第55話 2004/8/61_1



[タイアのはなし]



昔のオートバイは、みんな前輪の方が大きかった。

で、大抵のバイクはフロントが寝にくくて、無理やりバンクさせる

ようなフィーリング。


で、タイアのグリップも低かったから、パワーのあるバイクだと

大抵はコーナーでリアから滑りだして、普通に乗っていれば

そのままカウンター...となったものだった。





でもRZVは違って、俺のバイクだけじゃなく、

どれに乗っても前輪が軽く、後輪がどっしりと頑固に向きを変えようと

しない。




むりやり滑らせようとしても、雨降りでもなければ容易には滑らない。

その雨降りの日でも、やっぱりパワー掛けるとフロントをアウトに運ぼうとする。



発売当時の、黒田正章氏のインプレでも「当て舵を切っても頑固に向きを変えようとはしない

、ブレーキを掛けたり、リーンアウトで急にアクセルを開けたりしても」とあるから

おそらく、こういうセッティングなのだろう。



もともと、オートバイは皆、前輪がコーナリング中は後輪より外にあるのが普通だ。

で、パワー掛けてゆくと段々後輪のグリップが足りなくなるので、テールが外に出る、

というのが昔のバイクだった。

だから、感覚で乗りこなせるし

落ち着いて乗ればテール出てもバイクがカウンターを切ってくれた。

だが、RZVは....どうなるかというと。



たしか、'87あたりだと思うが、減りの目立つミシュラン・ハイスポートで

俺は冬の伊豆山中を走っていた。


気温も、路面温度も低かったので

前輪の手ごたえも低く、この頃のバイアスタイアは

ただ、固いだけで路面の上を撥ねてゆく感じだった。



舗装が古い、狭い山道のコーナーで

ギアは1速。


シグナル発進で、俺はちょっといたずら心を出して

全開でパワーバンドに入れ、フルブレーキング。


バンクさせて、テールのグリップを超えるパワーをちょい、と掛けてみた。

これは、雨の日にテールを出すような感じのイメージだ、と言えば

ベテランの諸氏はお分かりだろうと思う。




RZVは、いきなりヌル、とテールが出たかと思うと

大きくテールを流した。



放っておくとハイサイド転倒なので、身構えていたから

ひょい、と立ち上がり収束させて事なきを得た、が....


フレームの感触としてはそれほど柔軟な印象はなく、

むしろ収束性の優秀さが印象に残った。



ハイスポートはかなり温度依存性が高かったし、

この時は無理やりパワーを掛け、また低速だったこともあるが

前輪をプッシュするか、と思っていたらリバースしたのは意外だった。




昔からよく言われるように、ショート・ホイールベースのマシンは

限界時の操縦性がクリティカルだ、と言う

定石にこのRZVも嵌っているように思えたこの時の経験だった。





それで、ずっと後、ツーリング・ラジアルたるマカダムを付けたのだが

エンドグリップの高さ、タイアの柔軟性と十分な剛性のバランスを持って

危なげないニュートラル・ステアを得ている。

リアに60プロファイルを入れたので、ハイ・スポートの時のように

リアが下がって若干、穏やかなフロントの挙動になったのも

まあ、気に入っている。

公道を走る程度なら、これで十分だろう。


R1のウルトラパワーや、R6の旋回性を知った自分としては

RZVのハンドリングは時代を感じさせるが

それでも、2ストらしい軽快な乗車感は追随を許さない。


速く走っているような気分になれるのは、R1よりR6より

RZVの方だ、と思う。



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