第6話 範囲狩り

緑の小鬼ゴブリンとは、緑色の肌をした人に近い形をした魔物である。

ただしそのサイズは小さく、人間の子供ほどしかない。

また顏も醜悪な造りをしているため、間違っても人間と見間違えることはないだろう。


「5匹か……」


これから行うのは、範囲狩りと呼ばれる物だった。

何らかの手段で敵をかき集め、範囲攻撃で敵を殲滅する狩り方になる。

この方法はパーティーに新人の魔法使いなどが入って来た時に、高速パワーレベリングとして行われる事が多い。


ダンジョン内で魔物を狩った際の経験値配分は、一定以上ダメージを与えた者達で均等割りされる。

そのため、攻撃しない者には一切経験値が入らない用になっていた。


パワーレベリングはその性質を利用し、他のメンバーが防御に徹する事で魔法使いに丸々経験値を入れるという高速育成方法だ。

狙う敵は魔法使いの範囲魔法1‐2発で狩れる程度の低位の魔物に限定されてしまうが、数を集めて狩るので結構な経験値効率を叩き出す事が出来た。


「普通は一人でやるもんじゃないんだがな……」


通常は強い前衛が魔物をかき集めて狭い通路等に誘き出し、周りのサポートを受けた魔法使いが範囲魔法で殲滅するのが基本だ。


だがソロである俺は、引きと殲滅、その両方を一人で行う必要があった。


そしてそのためのこれ――クラッシュボムだ。


威力は確かに低いが、流石にゴブリンくらい貧弱なモンスターなら数発投げれば殲滅出来る程度の火力はある。

これを使って俺は範囲狩りするつもりだ。


単独な上に、俺もそこまでレベルが高い訳ではないのでかなりリスキーな狩りにはなるだろう。


だが短期間でレベルを上げるのなら、これは避けては通れない道だった。

まあ万一の保険として、超高級ポーション――1個10万ボルダ――をいくつか用意してあるので、余程無理をしなければ命を落とす心配はないと思うが。


「さて、赤字狩りを始めるとしよう」


俺は足元に転がっている石ころを拾い上げる。


ゴブリンが落とすのは薬草、レアで解毒ポーションになる。

解毒ポーションは50ボルダ前後でしか売れないので、収支的にはスライム以下だ。

そのため、1個1000ボルダのクラッシュボムを投げまくるこの狩りは大赤字確定だった。


普通なら絶対にやらないアホな狩り方と言っていいだろう。

以前の稼ぎと、これからのレアドロップ確定があるからこそできるお馬鹿狩りだ。


因みに、超レアドロップは何が落ちるのかは分かっていない。

ギルドへの報告が今までに一度もないためだ。

ひょっとしたらスライムは特殊な例で、超レア自体存在していない可能性も高いので、超レアは期待はしない方がいいだろう。


「おら!」


手にした石を、ゴブリンの一匹に投げつけた。

それは綺麗に頭にぶつかり「ぎぃぃぃ!!」とゴブリンは痛みに奇声を上げる。

瞬間、残りのゴブリン達が一斉に俺を見た。


「へっ!ばーか!」


俺は軽くお尻を叩いて挑発してから、その場を駆け出した。


ゴブリンは仲間意識が強い。

そのため、仲間が攻撃されると集団で襲ってくる性質がある。

更に、その叫び声には仲間を引き寄せる効果もあった。


俺はこいつらを引きずり回し、数を集めるつもりだ。


短い草の生えた場所を大きくジグザグに大きく蛇行する。

より多くの敵を引き寄せつつ、足の遅いゴブリンが脱落しない様にするための動きだ。

先頭を走る足の速い奴は大回りし、後方の奴らは小回りで追いかける事になるので取りこぼしが少なくて済む。


「よし!順調に増えてるな!」


チラリと背後を確認すると、ゴブリンの姿は20匹近くにまで増えていた。

ダンジョン内は明るいので、ハッキリとそれが確認できる。


勘違いしない様に言っておくが、通常ダンジョンは真っ暗闇だ。

俺も普段は周囲を照らす魔法を使っている。

だが極一部のエリアでは、天井がなく日の光が差して来るような場所があった。


ゴブリン達の生息域がまさにそれに当たる。


それは俺が範囲狩りにゴブリンを選んだ理由の一つでもあった。

魔法の明かりだと、遠くまで見通す光は生み出せない――あくまでも“俺は〟の話ではあるが。

そうなると、敵の数が正確に把握できないのだ。


追ってくる敵の数が確認出来ない状態でソロでの範囲狩りなど、怖すぎてとてもする気にはなれないからな。


「まあ……こんなもんか」


ゴブリンの数は30を超えている。

いくら弱いとはいえ、余り数を増し過ぎると対処できなくなってしまう可能性もあるので程々にしておく。


しょせん俺も低レベルだからな。


「食らえ!」


腰の革袋からクラッシュボムを取り出し、振り返ると同時にそれをゴブリンの集団に投げつけた。

それは先頭のゴブリンに当たると、爆発して周囲のゴブリン達を吹き飛ばす。


クラッシュボムの攻撃範囲は広い。

だが起爆点から離れるほどその威力は低くなる。

そのため10匹近く吹き飛んではいるが、恐らく今の一撃で倒せたゴブリンはほんの数匹程度だろう。


「もう一発!」


驚いて足を止めた奴らのど真ん中に、再びクラッシュボムを投げつけた。

今度は出来るだけ多くの数を巻き込む様に狙って、かつ連続で。


「おらおらおらおら!」


6発投げた所で、ゴブリンの残りは3匹になる。

しかも立っているのがやっとのボロボロの状態だ。

こいつらに、もうアイテムを使う必要はないだろう。


俺は腰から剣を抜いて、素早く弱っているゴブリン達を始末する。


「32匹。これで9600か。かなり旨いな」


ゴブリンの経験値は3だ。

本来なら32匹で96しか入らないところだが、スキルの効果で経験値は9600にまで増えている。


「まあ出費を気にしなければ……だけど」


30匹を処理するのに必要なクラッシュボムの数は6発。

出費は6000ボルダ。

そしてアイテムは解毒ポーションが32個――1600ボルダだ。


つまり、1度の収支で-4400ボルダの赤字が出るという事になる。


目標経験値が500万である事を考えると、範囲狩りの必要回数は500回。

その際の総収支はなんと、-220万ボルダだ。

勿論そんな金はない。


いや、ギリギリ足りなくはなくはないんだが、30までにほぼ使い切るとかは流石に論外だった。

そんな事をすると、その先の狩りがきつくなってしまう。

まあどちらにせよ、ゴブリン範囲狩りだけで年内に経験値500万も稼ぐのは無理なんだけどな。


何故なら、魔物が尽きるから。


魔物がどの程度のぺースで自然発生するかまでは分からないが、ある程度狩りつくしたら、数が元に戻るまでにはそこそこ時間がかかるのは間違いなかった。

だから俺はこの範囲狩りを、週にいっぺん程度のペースでやっていくつもりだ。

勿論、その合間は別の魔物を狩る事になる。


「ま、とにかく続きをするか」


ドロップ品を素早く拾い集め、俺は再び範囲狩りに戻った。

この日の収支は8セットで経験値約8万程だ。


狩りの最中、2つ上がって俺のレベルは8になっている。

まあ上々の滑り出しと言っていいだろう。

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