第19話 FZ400Rがついてきて

日記?1985/5/x



この当時、東名高速御殿場-大井松田間は上下二車線で、今のような

右ルート、左ルートなんて風にはなってなかった。

御殿場からくると、丁度足柄SAを過ぎたあたりから緩い下り坂で

ちょっと楽しい高速ワインディング。とはいっても、180くらい出したところで

なんともないから、すこし物足りないが。

この時の俺も、下りにはいってからはのんびりとツーリング気分で降りていった。

もとより国内仕様、高速域のトルクはあきらか細い。


16インチの前輪に負担がかからぬよう、コーナーにかかると抜重し、

ステアリングをフリーにした。フレディー・スペンサーのようにハンドルを切り、

ステップを蹴り出すアメリカンスタイルのライディングで遊んだりしながらも。

軽く、歌が飛び出すような楽しい時間。

限界を攻めるのもいいが、こういう走りもまあ、悪くないな。

などと言いながら、退屈なので俺はまた、高校生の頃、と思い出していた...




U原くんは、みんなに「ハルク」と呼ばれていた。

プロレスラーに似ているのではなく、その頃人気だったTV「超人ハルク」に眉毛

のあたりが似ている、というワケで。(^^)。

とはいっても超人のようにいきなり怒り出して巨大化することもなく(笑)

ごくごく穏やかでお人よしのU原くんだった。


彼と俺は同じ軽音楽のサークルだったのだが、彼はフォーク、俺はロック、とバンド

が違っててあまり一緒に演奏する事もなかった。

でも、文化祭なんかだと同じステージに登る事もある。

U原くんがサイモン&ガーファンクルなんかを唄っている時、俺達はよく舞台下から

トイレット・ペーパーを投げて彼にぶつけたりしたものだった(^^;

今思うとよく怒らなかったな、と思うのだが、彼は大きな修理工場の息子だったからか、

何事につけおっとりと構えて、およそ怒る、という事もない(だから悪餓鬼どもにからかわれるのだが)

でも、この文化祭の時...

部室でレコード・コンサートをやる事になり、彼はレコードプレーヤーを持ってきた。

テクニクスのSLー1200だ。とても大事にしているらしく、塵ひとつない。

どうしてそんなに大事な物を持ってくる羽目になったか、というと、やっぱり悪がきどもに

役目を押しつけられたのだ。(^^;

それで、U原くんは止せばいいのに愛聴盤のアル・ディ・メオラのLPを持ってきていた。

ひとしきりレコードを掛け終わり、部室はがら空き。


だれかが、リズム・ボックスでビートを打ち始めた。


悪がきのひとりが、にやり、と笑い、U原くんのレコードに手を掛けた...


後は思った通り。当時、流行のヒップホップ大会になってしまい、

レコードスクラッチ(レコードに針を載せ、手でディスクを左右にゆするあれ)

のビートが、部室に響いた。


ベース、ギター、なんかを持ってくる奴が出てきて、もう収拾の付く状況では無い...

(笑)


ノイズの塊。


そこに、ガラリ、と扉が開いて、U原くん帰還(笑)


彼は最初、ぼんやりとして見ていたが...

そのうちに自分のレコードがターンテーブルに乗って、傷だらけになっているのに気付く(笑...)


無言でレコードのキズを力なく指でさする、U原くん...



....スデに、DJ・Warugakiはそこに居ない(笑)


俺達もそろそろ、と逃げ出そうとしたが...



彼は凄い形相でなにかをワメキ、その辺にあるものを俺達に投げつけた(笑)

みんな、楽器をかばってほうほうの体で廊下に逃げ出す....


「ハルクが怒ったぞ〜....。」(笑)


U原くん、ものを大事にする子(^^)


彼のTZR250は、いつもぴかぴかで、コケ傷だらけのNか山のそれとは

対象的だった。

いつもふたりで走っていたが、二台並べてパークしてあると、同じ頃に買ったバイク

だとは思えず、俺たちはいつも「使用前、使用後」なんて言ってNか山をからかっていた。



...俺は昔を思い出しながら、気楽にツーリングを楽しんでいた。

東名高速も丁度、山間のワインディングで、快適なあたり。

100km/hくらいが気楽なペース。


平日とあって、自動車の数は少ない。トラックは大体昼間はあんまり走らないし、

この頃の東名は結構快適なロードだった。


バックミラーに閃光。


警察かな?とのんびりと眺める。

もとより100km/hで、この区間は4輪も80km/hだから、バイクで流れに乗っていても

捕まるはずもない。


と....

バック・ミラーに映ったそれは、丸い2灯のヘッドライトだった。



.......ん?......



と、思っている内にそいつはグングン近づいて、俺の後ろに迫る勢いだった。


俺は、ひょい、と追い越し車線に逃げた。


左手をちらり、とみると、紺と赤のストライプ。どこかノイジーな4ストの排気音。

FZ400Rだ。


ああ、なんだ、と...^^;

俺はのんびりとそいつを笑ってやり過ごす。

奴は、甲高い音を響かせて、全開で加速した。

シフト・ダウンしたのだろう。



ちょっと興味があったので、距離を置いてすこし観察。

いくら国内仕様のまま、とはいっても、400の4ストに付いて行くのはそれほど苦でない。


追い越し車線のまま、RZVのスロットルをひねると、あまり気の無い様子でV4ユニットは

もの憂気に加速。


道路の勾配も、ゆるい下りからすこし登りにかかっているあたり。

そのためか、FZ400の加速はそれほどでもない。


俺がついてくるのが判ると、奴は何を思ったか、目一杯回転を上げた。

背中越しの右腕と肩が、ひどく緊張してるのが見て取れるあたりから、あまり

上手じゃあないみたいだ。

上体を預けたままコーナー・ワークしている。


結構ヤバイな.....



俺はそう思いながらも、すこし走りたくなってきたので、シフト・ダウン。

スロットルを全開にして、スクリーンに伏せる。

先行していたFZにあっという間に追いつく。追い越す。

そのまんま追い越し車線をフル加速して、コーナーへ身構える。

登り、緩い左コーナー。

登り切るとやや曲率がきつくなり、勾配は緩くなる。

感覚的には下っているように見えるが、実は平坦線区だ。

コーナー中ほどまでて、レブ・リミットに近づく。

やはり国内仕様なので、8500rpm以上の伸びは悪い。

だが、回ることは回るので、こういう時は重宝するこの伸びだ。

クリッピング・ポイントでウエスト・アクション。

腕から抜重する。同時に気持ちステアを入れる。

フロントがすばやく回り込むから、合わせてステップを外へ蹴り出す。

腰は半分ほど、ハング・オフ。上体はマシン中央...

そのまま軽くバンクさせ、マシンが向きを変えたらスロットル・ワイド・オープン。

瞬く間にレブ・リミットに達するから、直ぐ、シフト・アップ。

直線的にコーナーをクリアする。ヘルメット越しに、カウルからの空気の流が激しくシールドを揺らす...

パワー・バンドだが、やはり輸出仕様のような胸のすく加速、じゃあない....

いつのまにか、FZ400の存在を忘れていた俺は、スロットルを戻し、振り向いた。

奴は、今コーナー立ちあがりラインを加速している所。

必死にスロットルを引き絞っている....


たぶん、コーナーの向こうの状況を知らないので、ブレーキングしてセオリー通りに

コーナーワークをしたのだろう、と思う。

ちょっと見、ここは下り勾配のように錯覚するし、ブラインド・コーナーだからだ。

この辺は俺の庭みたいなものだから、減速なしでいける、と踏んだ俺とは差がついても当然だ。


.....と...。


俺は、左サイドのエスケープ・ゾーンにいた高速パトに気付いた。

なに食わぬ顔で減速。

でも、カウルに伏せて目一杯頑張っていたFZ400のアンちゃんは、それに気付かない。

俺は、手を下に振って、「スピードおとせ、」とサインを送ったが.....



甲高いエキゾーストを残して、FZ400は俺を追い越し、

ついでに高速パトの横を全開で抜けてった...




あーあ.....^^;



しばらく行くと、路側帯に、FZ400と、高速パトが停まっていた。(^^)。


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