第30話 トドメ

「ちっ!鬱陶しい!」


皇帝は強い。

その強さは明らかに次元の違う物だった。

だが流石の奴も、単独では救世主セイバーの面々の猛攻を凌ぐので精いっぱいの様だ。


戦況は確実に此方へと傾いている。

このままいけば、間違いなく奴を倒せるはずだ。


「皆!無理をするな!確実に倒すぞ!」


俺は慎重に攻める様、指示を出す。

無理をして、手痛い反撃を喰らってはたまらないからな。


【生命力Lv2】で最悪死んでも蘇生できるとは言え、アレは一回こっきりの効果だ。

ダンジョン攻略に残しておきたいので、この様な所で無駄遣いは出来ない。


「レア!体力がやばそうなら、早い目にリリアに回復して貰ってくれ」


「分かっている」


俺やテッラとは違い、レアのブーストは時限式だ。

ここぞって時にガス欠になられても困るからな。


「ゴミ共が!調子に乗るな!」


皇帝が両手にした剣――二刀――を高速で振り回し、魔力と気の合わさった無数の斬撃波を弾幕の様に辺りにばらまく。


だがそれを――


「そう言うの。負けフラグって言うんですよ」


「全くです」


「「反射結界リフレクター!」」


リリアとセイヤが同時に結界を張る。

本来なら別々に発動されるはずのそれは、一つに綺麗に合わさり、黄金の壁となって皇帝の周囲を円状に覆う。


「くっ!」


それは攻撃を防ぐだけの結界ではなかった。

結界に触れた斬撃波は、全て皇帝へと跳ね返されていく。


跳ね返された攻撃を、皇帝は全て躱しきる。

凄まじい身体能力だ。

だが攻撃を避けても、避けた先で結界に弾かれ、再びそれは皇帝目掛けて襲い掛かかった。


「これは!?」


皇帝の周囲を斬撃刃が乱れ飛ぶ。

奴はそれを避けるので手いっぱいだ。


「レア!今のうちに体力の回復を――」


その隙に回復をと思ったのだが、皇帝の全身から凄まじいエネルギーが放たれ、乱れ飛ぶ斬撃波を結界ごと吹き飛ばしてしまった。

とんでもない力技だ。


しかし――


「はぁ……はぁ……この皇帝エターナルを舐めるなよ」


奴の息は上がっている。

今ので一気に体力を消耗したのだろう。


「隙だらけだよ!」


その背後をドギァさんがとった。

素早い判断からの、気配を殺しての奇襲。

流石は女神の天秤のリーダーだけはある。


「はっ!貴様の奇襲など!」


皇帝が鼻で笑う。

確かに、この中で一番非力な彼女では皇帝相手ににまともなダメージを与える事は出来ないだろう。


だがドギァさんの腕には――蛇に変身したベリーが巻き付いていた。


「ぐぁっ!」


至近距離から放たれるベリーの雷。

驚異的な身体能力を持つ皇帝でもこれは躱せない。

攻撃が見事に直撃し、苦悶の声を上げる。


「このゴミが!」


「ぐぅっ!?」


皇帝の反撃を喰らい、ドギァさんは吹き飛んでしまう。

だが十分だ。

奴の意識を逸らすという役割を、彼女は完璧に果たした。


「皇帝!」


「オラァ!」


隙だらけの皇帝に、レアとガートゥが背後から同時に切りかかった。

それを奴はは辛うじて受け止める。


「押し切るぜ!翠魔閃光斬エメラルドバスター!」


「決める!マジックフルバースト!」


その状態からレアとガートゥは必殺の一撃を放つ。

流石に直撃に比べれば破壊力は相当劣るが、それでも同時に放たれた攻撃を受けて皇帝が大きく吹き飛んだ。


「この程度ぉぉぉぉ!!」


皇帝が地面に足をめり込ませ、踏ん張る。

全くとんでもない化け物だ。

だが、攻撃はまだ終わっていない。


「喰らうべ!ダブル!アースクエイク!」


レアとガートゥを背後から飛び越え、テッラとその分身が着地と同時にアースクエイクを放つ。

地面から突き出される土柱を真面に受けて、皇帝は更に吹き飛んだ。


「貴様らぁぁぁ!!」


だがそれでも皇帝は倒れない。

全身ボロボロになりながらも、怒りの咆哮を上げる。


だが、もう限界だろう。

そろそろ終わりにさせて貰う。


俺は左右から挟み込む様に皇帝に切りかかった。


「トドメだ!」


雑魚モブ風情が!調子に乗るな!」


皇帝が二刀で斬撃を左右に放つ。

だがそれが当たる直前、俺の体は消えてなくなる。


「なんだと!」


今のは分身だ。

俺自身は、アースクエイクで出来た土柱を避けて奴の前に躍り出る。


「隙だらけだぞ!皇帝!」


「ぐぉ……」


左右に手を広げる形で斬撃波を打ったため、皇帝の胴はガラ空きだ。

そこに剣を真っすぐに突き立てる。

だが渾身の力を込めたその一撃は、黒衣の鎧に罅を穿つだけだった。


かったい鎧だな。


だが――


「これならどうだ!マジックフルバースト!」


最強の一撃を放つ。

それをもろに受けた皇帝の体は大きく吹き飛ぶ。


「もう一発だ!」


皇帝に【ダッシュ】で追いつき。

俺は地面を強く蹴って、吹き飛ぶ皇帝の上空を取った。


剣のスキル。

ダブルアクティブを発動させる。


「喰らえ!マジックフルバースト!」


頭上から放つ一撃。

それは皇帝の鎧を粉々に粉砕し、奴を地面に叩きつけた。

そしてそのまま地面を抉りながら、はるか遠くへと吹っ飛んでいく。


「ふぅ……ふぅ……流石に、これならもう――げっ」


もう起き上がってこれないだろう。

そう思った矢先、奴はゆっくりと立ち上がって来た。

本当にどこまでタフなんだ、こいつは。


とは言え――


「相手は立っているだけがやっとの満身創痍。勝負ありだ」


「ああ」


神眼を持つレアの目には、奴の状態がハッキリと映っている。

彼女がそう言うのだから、間違いないだろう。

俺達の勝ちだ。


その時、遠くからどたどたと足音が近づいてくる。

視線を向けると、駆けて来る王国軍の姿が見えた。

将軍が十名程の兵を連れて来た様だ。


「ぬぬ!悪逆皇帝め!このファーガス王国の将!プラセボが打ち取ってくれるわ!皆の者!続け!」


俺達の傍まで来たと思ったら、将軍は雄叫びを上げて皇帝へと突っ込んで行く。

おいおい。

相手はもう動けないのに、まさか殺す気か?


「皇帝の首を上げて手柄を立てるのはこのプラセボだ!覚悟しろ!」


「おい、待――」


兵士達が皇帝を取り囲み、将軍が剣を振り上げる。

俺は止めようとしたが、それよりも早く彼らの体が砕けた。


「――っ!?」


斬られたのではない。

文字道理、砕けて血と肉を周囲に散らばらせたのだ。


「やれやれ……まさか噛ませ如きに、この俺が本気を出す羽目になろうとはな」


皇帝の左手の甲に文様が浮かび、青く輝く。

それを見た瞬間、背筋に寒気が走った。


「屈辱だ。この糞共が……」


「アドル!?」


皇帝が手にした剣を振るう。

そこから発生する衝撃波。

それは先ほどまでの比ではなかった。


俺はそれを受け止めきれずに吹き飛ばされる。


「くそっ……何だこの力は……」


「ははははは!これが主人公だけが持つことを許された神の力だ!」


神の力……そんな物がある筈がない。

だが奴から感じるこの力は……まるで本当に……


「俺に本気を出させた以上、抵抗する事は許さん」


奴の左手の紋章が強く輝いた。


次の瞬間――俺の時間が止まる。


俺だけじゃない。


この世界の時間そのものが――

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