第29話 準備完了
「はぁっ!」
皇帝の手から衝撃波が放たれ、辺り一帯を吹き飛ばした。
俺達は咄嗟にそれを後ろに飛んで躱す。
着地と同時に周囲を確認するが、巻き込まれた仲間はいない様だ。
「どうした?お前達の実力はその程度か」
皇帝が余裕の表情で挑発してくる。
状況だけを見れば、ほぼ五分と言っていいだろう。
だが、エターナルが全力を出していないのは火を見るより明らかだった。
「化け物め」
ドギァさんが吐き捨てる。
それには俺も同意せざるえない。
俺・レア・テッラ・ドギァさん。
こっちは本気でかかれば、最下層のエリアボスだって容易く狩れる戦力だ。
だが皇帝はそんな面子を相手に、本気も出さずに戦っている。
これを化け物と言わず、何というのか。
「ははは、まあ
化け物と呼ばれ、奴はさも愉快気に笑う。
「だがお前達も捨てた物ではないぞ。もう一度チャンスをやろう。俺に
皇帝がレアを見て目を細める。
まあ彼女は美人だからな。
皇帝が色を出すのも分からなくはない。
もっとも、本人は――
「断る。他人を駒の様に扱う人間の下につくつもりもなければ、そんな男の妻になる気も更々ない」
――それをぴしゃりと断った。
気持ちいいぐらいバッサリと。
ま、当然だな。
レアも俺と同じくフィーナを救うために命を賭けているんだ。
皇帝からの勧誘を受ける訳がない。
「ふん。俺の偉大さが分からんとは、愚かな女だ。まあいい。それで?お前らはどうするんだ?」
「答えは変わらないさ」
「ワタスも同じだべ」
「当然私もだ」
皆答えは同じだ。
皇帝の誘いに乗る者は居ない。
「やれやれ。勝ち目もないと言うのに、愚かな事だな」
確かに今のままでは、奴の言う通りだろう。
このままでは勝ち目はない。
だが――リリア、セイヤ、ベリー、ガートゥ。
俺達には頼もしい仲間がいる。
今は四天王と戦ってはいるが、彼らが負ける姿など想像もつかない。
そして合流さえ出来れば、皇帝だって倒せるはずだ。
――だから、今はとにかく粘って時間を稼ぐ。
「では、遊びは終わりだ。本気で行かせて貰おう」
皇帝が、右手で力なく垂らす形で持っていた剣を構える。
さっきまでとは明らかに違う。
本気で俺達を始末しにかかる気だ。
ここからが正念場――
「よう。楽しそうだな。俺も混ぜて貰らうぜ」
そう思った時、俺の真横に女性が音もなく着地する。
緑色の肌。
葉を全身に巻き付けた様な姿の美しい女性。
ガートゥだ。
「覚醒してるって事は、苦戦したのか?」
彼女の覚醒は寿命を削る物だ。
それ程大量ではないらしいが、それでも必要のない相手に気軽に使える物ではない。
どうやら四天王の方も、俺の考えている以上の力を持っている様だ。
もっとも、それでもリリアやセイヤさんが負けるとは思わないが
まあリリアの場合、あの宝玉のビームを外して長期戦になる可能性はあるけど。
「まあな。結構厄介な相手だったぜ」
ガートゥが手にした大剣を構えた。
その力はレアに匹敵する。
このタイミングで合流してくれたのは有難い。
「ふむ。姿は変わっているが、あのゴツイゴブリンか。グルグの奴、ゴブリンすら始末できんとはな。俺が態々心を壊して狂戦士として完成させてやったと言うのに、所詮ゴミはゴミか」
自分の部下をゴミ扱い。
しかも心を壊して狂戦士化させたと言っている。
……こいつは間違いなく屑だ。
「人の心を壊し、好き放題操る。その様な非道、聖女として聞き逃せませんね」
「セイヤさん!」
セイヤさんがベリーを抱え、ゆっくりと此方へ歩いてくる。
パッと見た感じ、それ程消耗していない様に見えた。
強力な四天王を相手にしても最小限の労力で切り抜けてくるあたり、流石は稀代の聖女だけある。
「やれやれ、レイゼもやられたか。あれは中々いい女だったんだがな」
「今頃女神さまの御許で、その穢れた魂が浄化されている事でしょう」
聖女が人殺し?と思うかもしれないが、教会に不殺の概念はない。
彼らは相手が邪悪であると判断すると、容赦なく断罪する。
それが例え人間だろうとだ。
ましてやここは戦場だしな。
不殺を求める方がどうかしている。
――あれ?
そういや聖獣とも戦ってたよな。
まさかそっちも手にかけたのか?
「聖獣ベリオンはどうしたんです?」
「気絶させておきました」
「成程」
気になって尋ねてはみたが、まあ考えてみればそうに決まってるよな。
聖獣に手をかける訳がない。
普通に考えれば当たり前の事だった。
我ながら馬鹿な質問を反省する。
「その様子だと、かなり苦戦されていたみたいですね」
「ええ、皇帝の強さは想像以上です。セイヤさんが来てくれて助かりました」
後はリリアだけだ。
とは言え、この面子ならば十分やれるはず。
時間稼ぎをするつもりだったが、その必要もなくなった様だ。
「ティアまでやられるとはな。まったく、役に立たない奴らだ」
不意に、皇帝の視線が遠くに向けられる。
それを追った先には、片足立ちで変なポーズを取っているリリアの姿があった。
彼女はそのポーズのまま、高速で此方に近づいてくる。
相変わらず訳の分からん動きをする奴だ。
「真打登場ですよ。リリアちゃんが居なくって寂しかったでしょうから、存分に甘えてください」
「するか!」
これで全員揃った。
単独の皇帝には悪いが、ここにいる全員でかからせて貰うとする。
が、その前に一応。
「そっちの四天王は全滅。こっちはフルメンバーだ。降参するか?」
「ふ……雑魚が何人雁首揃えようが、主人公である俺の敵ではない」
何をもってして自分を主人公と思っているのかは知らないが、まあ投降の呼びかけは断られてしまった。
まあ実際フルメンバーだからと言って、楽に勝てる程の戦力差がある訳じゃないからな。
当然と言えば当然の事ではあるが。
「そうか、なら遠慮なく行かせて貰う」
俺の言葉に、皆が囲む様に配置につく。
皇帝は泰然自若に笑みを浮かべ、邪魔する事なくそれを黙ってじっと見ていた。
どうやら、この状況下でも自身の方が圧倒的に上だと考えている様だ。
まあこちらを舐めてくれる分には、文句を言うつもりはない。
但し、その代償はきっちりと支払ってもらう。
「準備は良いか?なら掛かって来るがいい。そして知れ!世界の中心たる我が力を!」
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