第2話 スライム狩り

この世界には、魔物と呼ばれる生物が存在していた。


魔物は区分すると、大きく二つに分かる。

ダンジョンに存在する物と、それ以外とだ。

ただし魔物と一括りにされてこそいるが、明らかにその生態には大きな差異がある。


外で生活している魔物は、動物に限りなく近しい生態だった。

違いと言えば魔力を持っているかいないかぐらいであり、普通に繁殖してその生態系を維持している。


逆にダンジョン内の魔物は、明らかに他の生物とは一線を画していた。


そもそも彼らは死体を残さない。

死ねば魔石と呼ばれるエネルギーの塊や、ドロップ品と呼ばれるアイテムへと姿を変える――魔石やドロップ品は、何が落ちるかは運次第。


更にその幼体や卵などは見つかっておらず。

繁殖せず自然発生しているというのが、ダンジョン内の魔物に対する通説となっていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「46匹目!」


粘液上の青い魔物が俺にとびかかって来る。

それはスライムと呼ばれる魔物だった。

スライムはダンジョンの最も浅い階層に生息し、頑張れば子供でも狩れるぐらいに弱い存在である。


最弱の魔物と言って間違いないだろう。


流石の俺も、これに負ける心配はない。

逆に万が一でもこれに負ける様なら、冒険者は絶対にやめておいた方がいいだろう。


「はっ!」


俺は剣を軽く振り、スライムを切り裂いた。

真っ二つになったそれは消滅し、液体の入った瓶へと姿を変える。


「46連続ポーションか……やっぱそう簡単には出てくれないよな」


スライムのドロップ品は、魔石を除けば3種類に分かれる。


通常ドロップの薬草。

レアドロップのポーション。

そして、超レアドロップである経験値アップポーションである。


薬草の売値は1ボルダで固定だ。

安宿への宿泊が20ボルダと考えると、儲けとしてはかなりしょぼいと言っていい。

魔石もドロップするとはいえ、大半のドロップがこれである以上、スライムを狩って生計を立てる酔狂な冒険者はいない。


次にレアドロップのポーションだ。

これの売値は100ボルダ前後になっている。

ある程度状況次第で値段は上下するが、まあ概ね安宿5泊分の価格と思っていい。

レアのドロップ率は1%程度と言われているため、価格はレアリティ相当と言った所だ。


因みに俺の幸運の効果だが、1段階目ならレアのドロップ率は20%程度で、2段階目だと100%になる。

そのため、その気になれば俺はスライムだけを狩り続けて生計を立てる事も余裕だった。


まあかつての仲間達を見返すという目的があるので、そんな真似はしないが。


そして最後の超レアドロップだが。

実はダンジョンが発生して以来、この500年で未だに1度しか出ていないと言われている程のレアアイテムだったりする。

そのドロップ率は限りなく0に近いと言っていいだろう。


だがその効果は凄まじく。

摂取した者の取得経験値を10倍にするスキルが習得出来ると言われている。


俺の狙いはこれだった。

普通に冒険者をしていたのではいくら【幸運】の効果があっても、単独でかつてのパーティーメンバーを見返す事は難しい……いや、この際ハッキリいってしまえば不可能だ。


それぐらい、ダンジョン内での単独行動というのは厳しい物だった。


その状況下で、唯一俺が逆転できる可能性。

それが経験値アップポーションの存在だ。

これを手に入れて、レベルを大幅に上げる事で俺は大逆転を目指す。


「気長にやるしかないか」


いくら【幸運】があっても、500年も出ていない物を入手するのは至難の業だ。

だが可能性がそれしかない以上、そこに挑むしかないだろう。

幸い、他の冒険者達とは違いレアドロップ以上が確定しているので、食うには困らなかった。


とは言え、そんな真似を一生続ける事は出来ない。


【幸運】によってドロップ強化されているこの条件下で何年か狩って、経験値アップポーションが手に入れられなかったのなら、その時は素直に諦めるとしよう。

見返したいとは思うが、流石に生涯をそれのみに費やす気にはなれないからな。


「取り合えず……今は狩って狩って狩りまくってやるだけだ!」


この後、俺は延々スライムを狩り続ける事となる。

そのせいで他の冒険者連中からはスライムバスターなる蔑称べっしょうで呼ばれてしまう様になるが、そんな事は全く気にも留めず俺はスライムを狩り続けた。


何故なら俺には目的があるからだ。


そしてスライムを狩り続けて1年――

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