第159話 聖母のエロス(^^;

そんな理由で、海老名SAの午前0時は

ハードボイルド・ムードが漂っていたりする。





静かな、薄暗い海老名SAのレストランは

深夜なので、一角だけに灯りが付いて

他は真っ暗。


その、非日常感がまたいい。


薄暗い辺りへ。



深夜はセルフなので、食券を買って

カウンター・キッチンに向かい、珈琲の食券を出すと

直ぐに、出てくる。



しかし、作り置きではなく薫り高い、漆黒の熱い珈琲だ。



その香りに、千秋と訪れた北鎌倉の喫茶店を思い出したりもした。

鎌倉ー北鎌倉にはちょっとした丘があって

その丘の辺りに、いくつかプライベート・レストランや

カフェがあったり。



XSのエンジンを静かに抑えて、その辺りをタンデム。



峠越えのような緑深い道を通ると、千秋は「あ、リスがいるよー、ほら、あそこ」

なんて。


XSを止めて、降りて見たりして。



はしゃいでる千秋は、子供のように愛らしかった。




「どこ?」と、俺がヘルメットを取って良く見ると


たかーい梢に、ちょろっ、と・・それらしい物体が見えるくらいで。




近くにあった小さな喫茶店に入ると

クラシックのFM番組が流れていて。


確か、曲は・・・チャイコフスキーの四季、から12月、だったと思う。

ピアノの静かな、どことなくクリスマスを思い浮かべる曲で・・・・。



「ステキ」と、千秋はにこにこ。




・・・・その12月に、ホントに天使になってしまうのだけれども

その時の千秋は天使のように思えた。






・・・・などと、忘れていた事を思い出しても

もう、辛くは無かった。


不思議である。



寧ろ、心の中の千秋にまた逢えて嬉しい、そんな気持でもあった。




千秋そのもの、ではなくて

愛しい気持になれる象徴である。


信仰によくある偶像、天使、聖母、のような。


愛しい存在がひとつあれば、ずっと、それで生きていける・・・・・。







濃い珈琲を、何も入れずに少し味わって


水をのんだり。



ミルクと砂糖を入れるように作られているのかな、と


小さなミルク・ピッチャーから注いで。

大麻樹脂のような、カラメル色のシュガーを入れてみた。



濃厚な味わいに変わる。








オートバイのナイト・ラン。その時にだけ訪れる

素敵な瞬間。








しばらく、そうしていた。




窓の向こうにオートバイの見えるところで。


遠く、ハイウェイを走る車の音が聞こえる、海老名サービス・エリア。



思い出が沢山あるので、思い返すだけでも楽しい時間である。



煙草でも吸っていれば、そうしただろうけど

俺は、普段は持ち歩かないほうで・・・・。



この時も、のどかにただ、珈琲を味わっていた。




ずっとそうしていたかったが、夜が明けてしまうと

神々しいようなそんな時間は過ぎ去ってしまうし



そろそろ、トラックが出始める時刻だから・・・と。


出かける事にした。




「海岸通りならトラックも来ないかな」などと、ふと思う。




でもまあ、海老名に思い出もあったから、ここを通った。



兄が高校に行く頃、横浜の寮に暮らして

家から離れた。



それで、週末の度に

父がクラウンで、迎えに行って

日曜を家で過ごす。



その時、いつも立ち寄るのが海老名SAで。


とても楽しい夜のドライブ、だった。



自分は、横浜、と言うと

順子さんを思い出す景色があるので、それも楽しみだったのだけれども。




「順子さんは聖母、だったのかな」なんて、ふと思ったりしたけど



「まあ・・・そのうち順子さんのスカートの中なんかを想像して

しこしこするんだろうけど(笑)」なんて、俺は微笑んで



「聖母のエロス」なんて、裏ビデオみたいなタイトルを思い浮かべながら。




「さあ、VFを届けちゃわないと」と・・・・。水銀灯の下で、ぼーっと。

白く光っているVF750Fの、メインスタンドを降ろして。



かちゃん


なんて、スタンドがマフラーに当たる音を聞いて。



VFに跨って、キーを入れて右に回した。



かつてのホンダは、伝統的にキーシリンダは横に配置されていて

だいたい、ガソリンタンクの下とか。

水が入るのと、そうすればハーネスが短くて済むから、なのだけれど

VFは、ハンドルの向こうで

普通のバイクになった。


右の、セルスイッチを押す。


しゅる



一瞬でエンジンが掛かる。



ホンダエンジンは流石である






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る