第9話 初めての

「流石だな」


ダンジョン内を先頭で走るドギァさんの背を見て呟く。

ブースト込みで考ると――俺もテッラも常時発動させている――彼女のレベルは他のメンバーの半分以下しかない。

にも拘らず、その走る速度はこの中で一番だった。


称号スキルである【盗賊】を持ち。

それにスピードを上げるスキル群と、本人の努力で手にした走力。

この速さはその三つが合わさっての物だろう。


更に走る姿に全く隙は無く、体術のレベルの高さも伺える。

最強パーティーと言われた女神の天秤。

そのリーダーは伊達ではないと感心させられる。


「マスター。敵ですよぉ」


リリアに敵との遭遇を知らされる。

まだ見えてはいないが、彼女が言うのだから間違いないだろう。


「――っ!!!」


相手の姿が見えた所で、足を止める事無く俺は【超越種の咆哮ドラゴン・ハウリング】を放つ。


中層までは駆け抜けながら鎧袖一触で魔物を始末して来たが、流石に下層ともなるとそう言う訳にもいかない。

先手で俺が相手の動きを止め、そして放置して先に進む事にしていた。


まあ耐性のある魔物は始末するしかないが。


「便利なスキルだねぇ!」


ドギァさんが動けなくなった魔物の横を軽快にすり抜けながら叫ぶ。

下層からはそのスピードを押さえる様に頼み、今は俺の横を並走して貰っていた。

魔物にスキルが効かなかった場合に備えて。


まあ彼女なら大丈夫だとは思うが、念のためだ。


「あそこがスロープだ!」


ドギァさんの案内で、最下層へと下るスロープへと辿り着く。

完全にここからは、俺にとって未知の領域となる。


「流石に、ここからは慎重に進もう」


スロープを下った所で一旦足を止め、俺はそう宣言した。


個々のレベルを考えれば、最下層の魔物相手であってもそうそう後れを取る事はないだろう。

とは言え、何も考えず疾走して大量の魔物を引っ掛けてしまうのは流石に不味い。


それに、最下層からはトラップがあると聞く。

解除はドギァさんがしてくれるから問題はないだろうが、不用意に突っ込むのは避けたい所だ。


「リリア。魔力は大丈夫か?」


進む前に、彼女の魔力の確認をする。

リリアには道中、全員の体力回復を――走りながら――して貰っていたからだ。


俺も途中、一度回復を受けている。

ブースト使用時にレベル300超になるとはいえ、流石に2時間ノンストップで全力疾走するのはきついからな。


「やですねぇ、マスター。このリリアちゃんが疲労回復リカバリーを数回使った程度で、魔力切れなんて起こす訳ないじゃないですかぁ。余裕ですよ。よ・ゆ・う」


聖女であるセイヤにも、このリカバリーという魔法は使えないらしい。

特殊な魔法らしいので魔力の消耗を気にしたのだが、どうやら問題はなさそうだ。


流石は高級品といった所だな。

ほんと、フィーナは凄い人形を作ったもんだ。


「そうか、じゃあ進もう」


レアの位置は、最下層の東方面だそうだ。

最下層に詳しいドギァを先頭に、俺達はダンジョン内を進む。

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