スキル【幸運】無双～装備が揃ったパーティーから俺は追放されてしまう。幸運の揺れ戻しでドロップがノーマル固定になって資金繰りが厳しい？しるか！俺は自由にやってるんだ！今更あやまってももう遅い！

第10話 干渉

「オラァ！」

ドギァさんが拳から闘気を放つ。

それは巨大なドラゴンの顔の近くで炸裂し、閃光を伴った爆風が相手を怯ませる。

恐らく何らかのスキルだろう。

「だべ！」

その怯んだドラゴンの胸元目掛け、テッラが手にしたハンマーを下から叩きあげる。

軽く10メートルは超えているだろうその巨体が、彼女の圧倒的なパワーによって勢いよく跳ね上がった。

「はぁ！」

それを高く飛び上がったセイヤが空中で一回転し、踵落としで叩き落とす。

こっちもかなりのパワーだ。

ドラゴンの巨体が轟音と共に地面に叩きつけられる。

だがまだ死んではいない。

奴は苦し気に首を持ち上げる。

「はっ！」

そこに突っ込んで、俺は剣を薙いだ。

振るったオリハルコンの刃が、音もなく奴の首を跳ね飛ばす。

この剣、やっぱすげぇわ。

相手はとてつもなく硬いドラゴンだ。

にもかかわらず、握った手に伝わるのはまるでバターを切る様な軽い感触だった。

それはこの武器――聖剣アドラーがそれだけ優れているという証に他ならない。

「ドラゴンを瞬殺……か。最下層でもかなり強い方の魔物だってのに、あんたらにかかったら形無しだねぇ」

「ドギァさんが牽制してくれたおかげですよ」

相手の虚を付けなかったなら、もう少し手こずった可能性はある。

ここまでスムーズに始末できたのは、間違いなく彼女の働きあっての事だ。

「はは、そうかい」

俺は目の前に落ちたドロップ品を一応回収する。

それは人間の前腕サイズもある巨大な牙だった。

竜牙と呼ばれるドラゴン系のドロップで、強力なマジックアイテムの触媒などに使われる物だ。

残念ながら、これは超レアドロップではない。

それどころかレアドロップですらなかった。

俺・テッラ・リリアの3人はブーストを常時発動させているので、レアドロップに対するボーナスが付かないからだ。

まあ戦闘中、リリアに分身させていればレアドロップを100%にする事も出来るだろう。

だが今回の目的はあくまでもレアの救出。

欲張って無駄にエネルギーを使い、必要な時にガス欠になっては本末転倒だ。

「行こう」

俺達は最下層の東側に向かって速足で進む。

レアの居る位置は以前女神の天秤が探索した事のある範囲だそうで、道を覚えているドギァさんがそこまで俺達を案内してくれる事になっている。

「行き止まり！？」

ドギァさんに案内されて進んで行くと、行き止まりに差し掛かる。

道を間違ってしまったのだろうか？

まあダンジョン内は複雑な地形をしているからな、仮に間違ったとしても彼女を責める事は出来ないだろう。

「いや、この先だ」

ドギァさんが突き当りの壁の前まで進む。

そして彼女は腰を落とし、拳を構えた。

その手は青く輝いている。

何らかのスキルを発動させたのだろう。

「何をする気ですか？」

「こうするのさ！《ウォール・クラッシュ》罠破壊！！」

ドギァさんは雄叫びと共に、構えた光る拳を壁に勢いよく叩きつけた。

ダンジョンの床や壁はとんでもなく硬い材質で出来ている為、そんな事をすれば本来なら拳の方が砕け散る。

だが――彼女の拳が叩き込まれた瞬間、ダンジョンの壁面が豪快に砕け散った。

「壁が砕けた！？」

そのありえない光景に、俺は唖然としてしまう

とんでもないパワーだ。

怪力とかいうレベルじゃねぇ。

「ははは。こいつは本物じゃない。トラップさ」

「トラップ！？これが？」

俺にはダンジョンの壁が砕けた様にしか見えなかった。

だがまあ冷静に考えてみれば、確かにそれ程のパワーが彼女にあるとは思えない。

よく見ると瓦礫なども綺麗さっぱり消えてなくなっているので、まあ本当にトラップだったのだろう。

「急ごう。目的地まではもう少しだ」

「はい」

そこからさら少し先に進んだ所で、リリアが俺達を止める。

「ストップ。レアさんの反応を感じるのはここですねぇ」

「ここ？何もないぞ」

周囲を見渡す。

だが人影は疎か、魔物の姿すら見当たらなかった。

「どうやら、異空間に閉じ込められてるみたいですねぇ。彼女」

「異空間ってのはなんだ？」

「こことは別の空間ですよぉ。要はストックみたいなものだと思ってください」

「ストックか……成程」

何となくイメージが湧く。

目に見えず、スキルでのみ出し入れの出来る謎の空間。

それが異空間という奴なのだろう。

まあストックには生物をしまい込む事は出来ないが。

「どうやればレアを助け出せるんだ」

「乗り込むしかないですねぇ、中に。ま、その辺りはリリアにお任せあれ」

頼もしい奴だ。

もしこいつが居なければ、レアは助けられなかっただろう。

「驚いたね。あんたには空間に干渉する能力があるのかい？」

「ありませんよ。そんな物」

感心したドギァの言葉に、リリアがそっけなく答える。

俺もそういう能力があるのかと思ったのだが、どうやら違う様だった。

「え！？じゃあどうやって中に入るってんだ？」

「空間には干渉できません。ですが、異空間を構成するスキルになら干渉は可能です。何せ、私は超高級品ですので――それ」

リリアが軽く手を振ると、何もない空間に急に亀裂の様な物が走る。

「「！？」」

「これを通れば、レアさんの閉じ込められている異空間に通じています。どうです？凄いでしょう」

驚くこの場の面々の顔を見て、リリアが満足そうに口の端を歪めて嫌らしく笑う。

その表情が無ければ素直に褒め称えるんだが……本当に残念な奴だ。

「凄いとは思うべが、その顔はどうかと思うべ？」

俺の考えていた事を、テッラがドストレートに突っ込んだ。

「顔芸の一つも理解出来ないなんて、これだから栄養が無駄な所に流れてるドワッコは困りますねぇ」

「何言ってるべ？」

リリアが皮肉を口にするが、テッラは不思議そうに首を捻る。

多分、顔芸やドワッコ辺りの単語があまり理解出来ていないのだろう。

まあ俺はなんとなく分ったが、それを一々補足するつもりはなかった

レアが待っているのだ。

ここでくだらないやり取りをしている暇などない。

「レアが待ってる。急ごう」

俺は空間に出来た亀裂へと迷う事無く飛び込む。

待ってろ。

レア。