SCP-■■■■-JP(報告書)

SCP-■■■■-JP 人たらし


アイテム番号: SCP-■■■■-JP


オブジェクトクラス: Euclid


特別収容プロトコル: SCP-■■■■-JPは7m×15m以上の、十分に家具や生活用品の揃えられた大きな部屋で収容してください。また、十分な量の書籍、学習用品、インターネット環境、教育機会を与え、SCP-■■■■-JPが最低限の教養を得られるように留意してください。風呂、トイレ、キッチンなどの必要な設備は収容室内に併設するようにしてください。医療設備や運動場などはいつでも利用できるように環境を整えてください。


SCP-■■■■-JPと直接的な接触を行う場合、必ず指定のバイザーを装着して目を覆うようにしてください。また、不要な身体的接触は控えるよう十分注意してください。やむを得ずSCP-■■■■-JPと16時間以上の直接的かつ継続的な接触を行った場合は、速やかにBクラス以下の適切な記憶処理を行ってください。


全ての職員・研究員は収容室内にSCP-■■■■-JPへのプレゼント等を持ち込むことが許可されていますが、武器や毒物、その他違法なものを持ち込むことは禁止されています。刃物類に関しては、刃渡り21cm以下であり、なおかつ調理用と明確に示されているもののみ持ち込むことが可能です。




説明: SCP-■■■■-JPは[編集済]年現在19歳の、小柄な日本人男性です。研究員によって「佐藤晴」と名付けられており、その名前をSCP-■■■■-JP本人は自分の名前として認識しています。見た目や振る舞いは少し幼い印象を与えますが、精神発達では平均を多少上回るようです。また、身体能力に関しては平均以下であり、特筆すべき攻撃性などもなく、職員の指示に対する著しい反抗は今のところ確認されていません。SCP-■■■■-JPはその特性上、人とのつながりを求める傾向にあり、3日間以上人間との一切の接触を断つと、常同行動の回数が顕著に増加することが報告されています。


SCP-■■■■-JPは、他の人間となんらかの共通点を持つことによって、人間と関わりを持ちます。全てではないものの、20歳以上の人間がSCP-■■■■-JPと一対一で直接・間接的な累計24時間以上の接触を持つと、それ以降SCP-■■■■-JPとの関係が急速に親密なものになることが確認されています。SCP-■■■■-JPと一定のレベルを超えて親密な関係になったと認められた一般人及び研究員はこれまでに7名確認されており、個人差はありますが、そのいずれも比較的短期間のうちに死亡しています。なお、SCP-■■■■-JP は6人目の死亡者が確認された後にサイト[編集済み]に収容されました。

また、Dクラス職員をSCP-■■■■-JPに接触させる実験が過去に13回行われていますが、そのいずれも一定のレベルを超えた親密な関係には至らず、SCP-■■■■-JPが自発的に接触を試みた対象にしかこの異常性は働かないのではないか、という推論が立てられており、これは現在調査・実験中です。






補遺: 奥原颯人Cクラス研究員の手記

 私には、彼がなんの異常性も持たないただの少年に見えて仕方がない。人より少し人懐っこくて好かれやすい傾向にあるが、SCP-■■■■-JPとしてオブジェクト扱いを受けるほどの異常性であるとは思えないのだ。

 私は彼にハルという名前を与え、一般人と共に学校へ通う機会も二度与えたが、彼は決して反抗などはせず、こちらの計らいをすんなりと受け入れてくれた。端的に言えば、いい子だ。中学2年の夏ごろに彼のクラスメイトが自殺した事件が、彼自身の異常性によるものなのか、それともその他の要因による偶然なのか、ということについての検証が長引いたため高校には通わせてやれなかったが、この春から大学に通わせてやることもできた。

 私にはひそかな野望がある。それは、ハルの「異常性」が全く異常でないことを証明し、彼を一般の社会に戻すことだ。年の離れた弟、というくらいの年齢のハルに情が移っただけなのかもしれない。弟が幼い時に亡くなったという私のちいさな心の隙間に、ハルがぴったりとはまっただけなのかもしれない。しかし、一研究員として、彼はオブジェクトではなく、私たちとなんら変わりない普通の人間である、ということを証明しなければならない。

 彼の異常性はミームによるものだ、という言説をもとに研究が進められているが、仮にミームによる異常性を持っているとしたならば好都合だ。彼がただの一般人であるという証明がミームとして、彼の異常なミームを打ち消してくれるだろう。ミームにはミームをぶつける。財団はオブジェクトの異常性が失われることを良しとしないが、彼は人間なのだ。いくら頑張ったところでいずれは死んでしまう。異常性の永続的な保存などできるはずもない。であれば、一刻も早く彼を異常性から解放してやるというのが論理的かつ合理的な結論だ。


 しかし、証明ができない。そもそもなにを証明すればいいのか。

 「彼は付き合った人間を死亡させるという有意な異常性を持つ人間である」という帰無仮説を立てたとして、それを無に帰すためのサンプル数が稼げない。研究員がDクラス職員を接触させて実験を行うという方法はどうも失敗するらしい。まずそれ以前に、「実験の結果ハルの異常性のせいで人が死にました」なんてことを彼の身に起こしかねない実験は、そもそも非人道的だ。彼を解放するために無用なトラウマを植え付けること自体がありえない。

 とはいえ、なにかしらの科学的、統計的な証明を与えなければ彼は永遠に「異常性を有するオブジェクト」として扱われるわけで、サンプルを取らないというのもまたありえない話になってしまう。たったひとつ言えることは「彼の『異常性』が異常でないと証明できないことが異常である」ということだ。


 では帰無仮説を無に帰すためには何をサンプルとすればよいのか、と考え、私は接触時間をサンプルとすることにした。「接触した結果この人が生きた/死んだ」という結果をいくつも集めるのではなく、「この人が何時間接触した結果生きた/死んだ」という観点でサンプル数を稼ぐ、ということだ。これなら一名の接触について観察するだけでよい。あとはその一名が死ななければ仮説は無に帰され、ハルもトラウマを負わずに済む。だから、これは一種の賭けだ。

 ではいったいどれだけ生きていればこの対立仮説を真とできる? 一日か? 一週間? 一年? それとも五年、十年、それ以上となるのだろうか。そもそも人間が自然死するまでの時間で足りるのだろうか。

 それはこれから推論を立てて検証していけばよい話だ。彼を解放するために時間が必要になるなら、サンプル採取はなるべく早いほうがいい。しかし、博打に負ければ死ぬ以上、誰か他人にやれとは言えない。それに私は彼に気に入られているようだ。これは、私の使命だ。すっかり弱った母さんと、死んだ弟に、俺は人を救ったんだぞ、って胸を張れるように。


 生きる。一秒でも長く生きることが、彼を普通の人間に戻すための糧になる。だから私は、死ぬまで生きてやる。



 もし万が一にも私が死んだら、その時はハルの眩しい笑顔にたらしこまれた誰かが後を継いでほしい。彼の隣で、生きてくれ。




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未成年 せっか @Sekka_A-0666

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