第19話 目的

「エンゲージ完了ですわ。マスター」


リリアは俺から口を外し、そう告げる。

明らかに俺の何かを吸い出された様な感覚。

魔法的な何かなのだろう。


しかし……これってファーストキスにはならないよな?


相手はマジックアイテムなので、スプーンに口をつけた的な物としてノーカンと考えるのが妥当だ。

というかそう考えないとやってられん。

初恋の相手を模した人形がファーストキスの相手とかやばすぎるからな。


「レベル28……平凡な冒険者と言った所ですねぇ。特殊なスキルがなかったら完全に……まあ愚痴っても仕方ありませんか」


リリアはやれやれと言った風に顔を横に振る。

どうやらエンゲージした事で、彼女には俺の能力が見えた様だ。


……完全の後にいったい何を言おうとしたかは追及すまい。


「思っていたのとは少し違ったが……まあ仲良くやってくれ」


「……頑張ります」


レアに苦笑いで言われて、俺も苦笑いで返す。

彼女もこんなに口が悪いとは流石に思っていなかったのだろう。


「そうそう。頑張ってくださいよ。マスター」


フィーナの子供の頃の姿まんまだというのに、口のせいで全く可愛らしく感じないから困る。

言葉遣いというのは大事だ。


まあだがそれでよかったのかもしれない。

少なくとも、ヒロイン・ドールがこの性格なら依存してしまう心配はないだろう


案外フィーナもそれを狙ってこんな性格にしたのかも……って、流石に違うか。


ま、考えても仕方がない。

答えを唯一知る女性は、もうこの世にはいないのだから


「所で、レアさんはしばらくこの街に滞在されるんですか?」


俺に遺品を届けに来てくれたわけだが、しばらく滞在する様なら、お礼ではない俺が街中を案内しようと思う。


「いや、明日朝一番で王都に帰ろうと思っている」


「助けて貰ったお礼に案内でもしようと思ってたんですが、残念です」


「気を遣って貰って悪いが、私は一刻も早くダンジョン探索に戻りたいんだ」


「ダンジョン探索?」


レアの所属するパーティー、女神の天秤は少し前に壊滅してしまっている。

既に新しいパーティーを組んでいるという事だろうか?

まあ彼女ほどの腕前なら、引く手数多だろうからそれ程不思議な事ではないが。


「ああ。目的を果たすために……私はソロでダンジョン踏破を目指している」


「ソロ……ですか?」


ソロと聞いて、思わず聞き返す。

一瞬聞き間違いかと思ったからだ。


「ああ、ソロだ」


だが聞き間違いではなかった。

彼女はハッキリと力強く、単独だと答える。


「私はソロでダンジョン踏破を目指す」


「……」


単独での探索は、リスクがとんでもなく高い。

彼女程の冒険者がそれを知らない訳もないだろう。


そんな状態でダンジョン踏破を目指す。

それは正気の沙汰とは言えない、まさに自殺行為に等しい行動だった。


どうやら彼女には……何らかの事情がある様だ。

出なければ、そんな無謀は行わないだろう。


「失礼ですけど。事情を聞かせて貰ってもいいですか?」


ハッキリ言ってしまえば、俺には関わりのない事だった。

そんな俺が込み入った事を聞くのは、失礼だとは思う。

だがどうしても気になって、思わず聞いてしまった。


「あらあら。人様の事情に首を突っ込むなだんて。本当に失礼な話ですよぉ。マスター」


リリアが茶化して来るが、俺は無視してレアを真っすぐに見つめる。

無理に聞き出そうとはもちろん思ってはいない――そんな権限もなければ、話術もないしな。

話してくれない様なら素直に諦めるつもりだ。


「……貴方には、話すべきではない事だ」


暫く沈黙が続き、彼女が小さく溜息をついて口を開いた。


「だが……そうだな……私の目的を話そう」


迷いが見える途切れがちな言葉。

だが、レアは覚悟を決めた様に俺を真っすぐに見つめる。


そして彼女は口にする。

信じられない言葉を。


「私は……ダンジョンを踏破して、フィーナ達を生き返らせるつもりだ」

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