第6話 旅
――期限一月前。
「間に合いました」
休憩中、急にリリアがそんな事を口にする。
こ憎たらしく口の端を歪めて笑うその顔には、どこか安堵の色が見て取れた。
「間に合ったって……メンタルポーションが手にはいたって事か?」
リリアが言っていた、精神耐性を付与するスキルポーションだ。
彼女の言葉を疑っていた訳ではなかったが、このぎりぎりまで見つからなかった事から、入手は絶望的と考えていた。
だがどうやら間に合ってくれた様だ。
「全く、無駄に
「誰がヘタレだ。誰が」
そう言い返しつつも、確かに我ながら情けないと心の中で嘆く。
タイムリミットギリギリだというのに、現状は封印状態で20分、フルパワーだと15秒程度が限界だった。
仲間達がレベルを上げているとはいえ、このまま戦っても万に一つ勝機はない。
勝敗は完全にスキルポーションの効果に委ねられていると言っていいだろう。
「今から皆さんが戻ってきますから、早速飲んでみるとしましょう」
「ああ。皆には礼を言わないとな」
手に入った事が嬉しい反面、恐ろしくもあった。
――もし何の効果も無かったら?
何せ、邪神の名を冠したスキルから生まれた
セイヤのユニークスキルでも封印しきれていないのだ。
メンタルポーションによる精神耐性を無視する可能性は十分に考えられた。
仮に効果自体があったとしても、その影響が小さければダンジョン攻略は断念せざる得ないだろう。
俺のリミットは俺だけのものだ。
それに皆を巻き込むわけにはいかないからな。
勝機が無い様なら、素直に諦めるしかないだろう。
――その時は、皆に後を託す事になる。
「大丈夫ですよ。ダンジョンは攻略出来ますから。この超高級品のリリアちゃんを信じて下さいな」
考えていた事が顔に出てしまっていた様だ。
リリアのこの自信がどこから出て来ているのかは不思議だが、彼女にそう言われると、本当にそうなる様に感じて不安が吹き飛んでいく。
「はは、そうだな。信じるよ。口と態度は悪いけど、性能はぴか一だからな。リリアは」
「何を言ってるんです?この愛らしさの塊であるリリアちゃんに、悪い部分何て存在しませんよ」
リリアが両手の人差し指と親指でハートマークを作り、ドヤ顔しつつ上半身を捻る。
ハートは愛らしさを表現しているのだろうか?
相変わらずの謎ポーズだ。
「ひれ伏してくれていいんですよ?」
「するか!」
「おやおや、まだ私の偉大さが伝わっていないとは。残念ですねぇ」
偉大かどうかは置いておいて、感謝はしてる。
「なあリリア。お前は何かしたい事とか、欲しい物ってあるか? 」
「なんです?藪から棒に?」
思えば宝玉を買った――正確には全財産をパクられた――以外、彼女には何もしてやれていない。
だから、全てが終わったらリリアに何かお礼をしようと思う。
「何だかんだで、お前には色々としてもらってるからな。ダンジョン攻略が終わったら、何かしてやろうと思ってさ」
「……」
リリアは変なポーズを辞め、黙って空を見あげる。
その表情は少し寂し気だ。
やがて彼女はいつものこ憎たらしい表情に戻って、口を開いた。
「そうですね。全てが終わったら――旅をしてみたいですねぇ。マスターと一緒に、旅して色んな所を見て周りたいです」
「旅か……悪くないな。じゃあフィーナや皆も誘って行くか」
旅の連れは、多ければ多いほどいいって聞くしな。
セイヤさん辺りには確実に断られそうだけど、レアやテッラ辺りは誘ったらオーケーしてくれるだろう。
「……そうですね。そこでマスターよりもいい主を見つけて、サクッと乗り換えたいと思います」
「えぇ……」
「何せ私は超高級品ですから。心技体、知性品性共に完璧な主こそ私に相応しいですから」
そんな奴いるか?
いたとして、口の悪さで向こうからお断りされそうな気がするが。
「さ、休憩はおしまいですよ。ちゃきちゃき訓練してくださいな。残された時間も少ないんで」
「あ、ああ……」
リリアの機嫌が少し悪くなった気がするが……まあ気のせいだろう。
要望を断ったんならともかく、オーケーだした訳だしな。
怒る理由などない筈だ。
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