第28話 身に覚えのない苦情
「何の用だと?てめぇ!俺達に何しやがった!!」
「……えーっと、言ってる意味が良く分からないんだが?」
「とぼけんな!俺達に呪いか何かをかけたんだろうが!」
「呪い?何かの冗談か?」
この世界に呪いなんて物は存在していない。
魔法などによる状態異常はあっても、呪いと呼ばれる類の物は存在していないのだ。
そんな事はギャン自身も百も承知の筈だが……
「冗談でこんな事言うか!」
「言っている意味がまるで分からん。一体俺が何をどうしたってんだ?」
ギャンの表情は真剣そのものだった。
言いがかりをつけて絡んできたという顔ではない。
だが奴の言っている事は全く意味不明だ。
「レアドロップが全くでねーんだよ!テメーが何かしたんだろ!」
「…………………はぁ?」
え?
こいつ馬鹿なの?
俺を追い出して【幸運】効果が受けられなくなったんだから、レアドロップ率が落ちるのは当たり前の事だった。
むしろ100%出てた状態が異常だというのに、いまさらこいつは何を言っているのだろうか。
「この1年以上!レアドロップが一切出てねーんだよ!」
「1年以上?」
流石にそれを聞いて眉根を顰める。
レアドロップは1%だ。
確率が低いので、ハマる時は1000匹倒しても出ない事はある。
だが1年も出ていないというのは流石に異常すぎる。
仮に1日10匹計算した場合、3650回連続でノーマルドロップを引いているという事だ。
実際はもっと狩っているだろうから、それ以上という事になる。
「テメーが何かしたんだろうが!そうとしか思えねぇ!」
「何でそう思うのかしら?被害妄想なんじゃない?」
リリアが横から口を挟んで来る。
この険悪な雰囲気で、相手を挑発する様な発言は控えて欲しいのだが……
「子供が口挟んでんじゃねぇ!」
「あら、子供を連れた相手に怒鳴りかかった人間が言うセリフじゃないわねぇ」
「ぐ……」
まあ子連れ――別に俺の子供じゃないけど――の相手に喧嘩売って巻き込んでおいて、その子供には黙ってろでは筋が通らない。
リリアに正論を返されて、ギャンは苦虫を噛み潰した様な顔になる。
多少頭に血が昇って興奮している様だが、完全に冷静さは失われてはいない様だ。
もしそうでないなら、指摘されても逆切れするだけだろうからな。
「そいつは役に立たないから、以前俺達のパーティーから放り出してやったのさ。その事を恨んで、俺達に何かしたに違いねぇ」
ギャンは怒りの形相で俺を睨みつけつつも、事情をリリアに説明する。
まあ確かに恨んではいたし、見返すつもりではいたが、呪いだ何だのは言いがかりに等しい。
そんな能力、俺にある訳もないのに。
「あらあら、役立たずにいったい何が出来るっていうんですかぁ?そうやって彼に責任を求めるのは、本当は恐れているから……とか?」
「ふざけんな!俺がこんな雑魚如きに恐れるかよ!」
「クスクスクス。その割に体が震えてますねぇ。頼みますから、ビビッておもらしとか止めてくださいよ」
「テメー!ガキだと思って優しくしてたら付け上がりやがって!舐めんじゃねぇ!」
ギャンが怒りに任せて拳を振るう。
俺は咄嗟にそれを手で受け止めた。
心情的にはリリアがボコボコになっても一向に構わないのだが、いかんせんその姿は幼い頃のフィーナに瓜二つだ。
そのため、思わず拳を止めてしまった
まあ仮に俺が庇わなくっても、こいつなら自分で何とかしてただろうけど……
「俺の拳を受け止めた!?テメー……アドル」
俺が軽々と拳を受け止めた事に、ギャンは驚きが隠せない様だ。
ていうか、受け止めた手がしびれる。
挑発されたとはいえ、こいつ本気で子供をぶん殴る気だったのか?
いくら何でも余裕がなさすぎだ。
それだけパーティーの経済状況が悪いという事なんだろう。
ま、俺の知ったこっちゃないけど。
「連れの失礼な発言は謝るよ。どうか怒りを抑えてくれ。それと、俺に呪いの力なんてないのはお前も良く知ってるだろ?そもそもそんな力があったら、パーティーは追い出されなかった。違うか?」
取り合えず謝っておく。
他人と揉めても碌な事はない。
適当に謝るだけで問題が回避できるのなら、万々歳だ。
「ちっ……わかったよ。俺も大人げなかった」
暫く睨みあった後、ギャンは俺が握っていた拳を振り払う。
どうにか落ち着いてくれたようだ。
「もう一度言うけど、俺は本当に何もしていない」
「ふん。俺だって本気で言っちゃいない。揶揄っただけだ」
殺気だって話しかけてきておいて、よくもいけしゃあしゃあと嘘が言えるもんだ。
まあそこを突っ込む気はない。
また蒸し返すだけだからな。
「そうか。じゃあ俺はこれで」
長居は無用だ。
放っておくと、リリアがまた余計な事を言い出しそうだからな。
リリアの首根っこを掴み、そそくさとその場を去ろうとして――
「まて!」
呼び止められてしまう。
まだ何か用があるとでもいうのだろうか?
「お前に一ついい事を教えておいてやる。俺達緋色の剣は来月、他パーティーと組んで中層のエリアボスを狩る」
さっきギャンが他の冒険者と話していたのを思い出す。
めったにギルドに顔を出さない彼がわざわざ足を運んで来ていたのは、その交渉をする為だったのだろう。
「エリアボス……か」
レアドロップが出ないから、エリアボスのドロップで資金稼ぎを狙っているのだろう。
狩れればかなり美味いのは間違いないが……
「ああ、ソロ――いや、子供とおままごとしてるテメーじゃ一生狩れないモンスターだ。それを俺達は狩る!」
ギャンが勝ち誇った顔で俺を見る。
そういう表情は、討伐してからにしろと思えてならない。
ただ挑戦するだけなら――命の保証はないが――誰にでもできる訳だからな。
「そうか、頑張れよ」
俺は軽く手を挙げてその場を立ち去った。
個人的には、失敗するんじゃないかと思っている。
願望もあるが、高レベルなパーティーならともかく、中レベルの寄せ集めで勝てる程甘くはない筈だ。
「マスター。良かったら始末してきましょうか?あ・れ」
「あれ?」
「そう、今のゴミムシです」
ゴミムシというのは……たぶんギャンの事だろう。
リリアはとんでもなく物騒な事を、笑いながら口にする。
冗談だとは思うがブラックすぎる。
「お前には攻撃機能はないだろ?」
「やですねぇ。ゴミを始末するのに攻撃なんていりませんよぉ。顔の周りに全てを遮る結界を張っててしまえば、あっという間に窒息です」
「……」
確かにその方法なら人は殺せる。
傷跡も残らなさそうだから、暗殺にはもってこいだろう。
しかしいくら何でも……
「なーんて、冗談ですよ。じょ・う・だ・ん。本気にしないでくださいな」
「お前なら本気でやりそうだって思ったけどな」
「もちろん、命じられればやりますよ?不本意ですが。マスターがどうしてもっていうなら」
「言うわけないだろ」
ギャンは相変わらずムカつくし、見返したいって気分も別になくなってはいない。
けど、殺したいかと言われればもちろんノーだ。
そもそも、人を殺すという選択肢自体俺にはない。
まあ、どうしても許せない奴が出てくればその考えも変わるかもしれないが……
「所でマスター。私、一つ名案を思いついたんですけどぉ……聞きますぅ?」
「いや、言わなくていい」
何の名案か分からないが、どうせろくな内容ではないはずだ。
聞くだけ時間の無駄だろう。
「まあそう言わずにぃ。聞いてくださいよぉ」
リリアが俺の前に回り込み。
悪そうな顔で笑う。
うん。
これは絶対ろくでもない事を考えてる顔だ。
「ゴミ達が狩る前日に、私達でエリアボスを横取りしちゃいましょう」
やはりろくでもない事だった。
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