第26話 剣

「これが……」


「だべ!」


テッラから、彼女の打ち終えたオリハルコンの剣を受け取る。

意匠の凝られた鞘からゆっくりと引き抜くと、白銀に輝く刀身が姿を現した。


「不思議だ。なんかこう……力を感じるな」


インゴットだった時は特に何も感じなかったのだが、こうして剣として手にすると、まるで不思議な力が体に流れ込んでくる様だった。


「名はアドルが付けるべ」


「名前か」


どんな物がいいかな。

迷っていると、リリアが笑顔で顔を使づけてきた。


「可愛いリリアちゃんの剣というのはどうでしょうか?」


「……アホか」


普通に考えれば冗談なのだろう。

だがこいつの場合は本気で言ってそうで怖い。


「私のには、至高のリリアちゃんのティアラと言う名を付けてます。おそろいですよ?」


リリアが頭にかぶったティアラをアピールしてくる。

剣と同じく白銀色の光を放つそれの中央には、真っ赤な宝玉が嵌め込まれていた。

俺から持って行った金で用意した宝石だろう。


「おそろいとか、なおさら嫌になるわ」


「おやまぁ。照れちゃってぇ」


俺はリリアの戯言を無視して、真面目に名前を考える。

伝説の金属で出来た武器なので、これは聖剣と言って差し支えないだろ。

それにふさわしい名前を付けないとな。


聖剣エクスカリ――いや、なんか違うな。


そうだ。

折角だから自分の名前にちなんだ感じにしよう。


「アドラー。この剣の名は聖剣アドラーだ」


うん、いい響きだ。


「なんかパッとしない名前ですねぇ。絶対可愛いリリアちゃんの方がいいと思いますよぉ」


「別の名前を付けるにしても、それだけは絶対にねぇよ」


しつこい奴だ。

人に聞かれて答えずらい名前何て付ける訳ねーだろ。


「テッラ、この剣は大事に使わせて貰うよ」


「しこたま頑丈だで、別に雑に扱ってもいいべよ」


「そうか。じゃあ豪快に使わせてもらうよ」


伝説の金属製だ。

しかもそれを鍛えたのは【匠】の称号スキルをもつドワーフと来ている。

まあ余程の事がない限り、折れたりはしないだろう。


「アドル。ちょっと悪いんだべが、パーティーに合流するのは後1日待って欲しいべ」


「ん?」


「実は自分用のハンマーがまだ完成してないんだべ」


「ああ、そう言う事か。別に構わないさ」


まあ数日程度なら誤差だ。

テッラにとって初めて扱う金属な訳だからな、予定通りいかなくてもしかたがない事だろう。


「全く。無能ですねぇ」


「何言ってるべか?おめぇがティアラの意匠にあれやこれや口出ししてきたから、遅れが出てしまったんだべ」


と思ったら、リリアが邪魔していただけだった。


「おい……」


「重要な事でしたので」


何が重要だ。

全く。


しかし――リリアはほぼずっと俺と行動してたはずなんだが?


「お前俺と一緒にいたよな?一体いつ工房に顔を出してたんだ?」


「もちろん、マスターに気付かれない様こっそり分身を使ってですよ?」


ああ、分身か。

成程。


てか――


「気づかれない様こっそりやってんじゃねぇよ」


「だってバレたら、マスターが止めるじゃないですかぁ」


「当たり前だ。てゆーか、止められると分かってる様な事はすんなよ」


「凄く重要な事でしたので」


リリアは満面の笑顔で答える。

駄目だこりゃ。

これ以上は言っても無駄そうだ。


まあ大した害はないから良いけど。


「悪いなテッラ。リリアが迷惑かけちまって」


「別にいいべな。なんだかんだリリアの無茶な注文に答えたお陰で、ワタスの腕も上がったベ」


そう言うとテッラは右手で力こぶを作る様なポーズを取り、左手で二の腕の内側を叩く。


「そうそう、感謝してくださいな」


リリアが偉そうに胸を張る。

こいつはほんとに……


「もし私が指示しなかったら、きっとレベルは200ぐらいで止まってましたよぉ」


「ん?レベル200?」


急にリリアがレベルの話をしだしたので、俺は眉根を寄せる。

レベル200ってのは一体何の事だ?


「テッラのレベルの話ですよぉ。彼女のレベル、今223になってますから」


「はぁ!?」


いやいやいや!?

何それ?


称号スキル持ちが行動次第で経験値が入る事は知っている。

この前きいたからな。

だが武器を1-2個作っただけでレベルが100も上がるとかありえない。


「いや、流石にそれはないだろ」


「嘘だと思うんなら、確認してみてください」


リリアが自信満々に胸を張る。

流石に嘘をついているとは思えない態度だ。


「テッラ、ちょっと鑑定させて貰っていいか?」


「いいべよ」


早速魔法で確認させて貰う。


「……ほんとだ。223になってる」


マジだった。


「伝説の金属を鍛えるっていうのは【匠】的に凄い経験ですし、【経験値アップLv 2】との相乗効果ですねぇ」


テッラは俺のスキル【経験値アップLv 2】をコピーしている。

その効果は半減されているため25倍だ。


100倍の半分なら50倍ではと思うかもしれないが、経験値アップはレベル1の効果で10倍。

そしてレベル2の効果で更に10倍されて、計100倍になっている。


つまり10×10で100だ。


これが半減されると、1と2の倍率がそれぞ半分になってしまう。

よって経験値は5×5で25倍になるという訳だ。


「いくら経験値25倍とは言え、223まで上がるとか……えぐいな」


「まあ私の難しい注文に応えてなければ、多分200止まりでしたねぇ。残り23レベルは、正にリリアちゃんの功績と言えます」


「まあそれは否定しないべ」


称号スキル……羨ましすぎるぜ。

今テッラと戦ったら、ブースト使っても普通にぶっ飛ばされそうだ。


「さて。おにゅうの武器も手に入った事ですし、早速行きましょうか。マスター」


「行くってどこに?」


「いやですねぇ。決まってるじゃないですかぁ。ボスラッシュですよぉ。ボスラッシュ」


「はぁ?」


いきなり何言ってんだこいつは?

ボスラッシュとか、意味不明過ぎるんだが?


「中層のエリアボス達ですよぉ。剣の試し切りがてら、今日1日で総なめしちゃいましょう」


「エリアボスを1日でって……無茶言うな」


中層のエリアボスは全部で4体いる。

そのうちエビルツリーはまだ復活していないだろうから、まあ3体な訳だが。


いくら強力な剣が手に入ったとはいえ、今日1日で3体回るとか……流石にきついわ。


「おやぁ。忘れたんですか、マスター。今の私達にはこの子がいる事を――」


リリアが右手を上げると、袖から子リスがもぞもぞと顔を出す。

それは変身したベリーだった。


小さな子供を連れ歩く訳にもいかないし、ベヒーモス形態はもちろん論外だ。

そこで小動物であるリスに変身して貰っている。

他の動物ではなくリスなのは、泊ってる宿が動物禁止だからだった。


このサイズで服に潜ませておけば、まず見つかる事はないからな。


「マスターとベヒンモスが力を合わせれば、中層のエリアボスぐらい楽勝ですよぉ」


「ベリーだ」


「――まあ名前はベリーでいいとして」


いいとしても何も、ベリーが正式名称だ。

変な名前で呼ぼうとスンナ。


「せっかくなんで、王都へ向かう前にチャチャッと終わらせちゃいましょう」


「ふむ」


レベル100相当のベリーが居れば……まあ3体回れるか。


駄目そうなら諦めて別の日にすればいいだけだし、試しにやってみても罰は当たらないだろう。


「よし。じゃあ行くか」


俺はリリアとベリーを連れて、ダンジョン中層へと向かう。

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