第7話 ミーティング

「という訳で、優先順位なんですが――当然討伐参加者が最優先になります」


ダンジョン攻略直前の、全員で集まってのミーティング。

仕切りはいつも通りリリアが務めている。


「そこは文句を言わせません」


「言わないさ」


リリアの言葉に、ドギァさんが頷く。

他もその事には異論はない様だ。


今話をしているのは、龍玉の優先使用の事だ。

ダンジョン攻略で手に入る数は10個――ダンジョンボスの言葉を信じるのならばではあるが。


1つは俺の生命力補填用。

残りは、死んだ女神の天秤のメンバー9人を蘇生する為に使う予定だった。


――但し、それは順調にクリアできればの話だ。


此方の準備が万全でない以上、誰かが命を落とす可能性は十分にあった――【生命力Lv2】があるので一回は蘇生するが、2回目が無いとも限らない。

当然の事ながら、その場合蘇生は討伐参加者を優先する事になる。


「それと言うまでもないですが、マスター回復用に一つ。フィーナさんの蘇生も優先になります」


俺とレアにとって、フィーナの蘇生は最優先事項だった。

当然リリアもそうなる。

彼女の件があってこのパーティーが組まれている以上、当然フィーナの蘇生は最優先だ。


「異論はありますかぁ?まあ認めませんけど」


「異論はないさ。ただ、それ以外の龍玉で生き返らせる女神の天秤のメンバーは私に決めさせて欲しい」


ドギァさんは真っすぐに俺達を見てそう口にする。

それは覚悟を秘めた眼差しだった。


「いいんですか?私が適当に決めた方がいいと思いますけど?」


「いや。解散したとはいえ、私は女神の天秤のリーダーだった。だから……」


誰かを選ぶという事は、誰かを切りすてるという事に他ならない。

それを選ぶのは辛い事だ。

しかも長く苦楽を共にしたパーティーメンバーなら、猶更である。


苦渋の決断ともいうべきそれを、彼女は女神の天秤のリーダーとして背負おうつもりなのだろう。


「それと……私が死んだ場合、その分は死んでいる天秤のメンバーに使ってやって欲しい。優先順位は後で書いて渡すから」


「ドギァ!?」


レアが驚いた様に席を立つ。


ドギァさんはこの中では、一番能力が低い。

しかも前衛に位置するポジションだ。

最も死ぬ確率が高い人物と言っていいだろう。


それが分かっているからこそ……


「私はリーダーだからな。仲間達を救う義務がある」


レアの話を聞く限り、パーティーの壊滅は避けようのない不運だったとしか思えない。

それでも彼女は、リーダーとして仲間を守れなかった事を悔やんでいるのだろう。


だが――


「それは却下します」


そんなドギァさんの言葉を、リリアはあっさり却下する。


「何故だ?」


「自分が死んでもなんて考えていたのでは、勝てる戦いも勝てなくなってしまいますから。一人でも多く救いたいのなら、死なずに戦い抜いてくださいな」


「正論だべな」


テッラがリリアの言葉に同意する。

まあ確かに、死んでも何て考えは逃げ道になってしまう。

只の心構えではあるが、勝つために必要なのは決して諦めない心だ。


それの有る無しで、結果が変わって来る事だってある。


まあだったらなんで優先順位つけてんだって話ではあるが……それはセイヤさんを納得させるためだった。


セイヤさんは自分の蘇生が確約されていなければ、生き延びるために消極的な戦いをする可能性があった。

何故なら、彼女にとってダンジョン攻略には命を賭ける程の意味などないからだ。


だからルールとして定めて宣言し、セイヤさんを納得させる必要があった。


命を賭けて全力で戦っても大丈夫。

貴方は確実に蘇生されますよ、と。


「勘違いして貰いたくないんですが、優先順位を付けたのはあくまでも方針としての決め事でしかありません。私は、誰一人かける事なくクリアするつもりですので」


「リリアの言う通りだ。自分のパイを譲るのではなく、生きて皆を蘇生させよう」


「そうだな。さっきのは聞かなかった事にして欲しい」


レアの言葉に、ドギァさんが頷く。

正直綺麗ごとではあるが、目指すならハッピーエンドが理想だ。

そのために俺も全力を尽くすとしよう。


「では、続いて戦術の方ですが、まずはマスターに――」


リリアがミーティングを続ける。


ダンジョン攻略は三日後だ。

短い様で長かった。


――待っててくれフィーナ。


必ず君を救って見せる。

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