第21話 元聖女

ああ、そういやアババにケネスの事を聞いておけばよかったな。

女性に案内されながら、そんな事を考える。


まあでもここで元聖女であるピアカスさんから呪いについて有益な情報を得られれば、わざわざケネスに話を聞きに行く必要は無いか。

空振りだった場合、その時は改めてアババに居場所を聞き気に行くとしよう。


塵一つない白亜の通路を進んで行くと、精緻な意匠の施された扉の前で女性が足を止める。

どうやらここにピアカスさんがいる様だ。


「どうぞ」


案内の女性が扉をノックすると、中から返事が返って来る。


「お入りください」


女性が扉をゆっくりと開け、促されて俺は中へと入る。


「失礼します」


足を踏み入れた室内は非常に明るかった。

大きな窓からは太陽の光が差し込み、更に天井に吊るされた魔法の光源マジックアイテムが室内を強く照らしている。

正直、少し眩しいぐらいだ。


日中なので窓だけでも十分な気もするのだが……ピアカスさんは明るいのが好きなのだろうか?


奥に目を向けると大きな執務机があり、ピアカスさんはそこに座っていた。

以前あった時は大胆に胸元の開いたドレスだったが、今日は白いローブを身に纏っている。


まあ、執務中にあの格好はしないか。

仮にも教会な訳だしな。


「突然の来訪に対応していただき、ありがとうございます」


「そういう堅苦しいのはいいわ。フランクな感じにして頂戴」


机の前まで進み、俺は頭を下げた。

するとピアカスさんは笑って手を振り、普段通りでいいと言ってくれる。


話を聞きに来た立場。

しかも相手は元聖女。


それは少しどうかとも思ったが、正直堅苦しいやり取りは苦手なので、折角なのでお言葉に甘える事にする。

もちろん失礼のない範囲で、だが。


「ゲンリュウの書状を読んだわ。紹介状まで用意して呪いの事を聞きに来たって事は……貴方自身。もしくは、親しい人物が呪いを習得したって所かしら?」


ただの興味本位程度なら、一々ピアカスさんへの紹介状をゲンリュウさんに書いて貰ったりは普通しないからな。

そう考えるのが普通だろう。


まあ呪いがあるから肯定の返事は……ん?

ちょっと待て。

いま呪いを習得って言ったのか?


呪いとは、誰かにかけたりかけられたりするものだ。

絵本や御伽噺のなかの能力ではあるが、それが世間一般的な認識と言っていいだろう。

だが、ピアカスさんは習得と口にした。


つまり、彼女はスキルとして習得する事を知っているという事だ。


この人なら、俺の知りたい情報を教えてくれるかもしれない。

そんな期待が膨れ上がる。


「いえ、そう言う訳ではないんですが。ちょっと話を聞かせて貰おうと」


「ふふ。まあそう言う事にしておきましょう」


呪いのせいで俺の口が勝手に動き、否定の言葉が勝手に紡がれる。

だが、彼女は全てお見通しであるかの様に笑う。


「この部屋、少し明るすぎるでしょ?慣れていないと眩しいでしょうから、ライトを少し弱めるわ」


彼女は頭上に手を翳し、魔法を素早く唱えた。

それに合わせて、天井から煌々と降り注ぐ魔法の光が急速に弱まっていく。


「何でこんなに明るいのに、魔法の光を付けているかわかる?」


「えーっと、いや……」


ピアカスさんに急に問われたが、ぱっとは思いつかない。

単純に明るいのが好きというのが頭に浮かぶが、そんな馬鹿っぽい答えを聞くために質問はしてこないだろう。

恐らく、何か深い事情があるに違いない。


「明るい方が、元聖女っぽく見えるからだそうよ。馬鹿げた理由でしょ?もちろん教会の指示であって、私の意思じゃないわよ」


あんがい浅かった。

いやまあ、聖女=光のイメージがあるので、確かに雰囲気づくりに一躍買ってるとは思うが。


「さて、じゃあ本題に入りましょうか。呪いってのは――」


ピアカスさんが呪いについて語ってくれる。

彼女は以前、呪いについて色々と調べていたらしい。

何故調べたかの理由は濁されて聞けなかったが、その時出した結論が――


条件を満たす事で本人の意思とは無関係に発動し、強大な力を発揮するスキル。


だそうだ。


「制御できない巨力な力……か」


更に、力を使うと大きな反動まであるとの事。


「発動すると制御できない訳だし。反動も考えると、基本的には碌な結果にならないわね。呪いは」


碌な事にはならない……か。

我ながらいやなスキルを覚えてしまった物だ。


「もし呪いのスキルを習得してしまったのなら、発動しない様心がけるのが正解でしょうね」


「はぁ……」


発動しない様に心がけようにも、条件が今一良く分からない。

神に反逆する力だそうから、神様と敵対したら発動するって事だろうか?

だとしたら発動する心配などないだろうから――神と対峙するなどありえない――気にしないでいいのかもしれないな。


「もしくは、封印してもらうかね」


「封印できるんですか!?」


「ええ。今代の聖女は、スキルを封印するスキルを備えているわ」


「そんな強力なスキルが……凄いですね」


「【聖女】という唯一無二のスキルを持ってるのもあって、歴代最高とまで言われているわね」


歴代最高の聖女か。

天才的な魔法の才能を持っていたフィーナを押しのけてその座に就いた程だ。

きっと凄い人物なのだろう。


「必要そうなら、私の方で紹介状を書いてあましょうか?」


「え!いいんですか!?」


正直、俺のスキルは他人に見えない様に隠されている。

その状態のスキルを封印できるかは正直微妙な気もするが、邪神の名を冠するスキルをそのままにしておくのも気持ち悪い。

発動しなさそうではあるが、可能ならば封印してもらった方が気分的にスッキリするという物だ。


俺は迷わずピアカスさんにお願いする。


「ぜひお願いします!」


「分かったわ」


ピアカスさんは机の上にあった紙に、さらさらと筆を走らせる。

そしてそれを封筒に入れ、魔法で封印を施した。


「これを持って王都の教会へいけば、聖女と面会できる筈よ」


「ありがとうございます!」


俺は聖女宛ての紹介状を受け取り、軽い足取りで教会を後にする。

呪いの情報と、さらにはその解消糸口まで手に入れる事が出来たのだ。

ゲンリュウさんとピアカスさんに感謝しかない。


「武器が出来次第向かうとするか」


既にレアとの約束だったレベル100は達成している。

呪いの事がなくても向かうつもりだったので、丁度いい。


「しかし聖女か……」


そいつさえいなければ、フィーナが聖女になって死なずにすんでいたかもしれない。

そう思うと複雑な気分ではあるが、まあたられば話をするのは愚かな事だ。


とにかく、王都に着いたら教会を尋ねるとしよう。

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