為、威力はどうしても落ちてしまう。

確実に倒す為、俺は力の分散を押さえた。


今度は10匹ちょっとだ。

2重発動ダブルアクティブは残念ながら連発出来ないので、今回は一発だけだ。


――約半分。


敵は俺の攻撃で半数近くまで減っている。

だがさっきとは違い、グヴェルシャドー達は攻撃に怯まず突っ込んで来た。

魔獣共が目の前に迫る中、俺は【神殺しチートスレイヤー】を一旦切る。


マジックフルバーストでもっと数を減らしたい所だが、魔力の回復が間に合わない。


ここからは――


迷宮超結界グレートラビリンス!」


3人に分身した――より強力な結界を張る為――リリアが、魔法を発動させる。

広い空間全体に輝く文様が走り、光の壁が迷宮の様にグヴェル・シャドー達を分断していく。


――この結界で小分けにし、敵を各個撃破していく作戦だ。


最初に頭数を減らしたのは、結界を少しでも長く維持できる様にするためだった。

レベル的にはリリアの方が勝っているとはいえ、流石に100体近い魔物に攻撃されたのでは、結界が直ぐに破壊されてしまうのは目に見えていた。


「封印を」


「お願いします」


セイヤさんがスキルを封印してくれる。

その間、仲間達は最も近くで分断されている集団に攻撃を仕掛けた。


俺もすぐに参加するつもりではある。

但し、可能な限りスキルは使わない方向で。


――なぜなら、ラストアタックの為にある程度余力を残しておく必要があるからだ。


グヴェルシャドーには本体がいる。

だがどれが本体かを見抜く事は出来なかい。

何故なら、その全てが分身であり本体だからだ。


そして最後に残った個体が本体となり――そこで初めて奴は真の力を発揮する。


それを回避するため、殲滅の際は最低二匹以上同時に倒す必要があった。

そのために俺は力を温存しなければならないのだ。


因みに、その情報源はリリアである。


何故彼女がそんな事を知っているのか?

正直不思議な事ではあるが、俺はそれを詮索するつもりはなかった。

聞いてもどうせはぐらかされるだろうし、何より、じき製作者であるフィーナが蘇るのだ。


――終わってからフィーナに聞けばいいだけだからな。


「回復します」


セイヤさんに再び回復して貰う。

二回目の回復も彼女なのは、可能な限りリリアの魔力を温存する為だ。

結界の維持や張り直しがこの作戦の肝である以上、リリアの魔力は可能な限り温存する必要がある。


だから精神安定の魔法も無しだ。

あれは思っている以上に、魔力を使う物らしいからな。


「いけますか?」


「大丈夫です」


魔力と体力が全快する。

若干頭が重いが、これは精神的な疲労から来る物なのでどうしようもない。


「マスター。あんまり長くはもちそうにないので、チャチャッと終わらせてくださいねぇ」


口調はいつも通りだが、その表情は真剣な物だった。

言葉通り、長くは持たないのだろう。


「善処するよ」


そう軽く答えを返し、俺はセイヤさんと共に仲間達へと合流する。

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