第26話 リザードマン

「やっぱここは人が多いな」


今俺は新たな狩場を求め、俺は中層を進んでいた。

プレデギンを狩るのは経験値的にも金銭的にも――俺はレア確定でごみを引かないため――美味かったのだが、半年でレベル100というリミットを考えると早いタイミングで狩り効率のいい場所に移っていく必要がある。


レベル100になるのに必要とされる総経験値量は“20億”と言われているからだ。


プレデギンを狩った場合の1日の効率は500万が限界だ。

恐らく、平均すれば400万程に収まるだろう。

浅瀬時代に比べれば異様に美味しく感じる狩場ではあったが、だがそこで100まで上げようとすると、確実に1年以上掛かってしまう。


「さっきからまあ、みんな仲良く同じ所で狩ってますねぇ」


目の前で魔物と戦うパーティーを見て、リリアは肩を竦める。

ここはプレデギンがいるエリアを抜けた先にある場所で、トライアングラーという人間サイズの蜂の魔物がいるエリアだった。


かなり人気のあるエリアでそれだけに人も多く、この辺りに来てから既に3パーティー程姿を見かけている。


「まあここでのレベル上げと金策は定番だからな」


トライアングラーは3体1組で行動する魔物だ。

強さはプレデギンと大差ない。

だが3匹同時に相手にしなければならない分験値は高く、ドロップの収支による金銭期待値も悪くなかった。


しかもリーダー格を残して殲滅すれば、最大3回まで召喚でお供を呼び出してくれる。

そこを上手く利用して狩れば、一度の戦闘で9体もの魔物を狩る事が出来た。


狩りにおける効率は探索時間も影響してくるので、それらを短縮する形で数を狩れるこのトライアングラーは中堅レベルのパーティーには人気の魔物だ。


「ま、最初っからここは無理だって分かってたからな。さっさと先にいこう」


パーティーを避ける様に俺達は奥へと進んで行く。


因みに現在、リリアのホーリーアイ聖眼という魔法が俺にはかけられている。

これは暗闇の中でも視界を確保でき、更に遠くまで見通せる効果を付与してくれる魔法だった。

ダンジョン探索で明かり系の魔法を使うと余計な魔物が寄って来る事が多いため、かなり便利な魔法と言えるだろう。


「また水溜まりですかぁ?」


小一時間程進むと、再び水溜まりの多い場所に差し掛かる。

中層の入り口と違うのは、中には池レベルの大きな水場がある事だろう。

ここからは、リザードマンのテリトリーだ。


「リリア。補助魔法を頼む」


「ハイハーイ」


相変わらずの謎技術で、リリアは魔法を2重発動させる。

かけて貰う魔法はもちろん自動回復リジェネ痛覚鈍化レジストペインだ。


「さて、それじゃあ新武器のお披露目と行くか」


前の剣はプレデギン相手に無茶な使い方をしていたので、かなり痛んでいた。

そこで狩場変更に伴い、修理して使うより武器を新調する事にしたのだ。


今度の剣は頑丈さを主眼に置いたグローネ製で出来ている。

少々値は張ったが、鉄に比べて何倍もの耐久力を誇る金属――グローネ――なのできっと長く使っていけるだろう。


俺はスキル【収納ストック】に入れておいた石を取り出し、大きな池にそれを投げ込んだ。

ぽちゃんという音と共に、水面に波紋が広がる。


リザードマンは通常、水面に潜んでいる魔物だ。

そして近くを人間が通ると襲って来る。

これを知らない初見パーティー等は、奇襲を受けて手痛いダメージを受ける事もままあった。


対処法としては出来る限り水際に近づかないか。

もしくは物を水中に投げ込む、だ。

奴らはオツムが弱いので、此方から潜んでいる水中にちょっかいをかけると勝手に姿を現してくれる。


「あら、不細工」


水中から二匹のリザードマンが姿を現す。

体長2メートル程。

二足歩行で筋肉質な体つきをしており、その手には石でできた原始的な槍が握られている。


「頼む」


「はいはい、リリアちゃんにお任せあれ」


二匹同時に相手にするのはきつい。

そこでリリアに片方をの動きを封じて貰う。


牢獄結界プリズンバリア!」


彼女は詠唱もなしに魔法を発動させる。

ひょっとしたら俺に気付かれない様、魔法を詠唱していたのかもしれない。

発動した魔法は四方を取り囲む光の壁となって、リザードマンの一体を封じ込めた。


「マスター。死なない限りは直してあげられますから、死ぬ気で頑張って下さいねぇ」


死ぬのがダメなら、死ぬ気はダメじゃないか?

そんな事を考えながら、俺はリザードマンと対峙する。


「フシュルルル」


魔物は不快な声を上げてじわじわと間合いを詰めて来る。

仲間を封じられた事は一切気にしていない様だ。


まあここでビビッて逃げられてもあれだしな。

水中に潜られると流石に手が出ない。


「シャアアア!」


リザードマンは、雄叫びと共に槍を突き出して来る。

俺はそれを剣で捌く。


「くっ!重い……」


技術も糞もない様な乱雑な突きではあるが、そのパワーだけは侮れない。

直撃を食らえば間違いなく大怪我だ。

リザードマンは素早く槍を引き、再び力強く突き込んで来た。


俺はそれを今度は受けずに躱し。

そして――


「ダッシュ!」


スキルを発動させる。

レベルが上がって新たに習得した【ダッシュ】というスキルだ。

瞬間的に脚力が向上するスキルで、強い蹴り足によって一気に相手との間合いを詰める事が出来る。

【俊足】とは違い初動だけだが、その効果は大きい。


「はぁ!」


一気に間合いを詰めた俺は、そのままリザードマンの横を駆け抜ける。

剣を振りぬきながら。


「ぐしゅうぅぅぅ!」


剣閃にそってリザードマンの腹部が裂け、中から緑の液体が勢いよく拭き出してくる。

手応えありだ。


だが――


「しゅおおおおぉぉぉ」


「おっと!」


リザードマンが背後に回った俺に、振り向きながら槍を薙ぐ。

結構深く入った一撃ではあるが、残念ながパワー不足で一撃決着とはいかなかった様だ。


俺は相手の攻撃を躱し、再びダッシュで間合いを詰め斬撃を加える。

それを5度ほど繰り返した所で、リザードマンは断末魔の声を上げて消滅していった。


「では、結界を解きますよぉ」


「待ってくれ。その前に足の回復を頼む」


攻撃は一切受けていない。

我ながら完璧な勝利だ。

だがスキルを多用した事で、足にかかる負担が半端なかった。


もう一回ダッシュを使ったら足をつってしまいそうだ。


「しょうがないですねぇ。疲労回復リカバリー


リリアの手から光が放たれ、俺の足を包み込む。

だるさが一瞬で消える。

本当に強力な魔法だ。


これで口さえ真面なら、間違いなく最高の相棒と言えただろう。


「マスター。今、何か失礼な事を考えてませんでしたか?」


「気のせいだ」


リリアが結界を解き、俺は2体目も同じ要領で始末する。


リザードマンの経験値は5000。

レアドロップは魔石だ。

通常、魔石は一般的なドロップとは別扱いでドロップする物(超低確率、かつ幸運の効果も乗らない)だが、リザードマンだけはレアドロップとして魔石が手に入る。


売却額はサイズによって変わるが、中層で手に入る物は大体1万ボルダ前後だ。

まあエリアボスが落とす物はもっとするだろうが。


「そういや、リリアの魔石の補充はどうするんだ」


持続型のマジックアイテムのエネルギー源は、魔石が使われる事が多い。

恐らくヒロイン・ドールであるリリアも同じだろう。

彼女が何も言ってこなかったので、完全に失念していた。


「いやですよぉ、マスター。私はそこらの安物じゃないんですから。エネルギーは自然とチャージされるんで、そんなものいりませんよ。エコです。エコ」


「そりゃ……凄いな……」


どういう原理か分からないが、どうやら彼女は永久機関の用だ。

それを聞いて、冗談抜きで凄いと感心してしまう。

もちろんリリアにではなく、それを作ったフィーナに対してだ。


「サーチの魔法でもう次の相手は見つけてますんで、さっさと次に行きましょう」


「ああ。案内を頼む」


俺はリリアに先導され、リザードマン狩りを続ける。


~result~本日の成果


リザードマン23体討伐で、経験値1150万獲得。


総経験値:2646万

レベル:46

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