第9話 賭け
ゲンリュウに連れていかれた店は、外観からして高級そうな雰囲気が漂っている。
内装もかなり凝った造り――金がかかってそう――で、全室個室になっていた。
如何にも秘密厳守の商人や、貴族が使ってそうな店だ。
「ここだ」
ゲンリュウに連れられての個室に入ると、彼とと同世代の人物がすでに待ち構えていた。
全員ずっと以前に引退したとは思えないぐらい、良く絞られた体つきをしている。
「おう!ゲンリュウから聞いたぜ!経験値アップポーションを手に入れたんだってな!」
「ええ、まあ」
目の前の大男が、挨拶もなくいきなりぶっこんでくる。
まあ別にいいけど。
「よし!じゃあ確認だ」
「どれどれ」
席に座っていた5人は立ち上がり、一斉に俺に群がって来る。
どんやら相当興味津々な様だ。
まあ伝説級のアイテムな訳だから、当然と言えば当然の反応なのかもしれないが……
でも正直ちょっとうざい。
「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい!!なんだよレベル2って!100倍とかまじか!?どうなってんだ!!?」
「2個出たんで、2個目を使ったら効果が上がりました」
問われて素直に答える。
嘘をついても仕方がない。
「マジかよ!よく自分に2つも使う気になったな!おい!」
「ギャンブラーだな。嫌いじゃないぜ。冒険者はそうじゃなくっちゃな」
「ははは!確かにな!まともな神経してる様な奴は冒険者にゃむいてねぇわ!」
大馬鹿呼ばわりされるかと思ったが、意外と好評な様だ。
まあ運よく効果が倍増したからこその評価ではあるだろうが。
「ギャーギャー騒ぎ過ぎ。周りにまで声が響いてるわよ」
室内でゲンリュウの旧友達が騒いでいると、個室の外から急に声をかけられ俺は振り返る。
そこには美しい女性が立っていた。
年の頃は40歳くらいだろうか?
胸元の大きく開いたドレスに、きれいな黒髪をアップしている。
如何にも貴族のマダムといった雰囲気の女性だ。
「ピアカスおせぇぞ!お前もいいから鑑定してみろ!」
きやすく話しかけているところを見ると、どうやら彼女もゲンリュウさんの知り合いの様だ。
だが冒険者にはまるで見えない。
そもそも年齢が離れている様に見えるので。元仲間の娘さんか何かだろう。
「貴方達が鑑定しているんだから、私がわざわざする必要はないでしょ?」
ピアカスさんは個室に入ってドアを閉める。
ドアの内側には魔法陣が刻まれていた。
恐らく、外部に音を漏らさないようにする為の物だろうと思われる。
「よし、全員揃ったな。じゃあもう皆分かってるとは思うが、賭けは俺とバーガンの勝ちだ!」
「おおおおおおぉぉぉぉぉ!!」
ゲンリュウの宣言に、小柄ではあるが、引き締められた体つきの男が雄叫びを上げる。
どうやらこの場に集まっている7人のうち、5人は出ないと賭けていた様だ。
まあ500年前に1度出たきりのアイテムだからな。
本当にドロップするかも怪しい物の出る方に賭けるのは、そりゃ少数になるだろう。
むしろ、よく2人も出る方に賭けていたものだと感心するぐらいだ。
「くっそー、絶対5年はかかると思ってたんだけどなぁ」
「俺も2年にしとけばよかったぜ!」
「1年はねぇわな。1年は」
「はははは、確かに賭けは最短で2年だったからな!まあだが一番近いのは俺達だ!諦めろ」
なんか雰囲気を見ていると、全員出る方に賭けていたように見える。
「ああ、言っておくけど。全員出る方に賭けてるぜ。賭けの対象は何年かかかるかって話だ」
俺の表情から考えを察したのか、ゲンリュウが補足してくれる。
どうやらアイテムのドロップ自体は皆疑っていなかった様だ。
流石冒険者といった所か。
「私は出ない方に賭けていたわよ。絶対に途中で断念すると思っていたから」
運よく1年で出てくれはしたが、何年か狩って出ない様なら諦めるつもりでいた。
ドロップ率を考えるなら、彼女の言う様に諦める可能性が実は一番高かっただろう。
「そういや、ピアカスが最後なんて珍しいな。いつもは時間きっちりに来るから1番乗りが殆どだってのに」
時間通りで一番乗り……どうやらここに集まっているメンツは時間にルーズの様だ。
これもまた冒険者らしいと言えばらしいか。
「出かける前に、大きな報告が入って来たからよ」
「大きな報告?」
「ええ。女神の天秤が王都北の
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女神の天秤が壊滅したと聞き、その場にいた全員が固まる。
女神の天秤は王国最強のパーティーだ。
ダンジョン深層にまで達する彼らの平均レベルは、100を軽く超えていると言われている。
下手をしたら王国どころか、大陸最強のパーティーだ。
そして――そこは俺の幼馴染が所属するパーティーでもあった。
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