第5話 レアモンスター
「リザードマンはなしか」
倒したリザードマンのドロップは魔石だった。
当然この魔物から超レアドロップを入手した事などないので、こいつはドロップ自体がないという事だ。
「中層でもやっぱはずれが多いな」
トライアングラーにオゲイラ――でかい人間サイズのオケラの様な魔物――もドロップ無し。
これで3連敗だ。
いやまあ、勝ち負けではないから連敗ってのはおかしいのかもしれないけど……だが気分的には、どうにも負けた感が強い。
「まあしょうがないんじゃないですか。所詮ここらの魔物は雑魚雑魚ですからねぇ。期待する方が酷ってもんですよ」
当のリリアは、その雑魚呼ばわりしている中層モンスターのお陰でレベルが大幅に上がってパワーアップしている訳なのだが……ま、別にいいけど。
俺の悪口を言われてる訳じゃないしな。
「まあいいや、次に行こうか」
暫く中層をダッシュで進むと、でかい蟻が視界に入って来た。
アーミッツと呼ばれる魔物で、中型犬サイズのアリの様な見た目をしている。
なりは小さめだがそのスピードは速く、更に黒々した甲殻はかなり硬い。
「こいつの相手は面倒なんだよなぁ……」
アーミッツの最大の特徴は速さや硬さではなく、その生息数だ。
目の前の魔物の奥には、更に数匹の姿が見えた。
こいつらはその数が多く、しかも鳴き声で周囲の仲間を呼び出す習性を持っている。
そのため、一匹叩くと下手をすると三十匹位は相手するハメになりかねない。
因みに、中層における冒険者の死亡率1位はこいつだそうだ。
経験値が旨いだけに無理をしてしまい、気づいたら囲まれてとんでもない事になるというのが一番の原因になっているらしい。
まあ今の俺なら問題なく相手できるとは思うし、経験値もかなり旨い方なので狩っておいて損はないだろう。
俺は気合を入れる。
さあ、一狩り――
「
俺が剣を抜くよりも先に、リリアが結界魔法を発動させた。
相変わらずいつ詠唱してるのか分からない程の速さだ。
結界は一番前のアーミッツと背後にいた奴らを綺麗に分断している。
「今日はレアアイテム集めですからぁ、手前のをさっさと始末して次に行きましょう。狩りはパワーアップしてからの方が効率はいいですし」
「ま……そうだな」
気合を入れていただけに拍子抜けする形になってしまったが、まあリリアの言う通りだった。
ここで頑張るより、超レアを先に集めた方が狩り効率は上がる筈だ。
まあ有用な物が手に入る前提ではあるが。
俺はいきなり結界が発生して戸惑ってるアーミッツに素早く近づき、一刀の下でその首を跳ね飛ばした。
ドロップ品は大きめの金だ。
値段は数万ボルダといった所だろう。
もちろん超ではなく、只のレアだ。
「まーた外れかぁ」
「ま、所詮アリですしね。次行きましょう次――ん?あっ!」
リリアが驚いたような声を上げ、遠くを指さす。
そっちを見ると、そこには一匹の黄金に光る蜘蛛の姿が見えた。
「マジかよ……」
ゴールデンスパイダー。
それはレアモンスターと言われる魔物だった。
特定のエリアには留まらず、中層内で極極稀にだけ遭遇すると言われている。
俺も見るのは初めてだが、黄金色に輝くその体から間違いなくゴールデンスパイダーだと判断できた。
「激ウマですから、やっちゃいましょう」
ゴールデンスパイダーの経験値は下層の魔物以上であり、ドロップ品もノーマルで15万ボルダはする代物だ。
狩れれば猛烈にアツい。
レアモンスターだし、超レアの方も期待できるだろ。
「マスター。動かないで下さいよぉ。まずはリリアちゃんが閉じ込めますからぁ」
「ああ、頼む」
ゴールデンスパイダーとんでもなく足が早く、しかも近づくと分身してすぐに逃げ出してしまうらしい。
そのためよほど運がなければ狩る事は難しい――遠距離狙撃が本体に当たる事を願うぐらいが関の山――のだが、結界で閉じ込める事が出来ればこっちの物だ。
「
リリアが広範囲をカバーする結界魔法を発動させる。
エビルツリーの時に使った例の奴だ。
魔法は周囲一帯に光の壁を生み出し、異変を感知して逃げ出そうとしたゴールデンスパイダーの周囲をあっという間に囲ってしまう。
「やりましたー!リリアちゃん偉い!」
「おう!偉いぞ!」
テンションが上がってリリアの頭をなでなでしようとしたら、ひょいと軽く躱されてしまった。
「マスター。そういうのはいいんで、早くやっちゃいましょう」
「あ、ああ」
別に躱さなくてもいいだろうに。
そんな事を考えつつも、一直線の通路状になった結界の中を俺はゆっくりと奴に近づいた。
するとゴールデンスパイダーの体がぶれ、その体が5つに分かれる。
分身のスキルだ。
「あ、マスター。その蜘蛛、即死級の毒攻撃持ってる様ですから少し気を付けてくださいねー」
「ぇっ!?毒!?」
背後からかけられたリリアの忠告に、思わず足を止める。
恐らく、リリアの目の力による鑑定で見抜いたのだろう。
しかし……即死レベルの毒か……
ゴールデンスパイダーは基本逃げ出すものであるため、その攻撃方法は知られていない。
本来は知る必要のない事なのだろうが、この状況だと間違いなく反撃が飛んでくるはずだ。
「ああ、でもそんなに警戒しなくても大丈夫ですよぉ。マスターは強力な毒耐性を持ってるんで、食らいまくりさえしなければ問題ないと思いますんで」
「そ、そうか」
ポイズンラットの超レアで得た、少し微妙だと思っていたスキルがまさか早速役に立とうとは夢にも思わなかった事だ。
その幸運に感謝しつつ、俺は【強化】のスキルを発動させ蜘蛛との間合いを詰めた。
「ジィーーーー」
ある程度距離を詰めると、ゴールデンスパイダーが空気の抜ける様な威嚇音を放ち、分身を含めたその全てが俺一斉に襲い掛かかってきた。
咄嗟に当たりをつけて剣を振るうが、切り裂いた一匹は外れだったらしく、霞の様にその体は霧散して消えていく。
外れだ。
残りの4匹がその鋭い爪で攻撃してくる。
何とか捌いて追い払うが、流石にスピードは大したもので、何発か攻撃を軽く喰らってしまった。
「うっ……」
体から血の気が引く。
毒の効果だろう。
即死級と考えれば全然大した事はないレベルに抑えられているのだろうが、何発も食らうのは流石にやばそうだ。
「げっ……」
間合いを離した蜘蛛が、追加で分身を行って減った数を補充する。
どうやら本体を当てるか、4匹纏めて倒さなければいけない様だ。
「しょうがないな……ブースト!」
外れを引きまくったら負けも見えて来る。
レアは惜しいが、超レアがある事を信じて俺は幸運ブーストを使用した。
「こい!」
「ジィーーーーー」
俺の声に反応するかの様に、ゴールデンスパイダーが再び飛び掛かって来る。
俺は一番右に狙いを定めて剣を振るった。
「あっ……」
そいつを切り裂いた瞬間、他の体も含めてすべてが消滅する。
どうやら当たりを引いた様だ。
ブースト……いらんかった。
まあ結果論だ。
気にしてもしょうがない。
それに――目の前には赤く光る瓶が転がっていた。
「よし!」
超レアドロップだ。
俺はそれを拾って、魔法で鑑定を行う。
分身ポーション。
「スキル分身を習得するポーションか……」
ゴールデンスパイダーがスキルで分身していたが、それと同じような感じだろうか?
俺は瓶の蓋を外し、それを一気に飲み干した。
本日のリザルト。
スキル:【分身】
経験値200万×100=2億
レベル82→86
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