第5話 モブの俺と、藤崎と(夏祭り後日談)

今回は、小休止的な感じで、藤崎さんに告白したモブの男子のお話です。

やさしい世界。

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「やけ食いか」と頭上から声がして顔を上げる。

目の前に立つそいつは、ハンバーガーが3つものったトレイを持っていた。

「お前だってハンバーガー3つとポテトも買ってんじゃねぇか」と返すと、「足りねぇんだ。育ち盛りだから」と言って、どかっと正面に腰を下ろした。

俺だって足りない。まだ食べられる。

確かにいまは、ちょっぴりやけ食い中だった。



「で?夏休み、藤崎に告白したんだって?」

突然のぶっこみに、飲んでいたコーラを思わず吹き出す。

ただでさえ炭酸は喉に来るってのに、気管支に入って、強烈な刺激に襲われた。

激しく咳き込む。

話の切り出し方が唐突過ぎんだろ。

ジトッと、俺が無言の涙目で訴えたからか、正面のそいつからは「ごめんって。でも今日はそのためのやけ食いだろ?お前を慰めるために今日来たんじゃねぇか」と笑われた。

確かにそうだ。

俺は、夏休みに藤崎結に告白して、振られたばかりなのだった。



夏休み、俺はクラスの奴らと一緒に夏祭りに行った。

そのメンバーのなかには藤崎もいて、予めみんなに頼んで、少しの間ふたりきりにしてもらい、告白する算段だった。

祭囃子が遠くに聞こえる。

俺の心臓の音も聞こえてしまいそうだった。

藤崎を前にして、どんどん鼓動が激しくなっていく。

浴衣姿がめちゃくちゃ綺麗だった。


「俺、藤崎のことが好きなんだ」

ふたりきりになったタイミングで、勇気を出してそう告げた。

びくっと、効果音が付きそうな程にあいつは身体をびくつかせて。

「……ごめんね」

と、申し訳なさそうな顔で謝ったんだ。


そんな顔をさせたかったわけじゃないんだけどな。

胸の奥が、痛くて痛くて堪らなかった。


「俺、藤崎の笑顔が見たかったんだ。俺があいつを笑わせたかった」

「………お前、ちょっと大人になったんじゃねぇの」

「どうだろうな」


ちいさく頭を振る。

俺は全然大人じゃない。

実際、振られたいまも未練はあって、いまもあいつを目で追っている。


だからこそ、気づいてしまった。

たぶん、あいつの好きな人に。


それに初めて気づいた時、正直、おいおい、そっちかよ、と思った。

そう思ったのは一瞬だ。

その人と話す時の藤崎は、幸せそうな笑顔だったから。

俺がさせたかった笑顔だった。


「追加でなんか食べるか?まだなんか食うならおごるぞ」

「あーー……。じゃあ、シェイク頼むわ」

「おっけ」

結構、腹は満たされた。

まだあんまり元気はでないけど、目の前の友達が、俺を元気づけようとしてくれているのは分かる。

こうやって少しずつ、気持ちを切り替えていくのかもしれないな。


でもあいつ、2年のあの美人な先輩かぁ。しかも女。

女同士って、付き合えんのか?

ほんとに、いざとなったら俺がお前の味方になるから、お前はちゃんと、幸せになってくれ。

そもそも付き合ってるのか分からないけど。


モブの俺には、応援することしかできないから。


新学期早々、俺は苦いスタートを切ったのだった。

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ちいさくて賢い藤崎さんと、美人だけが取り柄な宮前先輩 ちりちり @haruk34

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