第16話 無限増殖

「ほう、ドワーフか。てっきり――いや、何でもない。気にしないでくれ」


てっきり絶滅した――そう言おうとしたんだろうが、ゲンリュウさんは言葉を濁してそれを避けた。

まあ目の前にそのドワーフ最後の(たぶん)生き残りがいる訳だからな、気を遣ってくれたのだろう。


「まあ伝手はある。そこを紹介してやろう」


「ありがとうございます」


顔が広い。

流石はもと熟練冒険者で、現武器屋のマスターだけはある。

彼に相談したのは正解だった様だ。


「ただ工房を借りるんだから、そこそこ金は掛かるぞ。そこの嬢ちゃんが使う分、奴らは設備が使えなくなる訳だからな」


「分かっています」


当然の話だ。

いくら伝手があるとは言っても、ただで設備を借りられる訳がない。

金はそこそこ持ってるし、余程法外な額を吹っ掛けられなければ問題ないだろう。


まあ万一足りなかった場合は、下層で稼いで来ればいいだけだ。

超越種の咆哮ドラゴン・ハウリング】がある以上、俺よりレベルの低い魔物はノーリスクで狩り放題だからな。

レア祭りすれば、金なんてあっという間に溜まるさ。


「しっかし……でけぇな」


「……」


その感想には同意するが、ガン見して口にするのはどうかと思いますよ。

ゲンリュウさん。


テッラは何のことか分からず、その言葉に「?」と言った様な顔をしていた。

父親と二人で長年人里離れた山奥で暮らしてたそうだから、そういう眼で見られる事がなかったんだろう。


まあピュアって奴だ。


一方リリアは舌打ちして、虫けらを見る様な目をゲンリュウさんに向けていた。

こちらはまあ平常運転だ。

こいつは常に他人を見下してるからな。


「おいバンス、少し出かける。俺が居ねーからってサボるんじゃねーぞ」


「ヘーイ」


バンスと呼ばれた男は気のない返事を返す。

彼はゲンリュウさんの息子さんだ。

ムキムキ色黒禿の父親に対し、彼は色白な無気力系だった。


その性質は対極に等しいが、顏は瓜二つだった。

確実に父親の遺伝子を引き継いでいるのに何故ここまで親子で違うのか、全く不思議な話である。


そういやいたな。

俺のそばにも、対局な奴が。


「なんですか?私の顔に何かついてます?はっ!まさか……リリアちゃんに惚れちゃったんですか!?」


「んなわけねーだろ」


本当に謎だ。


「んじゃあ行くぞ」


「お願いします」


俺達はゲンリュウさんに案内され、街のはずれにある大きな建物にやって来た。

そこはこの街随一の武器工房だそうだ。

まあ随一と言っても、2つしかない訳だが。


そこではとんとん拍子に話が進む。


ドワーフの技術をただで目にすることが出来る。

しかも扱うのがオリハルコンとなれば、職人連中からすれば貴重な体験なのだろう。

お陰でただで設備を借りる事が出来た。


「完成までは、だいたい2週間かかるべ。ワタスの最高傑作になるべ」


「頼むよ」


「一番いいティアラをお願いしますねー」


こいつは……

リリアの言葉に、テッラが困った様な目で此方を見てくる。


「はぁ……仕方ない。テッラ、悪いんだけど材料が余るようなら作ってやってくれないか」


手間が増えてしまうのでテッラには申し訳ないが、絶対今後もしつこくねだって来そうなので折れる事にした。

まあなんだかんだでリリアには頑張って貰ってるからな。

たまに御褒美をやっても罰は当たらないだろう。


「わかったべ」


「ふふふ。これでリリアちゃんの豪華さが5%ましになる事請負です」


「たった5%かよ」


仮にも伝説の金属だぞ。

なのにその程度しか上がらないとか、オリハルコンが泣くわ。


「やですねぇ、マスター。それだけリリアちゃんが凄いって事ですよ」


「あー、はいはい」


適当にあしらいつつも、あながち大言壮語でもないなと考える。

実際、性格はともかく彼女の能力は超一級品だからな。


ま、それを口にして認める気はないが。

そんな事をしたら、リリアが調子に乗るのは目に見えている。


「じゃあテッラ。武器の事、頼んだよ」


「2週間後を楽しみにしてるべ!」


テッラは工房の居住スペースを借りて、泊まり込みで作業をする予定だ。

俺達が側にいても邪魔にしかならないで、こっちはこっちでその間、超レア集め&レベル上げを勤しむ事にする。


もちろん可能な限り、陣中見舞いはするつもりではあるが。


テッラと別れ。

俺達は早速ダンジョンへと向かう。


「贅沢な願いだってのは分かってるが、出来ればスキルポーションが大量に出てくれるとありがたいな」


「【分身】を使えば使い放題ですからねぇ」


スキルで生み出した分身は、俺と全く同じ格好をしている。

装備している武具は元より、所持しているアイテム類さえも一緒だった。

もちろん分身を消すとそれらも消えてしまう訳だが、消す前に使ったアイテムの効果は――


実は残る。


それは消耗品を無限に使える事を意味していた。


「全く。【分身】様様だよ」


いやマジで。

使った瞬間余りの負荷に何このスキルとか思ったが、今ではなくてはならない最強クラスのスキルだと思ってる。


スキルに関しても本体と同じなので、俺がブーストを使っても、リリアと分身の相乗効果でレアドロップ率が天井になるのも地味にありがたい。

お陰で俺は何も気にせず、ガンガンブーストを使う事が出来る。


「あそこで蜘蛛に会えたのは本当にラッキーでしたねぇ。まさにリリアちゃんは幸運の女神と言えます」


別にゴールデンスパイダーに遭遇できた事に、リリアは関係ない。

だが倒せたのは、確かに彼女のお陰ではある。

そういう意味では、幸運の女神というのはあながち間違っていないだろう。


が、調子に乗るのでもちろん態度には出さない。


「お前みたいに性格と口が悪い女神なんて聞いた事ないぞ」


「おやぁ、マスターは知らないんですかぁ?神様ってのは、得てして性格が悪い物なんですよぉ」


「んな訳ないだろ」


どういう持論だよ。

もしそれが本当だとしたら、あまりにも嫌すぎるぞ。


「ふふふ。いずれ分かりますよぉ。いずれ身をもって……ね」


リリアが楽し気に不吉な言葉を口にする。


お前は預言者か?

ほんっと、いい性格してるぜ。

こいつは。

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