第9話 実感

「ダンジョン・モニター……」


下層入り口付近を単独で行動する、トカゲの様な姿をした魔物。

それがダンジョンモニターだ。

体長は6メートルにも達する大型であり、下層最弱ながらその強さは中層のモンスター達とは一線を画す。


「トカゲの癖に、いっちょ前にこっち睨んでますねぇ。チャチャッと分からせちゃいましょう。マスター」


簡単に言ってくれる。


しかし相手は腐っても竜種だ――見た目は大きいトカゲだが。

ブレスこそ吐いてこないとはいえ、その巨体から繰り出される圧倒的パワーは喰らえば今の俺でもタダでは済まないだろう。

耐久力だって相当な物だし、残念ながらそう容易く狩れる相手ではない。


「さて、どう戦うか」


緋色の剣で討伐した時の事を思い出す。

前衛の3人が直撃を避けつつ相手の意識を惹きつけ、少しでもダメージを受けたら高額なポーションをがぶ飲みして回復。

そこに後衛のアババとケネスが、これまた高額なマジックポーションをがぶ飲みしつつ魔法の連打で倒している。


単独で戦う――リリアという保険はあるが――俺には、もちろんそんな戦術はとれない。


「まあ、ごり押ししかないか」


俺は【超幸運】のブーストを発動させる。

超レアがなかった場合、リリアの効果だけになるのでレアドロップ率が20%にまで下がってしまうが、それを気にして使わずに倒せる相手ではないだろう。

そのため、使わないという選択肢はない。


更に【強化】を発動させてからゆっくりダンジョンモニターへと近づいた。

相手が喉元から「フシュー」と威嚇音を鳴らしてくるが、俺は無視して間合いを詰める。


「ぶしゃあああああぁぁぁぁ!」


5メートル程まで近づいた所で、ダンジョンモニターが雄叫びを上げて突っ込んできた。

その姿を見て思う。


あれ?

こんなに遅かったっけ?

と。


以前見た時は相当早く見えたのだが……今はトロイとまでは言わないが、この程度の速度なら余裕で対処できそうだ。

俺はダンジョンモニターの突進を躱しながら、手にした剣を相手の前足に切りつけた。


鱗を引き裂き、そこそこ深い傷を負わせる


そんなイメージだったのだが――俺の剣はダンジョンモニターのその太い前足を丸ごと綺麗に跳ね飛ばしてしまった。


「ふぁっ!?」


想定以上の大ダメージに、動きを止めて俺は思わず変な声を上げてしまった。


足を切られた奴は、前のめりに顔面から地面に突っ込んで豪快に転がる。

本来ならその隙を逃さず追撃するべきなのだろうが、想定外の事態に、俺はあ然と地面に転がるダンジョンモニターを眺めてしまう。


いやだって、一太刀であの太い足が飛ぶとか普通は思わないだろ?


「ぎゅぐぅぅぅぅ」


俺が驚いてる間に、奴は3本の足で起き上がって来る。

心なしかその目には怯えの色が見えた。

俺が一歩近づくと、ダンジョンモニターは逃げる様に後ろに下がる。


「こいつ、逃げるタイプだったのか……」


ダンジョンの魔物は、大きく分けると2タイプ存在していた。


死ぬまで狂った様に戦い続けるタイプと。

劣勢になると逃げだすタイプだ。

その大半が前者になる訳だが、どうやらダンジョンモニターは後者の様だ。


因みに緋色の剣で倒した時は、逃走の気配は一切なかった。

まあお互いギリギリの戦いだったからな。

恐らく、圧倒されなければ逃げ出す様な事はないのだろう。


「しゅおぉぉぉぉぉ!」


ダンジョンモニターが、3本の足で素早く旋回して此方に背を向けた。

そしてそのまま勢いよく逃走を始める。


もちろん逃がすつもりは更々ない


【ダッシュ】を発動させ、素早く奴を追う。

スキルを発動させた俺と、一本足を失っているダンジョンモニターとでは速度が違う。

見る間に奴との間合いが詰まった。


「罠の可能性もあるか」


剣で切りかかった瞬間、尻尾の反撃も考えられる。

大丈夫だとは思うが、わざわざリスクを負う必要はないだろう。


ここは――


「マジック!フルバースト!」


俺は相手の尻尾の間合いのギリギリ外から、スキルを放つ。

剣から放たれたエネルギーが逃げる魔物を貫き、見事にその巨体を消し飛ばした。


「よし!超レアドロップ!」


以前倒した時は、ミスリルのインゴットがレアドロップとして手に入っている。

その売価は500万越えだった。

そしてノーマルの方はミスリルの原石で、5万程だ。


だがドロップしたアイテムは、そのどちらとも違っていた。

間違いなく超レアドロップだ。


「どれどれ」


俺は赤黒く光る小瓶を手に取り、鑑定の魔法を発動させる。


超越種の秘薬ドラゴンズ・ポーション


飲むと、【超越種の咆哮ドラゴン・ハウリング】というスキルを習得する事が出来る様だ。


「スキルなら当たりだな」


加工が必要だったり。

バケモノみたいな魔物が姿を現す心配などないからな。


「しっかし……楽勝だったな」


正直、もっと苦戦するとばかり思っていたのだが。

拍子抜けするぐらい弱かった。


「そりゃそうですよぉ。ブースト込みなら、今のマスターのレベルは176相当な訳ですからね」


変なポーズで音もなく水平移動して来たリリアが、俺の疑問に答える。

どうやって移動してるんだろうか?

謎だ。


「そっか。まあそうだな」


下層の敵が強いとはいえ、ブーストを使った俺はレベルが176相当なのだ。

流石にそこまで強化されれば、最弱モンスター如き敵ではないという事だろう。


初めて使った相手が化け物ガートゥだったせいで大した事ない印象を持っていたが、俺は自分が思ったよりずっと強くなっていた様だ。


しかし176か……冷静に考えると、この数字はレアのレベル以上なんだよな。


「確かレアはレベル165だったよな」


「おやおや。レベルさえ超えてしまえば、あの生意気なレベル165の女剣士なんてボコボコだぜって顔をしてますねぇ」


「してねーよ」


凡人ならともかく、レアぐらい天才になるとレベルが並んだ程度ではとても追いつけない。


俺も訓練はちゃんとして来てるので、他の冒険者達と比べても基礎能力や技量的に劣ってはいないだろう。

だが彼女と比べれてしまうと、どうしても見劣りする感は否めなかった。


レアの持つユニークスキル【剣聖】一つとってもそうだろう。


剣士としての資質が大幅に上がり、訓練の効果も増大するという強力なスキルだ。

そんなスキルを生まれ持ち、物心ついた頃から剣を振るう彼女に剣士として俺が追いつくのは至難の業だ。


まあそれ以前に、彼女もユニークスキルの【ブースト】があるのでレベル的にも全然追いつけていないしな。


「またまたぁ」


「またまたぁ、じゃねーよ。俺だって身の程は弁えてる。少なくとも、今の俺じゃ・・・・・話にならない事ぐらいな」


そう、今のおれでは……だ。


フィーナを蘇生させるため、俺は強くならなければならない。

とんでもない化け物と戦うには、レアより先に行く気概でなければ話にならないだろう。


誰かに前を任せている様な半端な気持ちで叶うような願いじゃないからな。


「そうですかぁ。ま、それが理解できてるんなら私から言う事は何もありませんねぇ」


リリアがに口の端を上げて、性格悪そうに笑う。

ひょっとして、彼女は俺が調子に乗ってないか確認したのだろうのか?

こいつの真意は、いまいち分かり辛いから困る。


「まあ取り合えず、せっかく手に入れたんですしさっさと飲んどきましょう。そ・れ」


「ああ」


周囲に気配はないのでアミュンの時の様にはならないだろうが、後回しにする意味もない。

俺は瓶の蓋を開け、中身を飲み口に含む。

味は若干生臭い物だったが、まあえづく程ではなかったのでそのまま一気に飲み干した。


「強力なのが手に入りましたねぇ」


「ああ、大当たりだ」


超越種の咆哮ドラゴン・ハウリング】の効果を確認すると、自分よりレベルの低い相手を行動不能にするという強烈な物だった。



本日のリザルト


取得経験値50万×100=5000万

レベル86→87

超越種の咆哮ドラゴン・ハウリング】取得。


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