第5話 頼み事

「この通りに手を加えればいいんだべか?」


リリアから宝玉と設計図を手渡される。

魔法には詳しくはないが、手にしただけで宝玉にはとんでもない魔力パワーが込められているのが分かる。

一体どこで彼女はこんな物を手に入れたのやら。


「ええ。ダンジョン攻略はもう結構なんで、よろしくお願いしますね」


ダンジョン攻略最大の目的であったメンタルポーションは、既に手に入っている。

その効果は劇的で、アドルが力を維持する時間が倍になった程だ。

それは後2ヶ月に迫った期限に、明るい光を照らしだしたと言っていいだろう。


――後は、限界まで各自のレベルを上げるだけだ。


「しかしこれは……」


リリアから渡され設計図。

それは以前、ティアラに嵌めた宝玉に施したものと同じような物だった。


――外部からの魔力を取り込む機構。


「まさか……自爆する気じゃないべな?」


宝玉には既に出鱈目な魔力が込められている。

そこに更なる魔力を流し込めば、最悪、大爆発もあり得た。

そしてその際の破壊力は、とんでもない物になるだろう。


「私には【生命力Lv2】があるから平気ですよ」


【生命力Lv2】は死者を蘇生させる物だ。

果たして命を持たない人形である彼女が、死者として蘇生されるかは怪しい所だった。

恐らく、それは彼女も気づいている筈だ。


だが私はそんな無粋な事を口にする気はなかった。

誰にだって、全てを捨ててでも守りたい物。

かなえたい願いがある。


私達ドワーフが優秀な武具を作り上げる事に全てを捧げるのと同じ様に。


「分かったべ」


「出来れば早めにお願いしますね」


もう用はないと言わんばかりに、リリアが此方に背を向けてさっさと立ち去ろうとする。

私はそんな彼女を呼び止めた。


「リリア」


「なんです?何か用でも?」


「ワタスはアドルやリリアに感謝してる。だから……もしワタスの命が必要になったら、いつでも言うべ」


私の言葉にリリアが目をパチクリさせる。


オリハルコン、そしてダークマターで作った剣。

それらはどう足掻いても、私だけでは手に入らなかった材質によって生み出されている。

究極とまではいわないが、ドワーフとしての本願はもうほとんどかなっていると言っていいだろう。


それらの素材を手にする事が出来たのはアドル。

そしてリリアのお陰だ。


最初アドルは、私のパーティー入りを断ろうとしていた。

それを変えさせのがリリアだ。

思惑があっての行動だったのは、もちろん分かっている。

だが理由はどうあれ、彼女のお陰で私はパーティーに入ることが出来たのだ。


だから私は、アドルと同じぐらい彼女に感謝していた。


「本気ですか?」


「本気だべ。ドワーフは受けた恩は必ず返す種族だべな。だから、必要なら遠慮なくワタスに言うべ」


ドワーフとしての本願を果たさせてくれた二人の為ならば、私は喜んでこの命を使うつもりだ。


「……」


リリアが真っすぐに私の瞳を見つめる。

普段のにやけ面ではなく、真顔で真正面から。


しばしの沈黙が続く――


「でしたら……私の事はどうでもいいので。万一私に何かがあったら、その時は私の代わりにマスターを守って頂けますか?」


――それを破って口を開いたリリアは、自分の事よりもアドルの事を頼むと言って来た。

彼女はどこまでもアドルの事を優先する。


出来れば、リリアにも死ぬ様な真似はして欲しくなかった。

だが、私はそれを口にせず――


「分かったべ!アドルは何がなんでもワタスが守って見せるべ!」


「……ゴザイマス」


リリアが小声で何かを呟く。

そしてくるりと私に背を向けると「マスターが待っているので」といって、その場から去って行った。


「別に礼なんていらないべ」


私が彼女にしてやれる事は少ない。

口惜しい事だが、それをうだうだ考えても仕方がない事だ。


――だから、今は目の前の事に集中するとしよう。


「さて!今日から徹夜だべ!」

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