第10話 幼馴染

俺には、小さい頃からよく一緒に遊んでいた幼馴染がいた。

彼女の名はフィーナ。

俺より一つ年上で、いつも彼女は俺にお姉さん風を吹かせていた。


そんな彼女と最後に顔を合わせたのは、もう9年も前の話になる。


9年前……フィーナが12歳で俺が11歳の時、教会から遣いの人間が彼女の元へとやって来た。

フィーナには特殊なユニークスキルと、生まれつき高い魔力が備わっていたからだ。


それに目を付けた教会は彼女を引き取る。

聖女候補として育てるために。


最初は手放す事を嫌がっていたフィーナの両親も、世界のためだなどと言いくるめられ、最終的には大金と引き換えに彼女を手放している。

それ以来9年間、彼女とは会えていない。


結局、フィーナは聖女にはなれなかった訳だが……


その後彼女は教会からの指示で、女神の天秤にパーティーメンバーとして出向させられていた。


人類初のダンジョン完全踏破。

その肩書に、教会が寄与するという形を作るために。


「アドルは冒険者になるの?だったら私も一緒になってあげる。神聖魔法を覚えて、貴方の怪我を私が治してあげるわ」


そんな事を、笑いながら言っていたフィーナの顔を思い出す。


だが、彼女はもういない。


女神の天秤は全滅こそしなかった物の、生存者はたったの3名。

その中にフィーナの名前はなかった。


「もう……彼女からの手紙はこないのか……」


この9年間。

細々ながら彼女とは手紙でやり取りをしていた。

お互い冒険者としての活動が忙しいのもあって、今では月一程度だったが。


……もうその手紙が届く事はない。


「まあお互い冒険者だし、仕方がない事……だよな」


冒険者というのは危険な職業だ。

いつ命を落としてもおかしくはない。

だから、仕方がない事ではあった。


だが……やはりショックは隠せない。

俺と違って、彼女は王国最強パーティーに所属していたのだ。

同じ冒険者でも条件がまるで違う。


俺が死ぬ事はあっても、彼女が命を落とすなんて考えもしなかった。


「死ねば星になるんだっけか……」


昔、何処かで誰かに聞いた事のある与太話だ。

御伽噺に近い夢物語。

だがもし本当なら、フィーナは夜空の星となって俺の事を見てくれているのだろうか?


そう思い、小高い丘に寝転がって星空を眺めた。


ゲンリュウ達の飲み会からは、早々に抜けさせて貰っている。

フィーナの話を聞いて、とても参加する気分にはなれなかったからだ。

そして一人になりたくて、街のすぐ傍にある丘へとやって来た。


ここは子供のころ、よく親の目を盗んで彼女とやって来た場所だ。


「フィーナ。聞いてくれよ。経験値ポーション、ちゃんと手に入ったぜ。しかも二つも。お陰で経験値が100倍でソロも楽勝だ」


パーティーを首になった時、彼女は手紙で俺の事を酷く心配してくれていた。

一人でやっていけるのかと。


だけど大丈夫だ。

俺は一人でもやっていける。


「よっと」


俺は勢いよく起き上がる。

そして夜空に向かって――


「だから見ててくれよな!絶対一流の冒険者になって!俺は周りの奴らを見返すぜ!」


俺は星空に向かって強く宣言する。


もう2度と会う事のない幼馴染に向かって。

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