第8話 伝説の金属

「鉱物か……どれ」


オーガを切り捨てると、結構なサイズの金属の塊インゴットが地面に落ちた。

剣を数本は作れそうな程の質量だ。

ぱっと見普通の白い金属の塊にしか見えないのだが、超レアなので普通の金属という事はないだろう。


俺は鑑定の魔法でそれを確認する。


その金属の名は――


「オリハルコンだと!?」


俺は驚いて思わず声を上げてしまう。

なにせオリハルコンと言えば、御伽噺などに出て来る勇者の装備などに使われている幻の金属だ。


絵空事に出て来る架空の物質とばかり思っていたのだが、まさか実在していたとは。


「売る……いや、ありえないな。鍛冶屋に依頼して武器を作ってもらうべきか」


売れば目玉の飛び出る様な価格が付くだろうが、その選択肢はない。

ダンジョン攻略を本気で目指す以上、強力な武具は絶対に必要だ。

加工して自分で使うのが正解だろう。


「加工ですかぁ?それは無理じゃないですかねぇ」


リリアが首を竦める。

一体何が無理だというのだろうか?


「どういう事だ?」


「この金属、外部からの魔法を一切受け付けないみたいなんですよね。しかもとんでもなく硬いみたいですし。だからたぶん、人間じゃまともにこの金属を加工できないと思いますよぉ」


「えぇ……」


リリアの言葉が事実なら、伝説の金属で作られた強力な装備を身に着けるというのは夢に終わりそうだった。

いくら稀少で強力な物だったとしても、加工できないのでは意味がない。


「てことは、外れかぁ……」


投げて敵にぶつける事ぐらいは出来るだろうが、それが攻撃として有効かと言われれば……


「まあ売り飛ばすのもあれですからぁ。取りあえず持っておいて、加工できる人間が見つかったらラッキーぐらいに思ってたらいいんじゃないですかぁ」


「まあ、そうだな」


加工ができないというのは、あくまでもリリアの見立てでしかない。

仮に可能性が低くかったとしても、ダメ元で探した方がいいだろう。


もしオリハルコンを売り飛ばしてしまえば、その可能性すらなくなってしまうからな。


しかしゴブリンの笛といい。

分身やこのオリハルコンといい。

手に入れたら即凄い効果を堪能できるって訳じゃない物が案外多いな。


もちろん全て強力な事には違いないが、超レアにあまり期待しすぎるのは良くないのかもしれない。


「じゃ、下層に向かいましょうか。マスター」


「え!?」


「あれ?今日は中層まで何ですかぁ?私はてっきり、下層にも足を延ばすとばかり思ってたんですけど」


中層と下層では、魔物の強さの次元が違う。

中層が楽勝だからと言って、下層での狩りが成り立つとは限らない。


「下層かぁ……」


緋色の剣時代、下層に足を延ばした事が一度だけある。

当時の俺達はレベルが40台に突入――もちろん俺以外――し、アイテムを使い放題だったため、中層での狩りが少し温く感じ出していた。

だから調子に乗って下層へと足を延ばしたのだ。


そこで俺達は思い知らされる。

下層モンスターの別格の強さを。


その時は高級ポーションやマジックポーションを大量消費して何とか遭遇した魔物を退治する事が出来たが、本当に限界ギリギリの戦いだった。


今思いかえせば、あれからだったのかもしれない。

パーティーの空気が変わりだしたのは。

恐らくギャン達はその事をきっかけに、6人のままじゃ下層攻略は成立しないと考えたんだろう。


ま、過ぎた事は考えても仕方がないな。

要はそれぐらい下層の魔物は強いという事だ。


「まあでも……今の俺ならいけるか」


俺のレベルは86にまで上がっている。

更に【超幸運】のブーストを使えば、そこから基礎能力は2倍に跳ね上がるのだ。

リリアもいる訳だし、今の俺ならどうにでもなるだろう。


「よし、下層に行くぞ」


下層以降の超レアドロップは、レベル100になってレアと合流してからと考えていたが、レベル上げも兼ねて先に集めておくとしよう。


「はーい」


俺は久方ぶりの下層へと足を延ばす。

中層は超レアが3個しか出なかったので肩透かしで終わったが、下層では大量に手に入る事を祈るばかりだ。

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