第17話 後悔

「フィーナ……」


いや……違う。

確かに顔は彼女その物だ。

だがありえない。


何故なら彼女は俺より一つ上で、21歳だ。

棺に納められている少女はどう見ても11-2歳程度にしか見えない。


成人した彼女が、こんなに幼いはずがなかった。

年齢が違いすぎる。


「彼女は……」


聖少女人形ヒロイン・ドールだ」


聖少女人形ヒロイン・ドール!?」


聖少女人形ヒロイン・ドール

それは教会で使われている、人型をした自立型のマジックアイテムの名だ。

防御や回復等の能力に優れ、宝物庫の警備等に使われているとフィーナから聞いている。


しかし……人間みたいだと彼女から聞いてはいたが、見たいどころか、その姿はもはや完全に人間そのものだ。

レアさんから言われなければ絶対にわからなかっただろう。


「初めて見ました。まるで本物の人間みたいなんですね」


「他の物はもう少し人形っぽいんだが、これは特別製だからな」


「フィーナそっくりだ……」


「意図的に自分の幼い頃に似せてあるそうだ。アドルは一人じゃない。いつでも自分が側にいる。仲間に裏切られた貴方に、そう思って貰うために……1年かけてフィーナが作った物だ」


「そんな……ふうに……」


「本当はフィーナ自身が貴方の側にいたかったはず。けど、私達には彼女の力が必要だった。だからせめて自分の代わりにと……彼女は」


……

…………


「ぐっ……うっ……」


胸が苦しい。

居ても立ってもいられない様な感情に、胸が搔きむしられる。


俺は――


フィーナは最強パーティーである女神の天秤に入り、俺は只の一冒険者。

心のどこかで、彼女と自分は住む世界が違うと考えていた。

だから手紙のやり取りこそ続けてはいたが、彼女の事は出来るだけ考えない様にしてきた。


彼女だってきっと、なんとなく文通を続けていたに過ぎない。

そんな風に思っていた。


けど違う……フィーナは本気で俺の事を心配して、こんなにも俺の事を思ってくれていたんだ。


そう思うと……胸が苦しくて……


「今度は、私の番だな」


急に頭を抱えられる。

レアだ。

驚いて顔を上げようとするが――


「泣きたい時は泣けばいい」


力尽くでぐっと頭を抑え込まれた。


「俺は……俺は……」


フィーナが死んだと知らされた時、ショックではあったが涙は出てこなかった。

9年も会っていなかったから……きっと心のどこかで、自分とは住む世界の違う人間だと思い込んでいたんだ。

だから仕方がない事だと割り切れた。


けど……そうじゃなかった……


「ぐっ……うぅ……うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


言葉にならない後悔の念が渦巻く。


何で俺はフィーナに会いに行かなかったのだろうか。


大きく差がついてしまったから?


そんな詰まらないプライドなんか捨てて、会いに行けばよかったんだ。


一緒に冒険をしよう。


断られる事など恐れずその一言が言えていたなら、彼女の運命は変わっていたかもしれない。


俺は……


俺は……


彼女がずっと好きだったのに……


「うぅっぐ……あああああああああぁぁぁぁぁ!!」


だがもう、彼女はいない。


自分の意気地の無さが情けなくて。


悔しくて。


唯々声を上げて泣く事しかできない。


フィーナ……

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