第3話 RZVとの出会い(3)

RZVとの出会い(3)







1984/8/x





で、自分のCBXに乗り換えて、なんとなくほっとする。


確かに面白いマシンだが、RZVに乗るのはえらく緊張する。


まあ、これは全開走行すればなんでもそうだけど。

でも、RZVの怖いところはその全開走行がたまらなく魅力的だ、ということ。





うーん悩むな。





谷和原インターを出て、利根川沿いの農道を走る。




今夜は、Yの家に泊めてもらうのだ。

Yの家、というか病院の宿舎なのだが、医師には一戸建ての家が寮としてあてがわれる。



「やあいらっしゃい、よくきたね。」「お邪魔します。」


Yのお父さん。白髪のおじいさんだが、温厚でよい人。

とても、RZVを転がすようには見えない。




で、今日はYの家に泊めてもらうことになった。



この茨城県のこのあたり、とても道路事情がよい。

北海道のように、平原に道路がだーッと伸びていたりする。

マッド・マックスの最初のシーンみたいに、向こうから変な奴が走ってきそうだ

(代わりに竹槍のクレスタなんかが走ってきたりするが。)




んで、明け方なんか寝ていると、フル・スロットルで吹けきった音が近づいてきたり。

面白いので、道路に出てみていると、鈴鹿サーキットのストレートよろしく

GSX-Rが全開で走ってきたりする(ドップラー効果といっしょに。)

いやーとんでもない。この土地。

俺は、いっぺんで茨城が好きになった。



ここは日本か?






翌日。



「おい、煙突掃除に行こうぜ!。」と、Yが言う。

Yのお父さんのRZV、ゆっくり走っているのでマフラーから油がたれている。

そこで、一気に“掃除”しよう。というのだ。


まだ朝早い関東平野は、靄がかかっている。



2台並んでパークしてあるRZVを見ると、なんだかそこだけレースの雰囲気。



キーを受け取り、RZVに跨った。




Yは、バリー・シーン・レプリカのヘルメットをかぶり、エンジンをかけた。




俺も、キックする。




プラスチックのスティックを立てる、奇妙な形のチョーク。

これは、モトグッチ・ルマンなんかに似ている。




あっけなくエンジンは始動する。




2台のエンジン音。




どちらも同じ仕様のはずだが、微妙にエンジン音が違う。




お父さんの方のRZVは、すこしこもった感じだ。

やっぱり、オイルが溜まってるのか?





Yの後ろについて、だだっぴろい国道に飛び出した。

車はほとんどいない。




昨日は高速だったから、あまりよくわからなかったが、

このRZV、かなり低速では軽快なハンドリング。

しかし、全開走行すると急に重くなる。



....なんでだ?




利根川沿いのワインディングを結構なペースで駆けぬけ、土手道を

昇り降りしているうちに谷和原インターに着く。



もう、マフラーのオイルが燃え始め、白い煙が出始めている。




結構、このRZV、個体差があるようだ。

Yのマシンは、全開にすると振り落とさんばかりに加速し、ピーキー。

前輪に荷重するのを怠ると、1速ではフロントが浮くし、2速でも....。


でも、この御父さんのマシンはそんな事もなく、スムースに加速する。



ならば...と、6000rpmでクラッチ・ミートする。




瞬間、フロントが浮くが、持続しない。


やっぱり、あたりはずれがあるらしい。



バックミラーでちら、と後ろを見ると、昔のH1のようにオイルで真っ白だった。


ランプ・ウェイをかけ昇り、今日は下り方向に向かう。



Yの背中を追いかけ、フル・スロットル。



いかにもガスを食いそうな吸気音が楽しい。



スリップに入り、しばらく奴に引っ張ってもらおう....。






オートルーブの匂いが、ツーンと鼻につく。


がら空きの高速を、二台のRZVはすさまじい加速で。


排気音がハモる。



ふと、気付くと、ノーマルの速度計はとっくに指針がスケールアウトしていた。





カウルに伏せながら、どこまでも続くストレートをにらみ。

空気の質量を実感する瞬間。


6thまでシフトし、回転計はそれでも勢いよく10000rpmを目指して。




明け方の高速は、いつ走っても楽しい。



ちょっと、バトろか?


俺は、スロットルを戻したYの脇をすりぬけ、ストッパーまでスロットルを引き絞る。


緩い、下り右コーナーに、腰だけ軽く落とし、そのまま突っ込む、


相変わらず重いハンドリング。



孕むこと、予測して追い越し車線から入ると、Yがアウト・コーナーから。



...おっ..。



瞬間、緩んだアクセル。




Yは、全開でアウト・コーナーを駆け抜けてゆく。




慌てて、フル・スロットルにし、カウルの内側に潜る。

が、同じマシン同士では、一度ミスるとなかな挽回は出来ない。



...うーん、面白いな、イコール・コンディションってのは。






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