第13話 RZV納車前

日記 1985/9/x


RZV納車前...







勢いで注文したRZVだったが、1985年に'84モデルを探す、とあって

ちょっと時間が掛かっていた。



たぶん、どこかの店に下ろしたバイクを引き取る...という事だから

その引きとり値で交渉が難航してるんだろう。



ま、そんなことは俺には関係ない。



旧モデルを買った、といっても定価で買ったのだから。

なぜ、旧モデルにこだわったか、というと、この頃、'84型の方が

パワーがある、という噂が流れていたからだ。


(事実、二台で ヨーイ、ドン! とやると僅差がつくようだったが、

これは、イグナイターの進角特性が変わった、という事らしかった。

つまり、ピーク・パワーは変わらないが、途中がフラットトルクになった、

という事らしい。)


噂の噂だが、'84型のごく初期ロットのものは、例のエキパイの蓋すらなくて、

後ろバンクのマフラーの芯だけでパワーを抑えている、とも言われていた。

sれを某ヤング痲疹という雑誌が「スパナ一本で輸出仕様!」と書いたものだから...



運輸省(当時)が怒って、対策を命じた、という話だった。

あり得ない話じゃないが。



メーカーとて、いくらも売れない国内仕様にあんまり金かけたくないだろうし。





そんなわけで、俺は '84modelを待った。





それまでの間、よく例のNとCBXで走りにいった。

Nはニンジャ、俺はCBX改。



パワー的にはほぼ似たようなもので、Nはヘタクソだから(笑)

いい勝負になった。



この日も、水曜日、非番の俺は、バイク屋の仕事が休みのNを誘って、

いつものスカイライン・コースへ走りに行った。



まあ、俺たちのはレースというよりは高速ツーリングだから、

バトルにはなったりはしない。


そこは、暗黙の了解があって、相手の技量はちょっと走りゃわかるから

無理にヘタクソな奴を煽って、事故らせる、なんて

えげつない真似はこの頃の走り屋はしなかった。




そういう奴は、相手にされなくなったのがこの頃。


(例の沼津のTモータースのツーリングクラブには

そういうゲス野郎が居て、終いには恨みを買った

ために飲酒運転を警察にタレこまれ、免許取り消しになったらしい(爆笑)

見てるか?S井武彦さん?)



技量の低い奴を思いやらないのは男じゃない。

そういうガキ大将っぽい気風が残っていたのもこの頃だった。


まあ、最近じゃ仁義わきまえない奴も多いからしょうがないが。




で、俺はあきらかにヘタなNと遊んでたんだが、Nはマジで俺とバトルしてた

と思ってたらしい。



さ、走りの話に戻るか。




俺たちはいつものように箱根R1を流し、十国峠からスカイラインに入った。


料金所が見えなくなるまではゆっくり走る、というのも俺たちのルールだ。


で、いくつかコーナーを回ると、そろそろ前を走ってたNがヤリタクなったらしい。


俺は、6速に入ってたギアをいきなり2速まで落とした。

80km/h。


いきなり、フル加速。


ちょい、調子にのって、フロント・アップ。



前を走ってたNを追い越す。





Nは、慌ててシフト・ダウンし、全開。



回転を合さなかったので、テール振ってる。



ダッチ・ロールしてるNをほっといて、俺は構わず10000rpmまで吹かし

そのまんま、軽くブレーキングし、さっきから右にオフセットしていた腰を

シートに預ける。


16inchの前輪は、面白いように回り込む。


ゆっくりと、スロットルを開く。



じりじりと、テールが逃げながら、綺麗なカーブを描いて立ち上がろうとする。

コーナーの出口になったら、ハング・オンのままマシンを起こし

全開にする。



この当時のタイアじゃ、こうしないと滑って危ないからだ。

だから、ハング・オンも、大排気量車じゃそれなりの存在理由があった。


前輪が路面を離れ、ブルブルとハンドルが振れる。



バック・ミラーでNを見ると、ドリフトごっこをしてるので

さらに俺とは差がついた(笑)




...あれだけコケても、まだ凝りないのかねぇ...



Nのやっているドリフトごっこは、林道ツーリングなんかで

やっているあれと一緒で、タンクの上に乗っかって


リアの荷重を落し、フロント・ブレーキを引き摺ってバンクさせ

そん時に急にアクセル開く、というあれ。




オフロードならリーンアウトだから、滑っても問題ないが、

ハング・オンでこれをやると、テール流れた時のコントロールが難しい。


だから、コケル(笑)



それに、普通に曲がれるんならわざわざドリフトなんかしなくても

そのまんまアクセル開いた方が速いに決まってる。



で、遅い。(笑)




まあでも、みんな一度は通る道。

自分のテクに酔うのもまあいいだろ。


趣味なんだから。




俺も、XV750Eの時代は、テールスライドさせて遊んでたしな。




そう思いながら、Nの走りを微笑んで見ていた....




スカイラインは中間地点にさしかかり、数kmの直線に出る。


ここは、箱根の方からは下り坂なので、遅い車を追い越すにはいいが

オーバースピードになって、最後の右コーナーを曲がれない奴がよく事故る。



バンクが道路についているから、140km/h位でも慌てなきゃ大丈夫なハズ

だけど...




この日は、俺が先頭で、この前のコーナーを全開で抜けて。

スモーク・スクリーンのカウルに伏せ、アクセルを引き絞る。

タコがレッドを指すと、シフト・アップ。


下り坂を半分も過ぎない内に、180km/hメーターは振り切れる。


そのまま、5th,6thとシフト。



ここまで来ると、そろそろ減速の準備をしないと危険だ。

....と思い、カウルから起き上がると、すごい風圧。


230km/hは行ってるはずだな。JARIで236km/h出てるし。


と思い、スロットルを戻し、ブレーキング・ポイントまで自然減速。




視界の片隅を、朱色のニンジャが吹っ飛んでゆく。



...ブレーキが壊れたのか?!





Nは、いつもブレーキングの目標にしているレストランの看板を過ぎてから

フル・ブレーキ!



例によってタンクの上に乗っかってるので、リア荷重が少く。

後輪は白煙を吹き、右コーナーへと僅かにリーンしていたので

テールは左に振れる。



....転ぶ、かな...?



どう見ても、100km/h以上はでているはず。


あれでコケたら、無事では済むまい。





俺は、巻き添えを避けようとして早めにブレーキングして


Nのニンジャと大きく車間を取った。



Nのニンジャは、タイア・スモークを上げて。

ギリギリ、コーナーアウトのつつじの木を掠めながら右コーナーをクリアした。



速度が速いわけではない。


ブレーキングで腕を突張ってるから、前輪の舵角を妨げてるだけだ(笑)



で、テールスライド.. ったって、偉くもなんともない。

危ないだけだ。



俺は、立ち上がりでもたついてるNを抜き、次の左コーナーへと。




レストランの前をゆっくりと走り、ひと気の少いパーキングで休憩。




N は、俺の後からパーキングへ。



メイン・スタンドを掛け、ニンジャを停めた。



俺のCBXは、集合マフラーなので、サイドスタンドで。





「..なあ、Nさ、お前、危ないぞ。」


俺は、見るに見かねてそう言ったが,,,,






「へへ、ドリフト、決まってた?。」






.... アホに付ける薬はない、というが....






( 注;これもやっぱりマンガ「バリバリ伝説」の影響。

劇中では、主人公はブレーキングドリフトを駆使して峠のヒーローになるんだが..


漫画と現実がごっちゃになってるNの頭は、もはや「治療不可」。( 笑))






俺たちはしばらく休み、峠の茶屋で飯でも食おうか、という事になって。





「じゃ、いくぞ。」

俺は、CBXにまたがり、サイドスタンドを上げた。




N は...



視界から消えた。



あれ?





振り向くと、朱色のニンジャは黒い腹を見せて横になっている(笑)

新品のカウルも、傷になって。




Nは、ニンジャの下敷になっていた。




俺は、笑いをこらえられずに大声で笑ってしまった。




「だ、大じょうぶか... あっははは。」




N、怒る。



「笑うなよぉ。」





「笑うなっていわれたもな... わははは。」





下り坂になっているパーキングで、Nはメインスタンドを解除。


またいでやりゃあいいものを、マシンから降りてやってもんだから...



ハズミでニンジャが傾いて、50kgそこそこ、というNは

支えきれずにゴロリ。(笑)




ウインカー、カウリング類、バックミラー。




.. また、20万円コース、かな?




カワサキの部品屋も、Nのおかげで儲ったに違いない(笑)


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