第6話 分身

「レベルが半分?」


【分身】のスキルを確認して俺は眉根を顰める。


「おかしいな?ゴールデンスパイダーは分身を4体出してたし、動きは全部一緒に思えたんだが……」


スキルを確認すると、呼び出せる分身の数は2体と記されていた。

しかも生み出した分身のレベルは本体の半分とも書いてある。


ひょっとして、魔物の使ったスキルとは別物なのだろうか?


「ああ、さっきの蜘蛛のスキルはレベル2でしたから。そのせいみたいですねぇ」


気づくとリリアが3人に増えていた。

分身のスキルを使ったのだろう。

無邪気な可愛らしい顔だが、同じ顔みっつで下から覗き込まれるのは違和感が凄い。


……つうか、俺より先に使うなよな。


ちょっとモヤッとしたが、まあそこは取り合えずスルーしておく。


「そうか……レベル1だと能力半減の2体までなのか」


微妙とまでは言わないが、思っていたほどの効果は期待できない様だ。


「んー、それとこのスキル……魔法使い系だとちょっと使い物になりませんねぇ」


「どういう事だ?」


何か問題でもあるのだろうか?

魔法系だって、分身して魔法を打てれば相当便利なはずなのだが?


「使ってみたら分かりますよぉ。口で説明するよりも手っ取り早いんで、使ってみてください」


「ふむ」


言われて早速【分身】のスキルを発動させてみた。

俺の体の内側から生まれて来る様に、スキルで分身が生み出される。


「う……こりゃ……」


瞬間、眩暈が俺を襲う。

視界と体の感覚が複数重ったせいだ。

俺は立っていられず、ふらついての場で膝を着いてしまった。

当然分身体も本体同様だ。


……成程。

確かにこんな状態では、とても魔法など使えないな。


リリアは一見平気そうに立ってはいるが、その実、結構な負荷がかかっているに違いない。


「情報や感覚の量が3倍になっちゃいますからねぇ。さっすがのリリアちゃんも、三つの体で同時に魔法とかはできそうにないです」


「きっつ……」


何とか立ち上がろうとするが、平衡感覚が上手くとれずにふらついてしまう。

俺は分身のコントロールを諦め、早々にスキルを解除した。


「これ……使い物になんないじゃねーか?」


くらくらする頭を押さえ、立ち上がる。

結構強力なスキルだと思っていたのだが、このざまではまるで使い物にならないだろう。


「まあ2体出して戦うのは、余程訓練しないと難しいでしょうねぇ。でも1体ぐらいなら、今でもある程度は動かせるんじゃないですかぁ?」


「一体だけか」


リリアの言葉を受けて、改めてスキルを発動させる。


眩暈は収まっているが、今度は虚脱感が襲って来た。

これは分身による感覚の狂いではなく、スキル発動の消耗によるものだ。

消費が大きめなので、あまり連発は出来そうにはない。


「成程……これなら確かに何とかなるか」


2体出しに比べ、1体だけなら頑張ればどうにかなりそうな感じだった。

もっとも、それでも訓練なしで自由に動かせるかと言われれば答えはノーだ。

現状だと出した方が確実に弱くなりそうなので、要訓練といった所だろう。


「まあいいや。とりあえず超レア集めを続けよう。リリア。悪いんだけど体力の回復を頼む」


「はーい」


分身を消し、リリアに体力を回復して貰う。


中層モンスターの残りは4種。


物理攻撃の利かない厄介な魔物であるゴースト。


数種類のスケルトンが纏まって行動し、まるで冒険者パーティーの様に攻撃を仕掛けてくるスケルトンチーム。


硬い装甲を持つサソリ型の魔物。

スティンガー。


そしてお馴染みのパワーファイター。

オーガ。


全部とは言わないが、出来ればあと一つ二つは超レアがドロップしてほしい所だ。


「まずはゴースト狙いだ。物理が利かないから、頼んだぞ」


リリアは攻撃魔法こそ使えないが、浄化魔法ならお手の物だった。

幸いな事にダンジョン内のゴースト系は浄化しても倒した扱いになるので、経験値もドロップもちゃんと手に入る。


「ふふ、お任せあれ。哀れなゴースト共は、このリリアちゃんが地獄に叩き落して差し上げましょう」


「……」


浄化されるのに地獄に行くのか……なんか理不尽じゃね?


そう思わなくもないが、まあ細かい事は気にしない様にしよう。


「まあ頼むよ」


俺はリリアを連れ、ゴーストの出現するエリアへと向かうのだった。

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