第27話 ギルド

「やれやれ……」


「おや?何か心配事でも?」


「お前だよ。心配事は」


「あら、私の事を心配してくれるんですかぁ。お優しいですねぇ。マスターは」


「んな訳ないだろ。お前が余計なトラブルを起こさないか心配してるんだよ」


ドロップ品を換金するため、今日はギルドに行く訳だが……


前回ギルドに行った際、リリアは子ども扱いしてからかってきた相手を罵りまくって盛大に揉めている。

相手が悪かったとはいえ、俺としては出来る限り余計なトラブルは避けたかった。


だから今回は宿に残る様に言ったのだが……


「マスターの安全を守るのが私の御役目。ですので、お断りします」とあっさり断られてしまっている。


「ほんと、トラブルは勘弁してくれよ」


「心配性ですねぇ。ま、出来るだけ黙っておきますから。安心してください」


出来るだけという言葉が差す範囲が凄く狭そうで、心配は尽きない。


「冒険者と揉めたら、偶然ダンジョンで遭遇した時に嫌がらせされたりする事もあるんだ。ほんとに気をつけてくれよ」


「あら、そんなの返り討ちにすればいいだけじゃないですかぁ」


リリアは軽くそう言う。

確かに彼女の魔法の補助があれば、それは難しい事ではないだろう。


だがそういう問題ではない。

問題が起こること自体が煩わしいのだ。

対処するのにだって労力は掛かるし、正に時間の無駄でしかない。


「とにかく、リリアは黙っててくれ」


「はーい」


立派な門構えを抜け、しっかりとした造りの冒険者ギルドの中に入る。

建物が立派なのは国営だからだ。

一般的に冒険者なんて物は半ぐれやならず者の集団だと思われている節があるが、意外な事に冒険者ギルドは国によって運営されている。


何故国が?

そう思うかもしれないが、これにはちゃんと理由があった。


実は冒険者には、緊急時の兵役義務があるのだ。

そのため、ひとたび戦争や未曽有の災害が発生すれば、冒険者は兵士として国のために働かなければならなかった。

つまり冒険者は、国に雇われている臨時の兵士扱いという訳だ。


まあここ100年以上戦争が起きていないので、今では殆ど形骸化してはいるが。


因みに、ギルドに所属する事で得られる冒険者側のメリットはダンジョン探索の権利だ。

ダンジョンは国が管理しているので、許可を取らなければ中には入れない。

当然一般人にはそんな許可は下りないので、冒険者達はその権利を得るためにギルドに登録してるって訳だ。


「げっ……」


ギルド本館に入って早々、嫌な相手と目があった。

元パーティーメンバーのギャンだ。

彼は壮年の冒険者と話し込んでいる様子だが、その視線は思いっきり此方を見ていた。


完全に俺に気付いている。


「ま、気にしてもしょうがない」


あくまでも“元仲間”だ。

相手も俺に用はないだろうから、接触はしてこないだろう。


「あの見るからに雑魚っぽいのが、どうかしたんですか?」


聞かれたら完全に揉める内容だ。

大声ではないので聞こえてはいないだろうが。


「うん、黙っててくれ」


「はーい」


「絶対だぞ」


「はーい」


一応リリアに釘を刺し、俺は買取カウンターへと向かう。

受付はティクだ。


「お久ぶりです。アドルさん」


「買取を頼むよ」


「その無駄に大きな物で、男ど――もっ!フゴフゴ!」


失礼極まりない発言に気付き、慌ててリリアの口を手で塞ぐ。

全く油断も隙もない奴だ。


「ふふ。リリアちゃんは相変わらずみたいですね」


「すまない。こいつの言う事は気にしないでくれ」


俺は【収納】スキルを使い、ストックしてあったアイテムを取り出す。


「リザードアイですか?」


今回の持ち込んだのは、リザードマンが落とすリザードアイと呼ばれる宝玉だ。

プレデギンの落とす金粒程ではないが、まあそこそこの価格にはなる。


「って事は、今はリザードマンを狩ってるんですね」


「まあそうなる」


冒険者は買取に持ち込む物で何を狩っているかモロバレだった。

まあ別に隠す必要はないので別に構わないが。


「凄いですね。少し前までは浅瀬で狩りをしてたのに、もうリザードマンを狩ってるなんて」


「まあ相棒が優秀だからね」


「その通り」


リリアがドヤ顔する。

まあそれをする権利はこいつにはあった。

冗談抜きで優秀だからな。


「ふふ、じゃあちょっと確認しますね」


持ち込んだ数は200個と多い。

カウンターいっぱいに積まれたそれを、ティクは一つ一つ確認しながら数を数えていく。


ドロップが200個という事は、リザードマンを200匹倒した事を意味している。

取得経験値は占めて1億。

今の俺のレベルは56まで上がっている。


「一つ5000ボルダ。200個で100万ボルダになります。たった10日でこれだけ稼いでこれるのはアドルさんだけですね」


「まあ【幸運】だけが取り柄だからね」


「そんな事ないですよ。この稼ぎはアドルさんの冒険者としての知識や腕があっての物ですから」


「おやおやぁ。はつ――もがもがっ!」


さっとリリアの口を塞ぐ。

やはりこいつに沈黙は期待できない様だ。


「じゃ、じゃあ俺はこれで」


長居は無用。

金を受け取って俺はリリアを引きずる様に冒険者ギルドを後にする。


「おいっ!」


ギルドを出た所で、野太い声に呼び止められる。

声で誰だか予想できたので一瞬無視しようかとも思ったが、まあそういう訳もいかないだろうと思い振り返った。


「何か用か?ギャン」


本当に何の用だ?

ひょっとしてさっきのリリアの声が聞こえてたとか?

だとしたら面倒だ。

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