第14話 蘇生
「勝った……んだよな?」
思わず呟く。
本来なら勝利に歓喜するところだが、奴の最期に残した言葉が引っかかった。
まさかあの龍玉が偽物とか言わないだろうな?
俺は不安に駆られ、リリアの方を見る。
「マスター。なに挙動不審な事されてるんですかぁ?心配しなくても、アレは正真正銘本物の龍玉ですよ」
察しのいいリリアは、俺の考えを呼んで答えを返してくれる。
だが気のせいだろうか?
いつも通りの斜に構えた生意気な表情だが、そこに少し陰りがある様に俺には感じられた。
「さ、頑張った御褒美を頂くとしましょう」
「そうだな」
気のせいだよな。
きっと。
龍玉の嵌まった石板の前に立つと、「バン!」と勢いよく背中を叩かれ俺は振り返る。
「アドル……礼を言わせくれ」
「ドギァさん」
「お前さんが頑張ってくれたから、皆を生き返らせる事が出来る。ありがとう」
彼女の眼には薄っすらと涙が浮かんでいた。
パーティーメンバーの中で、彼女の戦闘能力は低い方だ。
だがその豊富な経験から来る、スピードを生かした的確なかく乱は確実にダンジョンクリアに貢献してくれていた。
寧ろ礼を言いたいのは此方の方だ。
「私からも礼を言わせてくれ。ありがとうアドル。それに皆も」
そう言うレアの目にも涙が浮かんでいる。
始まりは彼女との出会いからだった。
レアがフィーナを救うための情報とリリアを持ってきてくれたからこそ、ここまでたどり着けたんだ。
「二人とも、礼を言うのは俺の方だ。ありがとう。それに皆も本当にありがとう」
「私は聖女として当然の事をしたまでですから、お気になさらずに」
「ワオウ!」
セイヤさんはベリーの首筋を撫で、満足そうに微笑む。
流石は聖女だけはある。
世界の為にあろうとするその姿勢は、本当に素晴らしい。
「これで少しは借りが返せたべな」
「俺は歯ごたえのある戦いが出来て楽しかったぜ」
ガートゥとテッラが並んで親指を立てる。
二人は凸凹コンビだが、連携に関してはレアとドギァさん以上の完璧なコンビネーションを持ち合わせていた。
俺の居ないダンジョン探索、実践の中で磨いていた様だ。
「いいんですよ?様付けで呼んでも?もしくは、レディーでも可です」
「呼ぶか!」
「あら残念」
「さて、それじゃあ」
フィーナ達をいつまでも待たせる訳にはいかないからな。
俺は正面を向き、石板に嵌まった龍玉に手をかけた。
一見しっかり嵌まっている用で、案外簡単に外れてくれる。
「ん?」
気のせいだろうか?
龍玉を外した途端、石板の光が弱まった気がする。
手にした龍玉をリリアに渡し、もう一つに手をかけた。
「龍玉を外すたびに、石板の光が弱くなるな」
勘違いではなかった。
今度は確認しながらなので間違いない。
「リリア。どういう事だかわかるか?」
「いえ、流石に私もそこまでは」
珍しく、リリアが困った様な表情を作る。
いつも自信満々の彼女がこんな顔をするのは珍しい事だ。
まあ本当に知らないんだろう。
「少し気にはなるけど――」
グヴェルシャドーの遺した言葉が気がかりだ。
このまま全てを取り外せば、ひょっとしたら何かが起こるのかもしれない。
――だが、だからと言って残り8個を諦めるという選択肢はなかった。
俺は残りの龍玉を全て外す。
すると石板は完全に光を失い、黒ずんでボロボロと崩れ落ちた。
「……」
「特に何も起きませんねぇ」
「ああ」
気にし過ぎだった様だ。
奴の最後のあの言葉も、きっと嫌がらせに近い捨て台詞だったのだろう。
「じゃあ皆の復活を――」
「生命力の回復が先ですよ、マスター。いつこと切れてもおかしくないんですから」
まだ大丈夫な気もするんだが……
とは言え、万一フィーナ達を蘇生させている最中に突然寿命が尽きたら確かに馬鹿みたいだ。
ここは素直に、リリアの言う通りにするとしよう。
「分かった。頼むよ」
「では――」
彼女が短く何かを唱えると、手にした龍玉が光り出す。
それを彼女は俺の胸に押し当てた。
――温かい。
足りない何かが満たされる感覚。
全身から疲労が抜けていき、代わりに生きる活力が全身に満ち溢れて来る。
限界まで追い込まれていたからこそハッキリと分る。
これこそが命の
「我ながら完璧ですねぇ。さ、それでは皆さん方の蘇生へと移るとしましょうか」
倒れている9人の上に、龍玉が一つずつ乗せられる。
リリアが呪文を口ずさむと、全ての龍玉が眩しく輝き出した。
そしてその光は、フィーナ達の体へと吸い込まれていく。
「う……うぅ……」
「なん……だぁ?」
アイテムの効果は本物だ。
それまで死んでいた人達が、龍玉の力で息を吹き返しだす。
そして――
「う……ん」
フィーナの瞼がゆっくりと上がり、その青い瞳が姿を現わす。
それは懐かしい、俺のよく知っている目だ。
「ア……ドル?アドル……なの?」
「フィーナ!」
俺は感極まり、思わず彼女を抱きしめた。
そんな俺を、フィーナが抱きしめ返してくれる。
「アドル……ありがとう。ダンジョンを攻略して、私を生き返らせてくれたんだね。大変だったでしょ?」
「なんてことないさ。皆も手伝ってくれたんだ」
10年ぶりの再会。
それが嬉しくて、嬉しくて……だから俺は気づけなかった。
フィーナがあり得ない言葉を口にした事に。
そしてそんな彼女を、凍てつく様な冷たい眼差しで見つめるリリアの様子にも。
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