第20話 話

「呪いねぇ。御伽噺でしか聞いた事がねぇな。で、呪いがどうかしたのか?」


「いえ、ちょっと個人的に調べてまして。誰かそう言う事に詳しい人って、心当たりありませんか?」


ここはゲンリュウさんの経営する武具屋だ。

呪いの事が気になって狩りどころではなかったので、そう言った事に詳しい人物がいないか尋ねるためにやって来ている。


彼は顔が広いからな。


「呪いに詳しい奴か……仮にあると仮定するなら、まあ魔法関連か」


確かに、普通に考えれば物理的な現象とは考えづらい。

ゲンリュウさんの言葉通り、魔法系と考えるのが妥当だろう。


俺の知っている魔導士で、魔法関連の知識が豊富な人物と言えばケネスになる訳だが――彼は王都の魔術学院を卒業している。

だが緋色の剣はもう既に解散しており、残念ながらその後の行方は分かっていない。

もし話を聞くなら、居場所探しから始めなければならないだろう。


「ピアカスを覚えてるか?」


「えーっと、確か飲み会の最後に来た女性ですよね」


女神の天秤の壊滅。

俺がそれを知ったのは、その女性の口からだ。


あの時はショックの余りすぐに帰ってしまったので、ピアカスさんがどういう人物かまでは把握できていないが。


「あいつなら、その手の話が少しは聞けるかもしれん。確か昔、呪いが云々言ってた覚えがあるからな」


「本当ですか。ぜひ話を伺いたいんですが」


「ああ、構わねぇぜ。今あいつはこの街の教会で偉いさんをしてるからな、俺が紹介状を書いてやる」


「教会……ですか」


「なんだ?教会が苦手なのか?」


「あ、いえ……」


問われて言葉を濁す。

正直、あまりいい感情を持ってはいない。

俺からフィーナを奪って引き離したのが、他でもない教会だからだ。


「教会に出向くのが嫌だってんなら、ここに呼び出してやろうか?」


「いえ、大丈夫です。紹介状を書いていただけたら、俺の方から教会に行ってみます」


話を伺おうってのに、わざわざ相手を呼び出すのは失礼極まりない行為だ。

何様だって話になる。


「そうか?まあならいいが。そういや、今日はちびっこは一緒じゃねぇんだな?」


「リリアはテッラに差し入れを持って行ってます」


ティアラのデザインが出来たらしく。

それをテッラに押し付けに行ったというのが正解だが……まあ陣中見舞って事にしておこう。


「ほう……そんな優しい性格をしてる様には見えなかったがな。あの嬢ちゃん」


「ははは」


流石は元熟練冒険者だ。

人?を見抜く力は健在の様だ。


まあリリアぐらいあからさまだと、誰でも見抜けるって気もしなくもないが。


「じゃあちょっと待ってな」


ゲンリュウさんが紙と筆を取り出し、カウンターの上で紹介状を書いてくれる。

ゴツイ手の割にかなり達筆な文字だ。


「ほらよ」


「有難うございます、ゲンリュウさん。早速行ってみます」


「おう!今度来るときはちゃんとうちの商品を買って行けよ!ま、オリハルコン級は置いてないけどな。ガハハハ」


俺は再度頭を下げて、教会へと向かう。

ゲンリュウさんには借りばかりだ。

いつか何らかの形でお礼を出来ればいいんだが。


「確認いたしますので、少々お待ちください」


「アドル!アドルじゃないか!?」


教会に着き、受付の女性にピアカスさん宛ての書状を渡すと、背後から声をかけられた。

振り返ると、そこにはアババが立っていた。

かつて緋色の剣時代のパーティーメンバーだ。


「よう」


「エリアボスの時は助かったよ。それと……その、悪かったな」


悪かったというのは、俺を追い出した事についてだろう。

まあ今更謝られてもあれだし。

何より、もうそんな事は気にしてはいなかった。


「昔の事だ、気にするな」


「ありがとう」


「所で、ひょっとしてアババは教会で働いてるのか?


「ああ、冒険者は引退してここで働かせてもらってる。やっぱ、目の前で人が死ぬのを見るのはきついわ」


そう言うと、アババは寂しげに笑う

ギャンの事は……まあ自業自得に近い。

それでも、仲間として助けられなかった事を悔やんでいるのだろう。


なんだかんだで、こいつは優しい奴だった。

案外、俺を追い出したのも弱い俺の身を案じてくれた結果なのかもしれない。

前衛が強力な魔物に突破されたら、あの当時の俺なんていちころだったろうしな。


「しっかし、教会嫌いのアドルがここに来るなんて珍しいな」


「ああ。ちょっとピアカスさんて人に聞きたい事があってさ」


「ピアカス様に!?」


アババがピアカスさんの名前に様付けをして驚く。

ゲンリュウさんが教会で偉い立場に就いていると言っていたが、この様子だとかなり高位の様だ。

ほんと、あの人は顔が広いな。


「そんな驚くぐらい偉い人なのか?」


「偉いも何も、ピアカス様は先代の聖女様だぞ?」


マジかよ。

死ぬ程偉い人じゃねぇか。

てかなんで、そんな人がこの街にいるんだ?


先代の聖女様なら、教会の中枢にいそうなものだが。


「まじか……そんな凄い人だったのか。ゲンリュウさんの知り合いだってんで、紹介状を貰ったんだけど」


「ピアカスさんと面識があるなんて、流石は名の売れた冒険者だけはあるな。ゲンリュウさんは」


どういった経緯で知り合ったのか少し気になる所ではあるが、まあ邪推は止めておこう。

人生いろいろって言うしな。


「お待たせしました」


受付の女性が返って来た。

別の女性を連れて。


「彼女がご案内いたします」


「お願いします。じゃあな」


「ああ」


俺は軽く手を上げてアババに挨拶し、教会の奥へと案内され進む。


さて、何か話を聞けるといいのだが……


元聖女様なら、かなり期待できそうではある。

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