第17話 生命力

「ぐおおおおおおぉぉぉぉぉ!」


目の前の化け物が雄叫びを上げる。

奴の名はミノタウロス。


人の様な二足歩行で立ち。

牛の頭部を持つ巨体の魔物だ。

全身は硬そうな剛毛で覆われ、その手には巨大な戦斧が握られている。


「レベル97以上って事か」


ここはダンジョン下層。

奴と遭遇する前に蜥蜴と蝙蝠家族を狩っている。

そのお陰でレベルは96まで上がっている訳だが、先制で放った【超越種の咆哮ドラゴン・ハウリング】は奴に効かなかった。

つまり、ミノタウロスのレベルはそれ以上という事になる。


「はずれです。95ですよ。アレ」


「95?どういう事だ?」


超越種の咆哮ドラゴン・ハウリング】は自分よりレベルの低い相手を無力化するスキルだ。

相手のレベルが此方より低いのなら無力化されているはず。

だが、目の前の魔物は唸り声をあげながら此方を睨みつけている。


抵抗レジストですねぇ。状態異常系の耐性スキルがもりもりついていますから」


今のリリアにはスキル【神眼】に近い機能が備わっている。

それで相手の能力を覗き見する事が出来た。


「成程」


納得する

俺もスキルで高い毒耐性を持っているからな。

魔物がそういった物を持っていてもおかしくはないだろう。


「ま、世の中そうそう甘くはないって事ですね」


「まあ効かないなら、力で捻じ伏せるだけだ」


俺は分身を生み出し、本体だけブーストを発動させた。

分身には囮を任せ、隙をついて本体が攻撃加えるという作戦で行くことにする。


蜘蛛と蜥蜴は無力化して倒していたので、折角なのでこいつで訓練の成果を確かめるとしよう。


「気を付けてくださいよぉ。痛みを軽減する魔法をかけてるとは言え、分身の受けた痛みは共有されるんですから」


「分かってる」


分身とは感覚が完全に共有されている。

当然痛みもだ。

だから下手を打って分身が真っ二つにされでもしたら、いくら魔法で軽減されているとはいえ最悪痛みで気絶しかねなかった。


多少はともかく、致命打には気をつけないと。


「じゃ、私は華麗なポーズで応援してますので。頑張ってください」


「……」


そう言うとリリアは変なポーズをとった。

ひょっとして今まで気づいていなかっただけで、俺が戦ってる時いつもやってたのだろうか?


「ぐぅおおおおおおおおぉぉぉぉ!」


ミノタウロスが再度雄叫びを上げる。

ただし今度はこっちに向かって突進しながらだ。

どうやらリリアのポーズを挑発と受け取ったらしい。


超越種の咆哮ドラゴン・ハウリング】使った時でも相手は動かず様子見してたってのに、どんだけ煽り能力ヘイト高いんだよ


「ファイトー」


気の抜けた声援を背に受け、俺は前に出てミノタウロスを迎え撃つ。

奴はダッシュから地面を強く蹴って前方に跳躍。

そして着地と同時に、手にしたその巨大な戦斧を俺に向かって叩きつけてきた。


体重と勢いの乗った渾身の一撃を正面から受けてやる謂れはない。

俺はを分身と左右に分かれる様、それを躱す。


「げ!」


地面に叩きつけられた戦斧は、次の瞬間には分身に迫っていた。

思った以上に切り返しが早い。

態勢が悪いので受けきれないと判断した俺は、分身側でもブーストを発動させる。


「ぐぅっ!」


だがそれでも相手の攻撃を受け止めきれず、数メートル吹き飛ばされ、思いっきり壁に叩きつけられてしまった。

背中に強い痛みが走り、衝撃で分身が消滅してしまう。


「せっかく出したってのに……」


どうしても体を同時に二つ扱おうとすると、反応が悪くなってしまう。

それに合わせて判断力も当然鈍る。

そのせいで一撃でやられてしまった。


完全に体力の無駄使いだ。

しかも痛みのオマケつきで。


どうやら分身の実践投入はまだ早かった様だ。


もっと練習しないと駄目だな、こりゃ。


「ぐおおおぉぉぉぉ!」


ミノタウロスは、続けてこちらに攻撃を仕掛けて来た。

さっきは勢いと体重が乗っていたので躱したが、今度は手にしたミスリルの剣でその一撃を受け止める。


そこそこ重い一撃ではあったが、そのパワーは間違いなくテッラ以下だ。

俺は力を込めて戦斧をはじき返した。


「はぁっ!」


態勢の崩れたミノタウロスの腕に剣を振るう。

宙に奴の右腕が飛び。

「ふぎゅおおおおおぉぉぉ!」と、苦し気な雄叫びをミノタウロスがあげて後ろに下がった。


「一気に決める!」


その隙を呑気に眺めている程、俺もお人よしではない。

一気に突っ込み、奴の苦し紛れの反撃を躱して剣閃を無数に叩き込んだ。


「まったく!タフだな!」


ミノタウロスの生命力は相当な物で、本来なら致命となる様な攻撃を何発も食らっているのに倒れない。


「ぐおおおおぉぉぉぉぉぉ!」


奴が雄叫びを上げる。

最期の力を振り絞って反撃でもして来るのかと思ったが、違う。

その全身が光に包まれ、体中の傷が一瞬で完治してしまった。


「なんだ!?」


「マスター!【生命力】って全回復のスキルの効果ですよぉ!」


リリアが大声でミノタウロスが何をしたのか教えてくれた。

全回復とか、全く面倒くさいスキルを使いやがる。


まあいいさ。

流石に、全快する様な強力なスキルを連続では使えないだろう。

回復したってんなら、その分追加で攻撃するだけだ。


「いくぜ!!」


実力的にはこちらが上。

俺は正面から斬りかかり、奴を力で捻じ伏せる。


奴の振るう斧を弾き。

再度無数の斬撃をその巨体に叩き込んだ。


「オラァ!」


ミノタウロスの足を大きく切り裂き、態勢が崩れた所でその首を跳ね飛ばした。

いくら耐久力が高いとは言っても、流石に首を跳ね飛ばされればアウトだろう。

奴の巨体は跡形もなく様滅していく。


「ポーション……て事は、超レアだよな」


消滅したミノタウロスと変わり姿を現した小瓶。

緑色に光るそれを手にとって、俺は鑑定魔法を発動させる。


「バイタルポーションか」


その効果は、スキル【生命力】を取得すると表示されていた。

さっきミノタウロスが全回復したスキルだ。

一瞬で回復していたので、かなり強力なスキルと言えるだろう。


「マスター。それ使うんですかぁ?そしたらリリアちゃんの仕事が減っちゃいますよぉ」


「そりゃいい事だ」


俺は分身を発動させ、分身の手にしている方のポーションを口にする。

少し獣臭く、後味が猛烈に悪い。

飲み物としては0点だな。

まあ薬品と考えれば、妥当な味ではあるのかもしれないが。


「24時間に一回か」


魔法で確認すると、スキルの説明欄には使用間隔クールタイムが記されていた。

予想通り連発は出来ない様だ。


「良かったな、リリア。この間隔だと、切り札として取っておきたいから仕事は無くならないぞ」


「何言ってるんですか?マスター。スキルの説明を覗き見してますから、もちろん知ってますよ」


「……じゃあさっきのは何だったんだ?」


分かってたんなら意味不明だぞ?


「困った振りのリリアちゃん。可愛かったでしょ?」


リリアがニヤリと笑う。


……こいつは。


「まあいい」


俺は分身を消す。

そしてスキルが消えずに残っている事を確認し、もう一度分身を生み出した。


分身のバイタルポーションを再度服用する為だ。

進化なり、レベル2なりがあるかもしれないからな。


「レベル2にかわったな」


「おや、こりゃおったまげな能力ですねぇ」


「ああ、確かにこりゃスゲェ」


【生命力Lv2】

スキルには瞬間回復に加え、一度だけ死んでも全回復で蘇ると記されていた。

つまり、蘇生スキルに進化したという事だ。


「もう一本いっとこう」


リリアが言うには、スキルの3段階目が存在している可能性は限りなく0に近いらしい――リリアの能力によるこれまでのスキルの解析から。

だが数に限りがある訳ではないので、試しておいて損はないだろう。


俺は分身を再び生み出し、バイタルポーションを飲み干した。

うん、三回飲んでもやっぱり不味い物は不味い。


「無しか」


「だから言ったじゃないですかぁ。高級品であるリリアちゃんを、マスターはもっと信頼すべきですよぉ」


「はいはい」


俺は首を竦めて適当に返事を返した。



本日のリザルト


取得経験値 120万×100=1億2千万

レベル 96→98

取得スキル 【生命力Lv2】

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る