第7話 オーク

オーク。


それは豚面をした人型の魔物だ。

その体格は人間を二回りほど大きくしたサイズで、かなり太った体格をしている。

そのためぱっと見は鈍重そうに見えるが、実際はそんな事はない。


脂肪のたっぷりついた体で軽快に動き回り、手にした大型のこん棒で岩をも容易く砕く厄介な魔物だ。


「ちっ!」


オークのこん棒をギリギリで躱し、手にした剣でその腹部を深く切り裂いた。

だが相手は止まらない。

分厚い脂肪に守られているせいで、致命傷には至らなかった様だ。


「ぎゅああああぁぁっぁ!!」


「これならどうだ!」


オークが雄叫びと共に、手にしたこん棒を振り下ろす。

俺はそれを後ろに飛んで躱し、腰の革袋から素早くクラッシュボムを取り出し奴の顔面に投げつけた。


「ぐぅえあ!!」


爆発でオークが目を瞑り、顔が仰け反らせた。

俺はその隙をついて突っ込み、力いっぱいジャンプする。

そして視界が戻っていないオークの首元目掛け、剣を縦に突き立てた。


全体重をかけたその一撃は、オークの首元から体内深くへ剣の刀身をめり込ませる。

流石にこれには耐えられなかったらしく、オークは断末魔を上げる事無く消滅した。


「きっつ……」


オークの経験値は30とかなり高い――俺の場合100倍なので3000。

だがレベル8の俺の力だと、一匹倒すのにもこの通り一苦労だ。


「パワー不足を痛感させられるな。武器を買い替えた方がいいか……」


手にしているのは、鉄製のどこにでもある在り来たりな剣だった。

防具は鉄製のチェインシャツに胸当て、手足には革製のガードをつけている。

装備としてはかなり安上がりな軽装備といっていい。


こんなに装備がしょぼいのは、クラッシュボムを大量に購入するためだった。


範囲狩りをメインに据える予定だったので、資金の大半を消耗品に回すつもりで装備の方を安物で済ませたのだ。

その結果、通常の狩りがかなりきつくなってしまった。


もし剣がミスリル製の鋭い物だったなら、腹部への一撃の時点でオークはたぶん倒せていただろう。


「まあミスリル装備は無理にしても、流石にもう少しいい武器を使わないと。このままだと範囲狩り以外がきつすぎるな。素直に買い替えるか」


ドロップ品――レアドロップの鉄鉱石――を拾い、俺はダンジョンの出口へと向かう。

今日は道中のスライム3匹と、オーク1匹だけしか狩れていないがしょうがない。

このまま狩りを続けるのはきつすぎるからな。


まあもうワンランク敵の強さを下げてもいいのだが……


「コボルドは面倒くさいからなぁ」


コボルド。

それは2足歩行の犬の魔物だ。

ゴブリン程ではないにしろ、魔物としてはかなり弱い。


但しかなり鬱陶しい動きをして来る。

奴らは腰に石の詰まったポシェットを携帯しており、此方には近づかず、ひたすら投石してくるという戦法を取る。

しかも近づくと素早く間合いを離そうとするので、とにかく倒すのが面倒くさい相手だった。


パーティーなら盾役が飛んでくる石を止め魔法や弓で倒すのだが、ソロの俺はひたすら追いかけて切り殺すしか術がない。

集めたりも出来ないのでクラッシュボムを投げるのも論外だし、貰える経験値もたったの5だ。


正直、効率が悪すぎてコボルド狩りはやってられんというのが本音だ。


因みに、俺は回復や補助系の魔法を最低限扱う事は出来るが、攻撃魔法の方はからっきしだった。

何故なら、以前は戦闘には参加しないポジションだったからだ。


「先の事を考えると、攻撃魔法も覚えた方が良いんだよなぁ」


余程熟達した人間でなければ、戦いながら魔法を唱えるのは不可能だ――もちろん俺は無理。

だが先制攻撃になら使える。

そう考えると、覚えておいて損はないだろう。


とは言え、魔法を習得するには時間がかかる。

発動させるための魔法陣を複数丸暗記する必要があるからだ。

そのため、数日程度での習得は難しい。


「ま、魔法の事は後回しだな」


本日の収支。

経験値3300。


資金の方は――ポーション(100ボルダ)×3と、オークの落とした鉄鉱石(350ボルダ)×1で650ボルダだ。

ただしクラッシュボムを使ってしまったので、その分マイナス1000と考えると、実質350ボルダのマイナスになる。


かなりしょぼい結果だが、まあ仕方がない。

取り合えず武器を新調して明日出直す事にしよう。

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