第25話 中層

「うげ!?うねうねしてて、超気持ち悪いんですけど」


スロープを下りきった先にある中層入口一帯には、そこかしこに深い水溜まりが出来ている。

そしてその周辺には、巨大なイソギンチャクの様な見た目の魔物が生息していた。


名前はプレデギン。


こいつは大量の触手を使った攻撃特化の魔物で、耐久力はそれ程高くない。

通常パーティーだと、重装備の前衛が攻撃を受け、ヒーラーがそれを回復魔法で援護しつつ遠距離攻撃で仕留めるのがセオリーだ。

まあ役割分担の出来ている4-5人パーティーなら、レベル一桁でも問題なく倒せるだろう。


だがソロで倒そうとすると、かなりきつい相手になる。

何せ相手は此方の攻撃など意に介さず、狂った様に反撃してくるのだ。

今の俺のレベルでも、無傷で倒しきるのは難しいだろう。


因みにイソギンチャクの様な見た目をしているが、実は高速で動いてくる。

そのため遠くからちくちく削るというせこい戦い方は出来なかった。

まあ見た目は似てても、魔物である以上全くの別物だという事だ。


「補助を頼むよ」


剣を強く握りこむ。

作戦は一つ。

何も考えず突っ込む、だ。


通常何も考えず打ち合えば、間違いなくこちらも大ダメージを受けるだろう。

だがこちらにはリリアの魔法がある。


「はーい!」


リリアが呪文を詠唱し、連続して別々の魔法を発動させる。

それは魔法を複数同時に詠唱するという、普通では絶対に出来ない高等技術だった。


自動回復リジェネ痛覚鈍化レジストペイン!」


「センキュウ」


「本当にこの二つだけでいいんですかぁ?何だったら足の匂いを消す魔法とか、腋の匂いを消す魔法をサービスしますけど?」


「いらん」


そんな糞みたいな魔法をかけられても、戦闘では何の役にも立たない。

そもそも、俺の足とか腋は別に臭くないし。


俺はプレデギンに突っ込む。

奴の触手が長く伸び、剣の間合いの外から俺の体を打ち付ける。

だがレジストペインのお陰で痛みは殆どなく、受けたダメージもリジェネによって一瞬で回復する。


やべぇな、この魔法の組み合わせ。


そんな事を考えながら、間合いまで踏み込んだ俺は防御を捨てて剣を振りまくる。

はたから見れば。完全に俺はバーサーカーにしか見えないだろう。


我ながらほれぼれする程のごり押しだが、何度か剣を振った所でプレデギンは絶命する。

その間約数十秒。

これで経験値10万なのだから笑いが止まらん。


いやまあ、実際笑ったりはしないけど。

ダンジョン内で一人ゲラゲラ笑ってたら、それこそ本当にバーサーカーだ。


「どうです?私の魔法は」


「ああ、完璧だ。これならガンガン行ける」


プレデギンのレアドロップ、金粒を拾う。

小指の先位の小さな物だが、1万ボルダはする換金アイテムだ。


ノーマルドロップが真面ならいい金策狩場になるんだろうが、こいつのノーマルドロップはべたべたした触手だからな。

当然売り物にはならないし、完全に誰得アイテムだった。


「探索魔法を頼むよ」


「あらやだ!もう次のおねだりですか!?もぅ、マスターはしょうがないですねぇ」


「……」


「冗談ですよぉ。そんな目で見ないでください」


リリアのお陰で戦闘はかなり楽にこなせるが、こいつと話してると気が抜けて仕方がない。

魔物のいるダンジョンなんだから、もうちょっと緊張感を持てんもんかね?

まあ150相当から見れば、中層での狩りはお遊びみたいにしか見えんのかもしれんが。


探索サーチはもう発動させていますから。次の獲物はあっちです」


リリアが魔物のいる方向を指さした。

探索サーチは周囲の生命反応を探る、かなり高位の魔法だ。

それでもレアの使う【広域探索エリアサーチ】に比べれば範囲はかなり狭く、地形の把握も出来ない。

だが中層入口付近の魔物を狩るだけならそれで十分だった。


俺はリリアの差す方に向かって駆ける。

バテたら回復してもらえばいい。


「2匹か……」


水溜まりのすぐ側に、プレデギンが2匹蠢いている。

突っ込めば、間違いなく同時に相手をする事になるだろ。


「どうします?何だったら結界魔法で分断しましょうか?」


「いや、大丈夫だ。ただ万一の時は回復を頼む」


「了解しましたー」


さっきの感じなら、2匹同時でも問題はないだろう。

そう判断して突っ込む。


当然戦い方はさっきと同じだ。

密着して剣を振りまくる。


横からもう一匹の攻撃も飛んでくるが、無視して剣を振るい、まず一匹目を始末。

そのまま2匹目に取り掛かり、そちらも問題なく始末する。


「マスター。レベルアップおめでとうございますー」


リリアが手を叩きながら近づいてくる。

2匹目を倒した時点でレベルアップしたのだが、どうやら彼女にもそれが分かる様だった。

まあ間違いなくエンゲージとやらの効果だろう。


「この調子でバンバンやっちゃいましょう」


「おう」


「マスターがいつまでも低レベル冒険者のままというのは、私の体裁が悪いですし。頑張ってくださいねぇ」


何故いらない一言をつける?

まあ考えても仕方がないか。


この日、俺は50匹のプレデギンを狩る事が出来た。

取得経験値は5万の100倍で500万だ。

これは最初の目標だった数字に相当する。


それをたったの1日。

口は悪いが、リリアの優秀さは疑いようがない。

フィーナには感謝の気持ちでいっぱいだ。


現在の総経験値:946万

レベル:36

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